舞い散る桜の木の下で【短編】【TS転生】
安太レス
第1話
―満開の桜の花の下で、寄り添う2人の美しい母娘がいた。
母親は20代、いや、見ようによってはまだ10代にも見えるほど若く美人だった。
そして娘の方は、まだ小学校にもあがっていない可憐な幼い少女である。
二人は地面にビニールシートを敷いて、仲良く腰を降ろしている。
公園は咲き乱れる桜の花見でそこかしこに似たような家族連れがいるが取り分け仲睦まじく見えた。
母親は、何か思いを馳せるように、舞い散る桜の花びらを見つめていた。
白いワンピースに身を包んだ少女は、そんな母親を見上げた―そして、その小さなあどけない唇を動かした―
「よう、双葉。本当に良かったのか? 俺みたいなのが娘でよ」
「何言ってるの。あたしにとって世界で一番好きなのは、お兄ちゃんよ」
双葉がぎゅっとオレを抱きしめた。
「もう一度お兄ちゃんと、こうやって一緒にお花見できるなんて夢見たい」
突然の交通事故で、この世を去ったオレが再びこの世に生れ落ちたのは、10年後のことだった。
オレは妹の双葉の娘となって再び生を受けた。
兄妹から母娘の関係に変わったが、オレと双葉は再び血の繋がった肉親となったのだ。
「あたし、ずっとずっとお兄ちゃんが生まれ変わるのを待ってたんだから」
「へえ、オレはあっという間だったんだけどなあ。気が付いたら双葉のお腹の中にいてさ」
「ずっとお兄ちゃん探してた。もう他の女が産んでるじゃないかって心配したわ。あたしが産めて良かった」
「まったく無茶しやがって」
ブラコンだった双葉は、オレの突然の死に悲嘆にくれた。
再びオレに会うため、八方手を尽くし、やがて怪しい呪術に手をだした。
オレの魂を新しい命に転生させる術だ。
「まあトカゲやゴキブリに生まれ変わったかもしれないしな」
通常はしばらくこの世を彷徨った後、死んだ者の魂は浄化され新たな生き物に生まれ変わるらしい。
その際全ての記憶はなくなり、新しい生き物となる。
だがそうなる前に双葉は、オレの彷徨っていて魂を呼び戻し自分の胎内に宿したのだ。
だからオレは前世の記憶も持っているのだ。
「でも仰天したぜ、オレ、女に生まれ変わってるしさ」
「残念だけど、男の子と、女の子に産み分けするまでは、できないのよ」
そのことに気付いたのは、どうにか一人で立つことができるようになって動けるようになってからだった。
双葉のおっぱいにも飽きてきて、他のものも食いたくなってきていた時期とも重なる。
行動の自由が出てきていた。
それまでは糞も小便も垂れ流しで、それどころじゃなかった。
もうオムツは嫌だと、おまるに座ってやろうとした時に、気付いた。
股間に大事なものがついていない。
オレは女に生まれた、と。
「やたらとオレに着せられる衣装が、ピンクや淡い色彩で、フリルのついたベビー服だったのでおかしいと思ってたんだよな」
「名前は同じアキラだからねぇ」
「まぎらわしいぜ」
「アキコちゃんの方が良かったかな?」
「それも、なんか変だな」
この自分の名前でないとなんか違和感がある。女に生まれ変わったとしても、だ。
ただ―
おかげでもう、エロ本見てハァハァすることは無いかと思うと少し残念な気がしないでもない。
そういえばオレが死んだ後、ベッドの下の大量のエロ本やビデオ、ハードディスクの データはどうしたのかふと気になったが、
まあいいか。
もう10年前のことだ。
「あ、戻ってきたわ」
「お、随分遠くまで言ってきたんだな」
飲み物とアイスクリームを両手に、オレ達の方に危なっかしそうに歩いてくる一人の男が。
双葉にとっては旦那、今のオレにとっては父親だ。
風采は悪くはないが、オレから見るとちょっと頼りなさそうに見える。
双葉もどういう理由であいつを選んだのかよくわからん。
「でもさ・・・・・・双葉。お前俺を産んだってことは、あいつとゴニョゴニョしたんだろ?」
「まあ、アキラちゃんたら、おませさん―」
双葉は苦笑いし、はぐらかして、あたまを小突いた。
「全てこのためだけに、結婚したって言ったらどう思うだろうな、あいつ」
「ふふ、何言ってるの? もちろん、あの人『も』好きよ。毎日夜遅くまで働いて稼いで、あたしとアキラちゃんを養ってくれてるんだから」
しかも今日はようやく取れた休日を家族サービスのために、遠くまで車運転してピクニックだ。
愛する妻と娘のために、泣けるな。まさに夫の鑑だ。
「それもそうだな、ちょっとサービスしてやるか」
「うふふ、お帰り? あなた」
「わあ、アイスクリームだぁ」
双葉はオレの手を引いて、そいつの元に寄った。
「お疲れ様、ありがとう、あなた」
双葉の言葉に、くたびれた顔をシャキッとさせ、なんでもないように気丈な夫を演じてみせた。
オレも旦那に駆け寄ったら、抱っこされた。
そいつの顔の前で、取って置きの笑顔を作った。
オレが女の子に生まれ変わってからマスターした技術だ。
「パパっ、大好き」
そして、そのほっぺたにキスをしてやったら、たちまち、その顔を綻ばせた。
―幸せな家族の姿がそこにあった。
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