第9話

「玲香!」

静留は玲香の腕を掴む。

走った為、息は切れていた。

「…離して」

「はぁ?てか、急に何だよ…」

「離して!」

ぐいっ、と腕を離そうとする玲香。

益々怪しがる静留。

「だーかーらー!何が不満なんだよ?!」

「……ッ!」

静留の問い掛けに答える事無く、玲香は走った。

唯呆然と静留は見つめていた、遠ざかる背中を。


 familiarのアジトにて――

「…あれ、どうしたの、瑞樹」

「こんなとこにおったら風邪引いても知らんぞ?」

マオ、ルカは倉庫裏に居た瑞樹を発見した。

「マオさん…ルカさん……」

瑞樹は俯かせていた顔を上げた。

「泣いてるじゃん…何があったの?」

そっ、と瑞樹の頬を濡らす涙をマオは拭った。

「……」

黙る瑞樹に、マオ達は、やれやれと首を振った。

「取り敢えず場所変えるぞ」


 「ほらよ」

場所は変わって食堂。

ルカは瑞樹に珈琲を渡した。

「……ありがとうございます…」

すん、と鼻を鳴らす瑞樹。

「瑞樹さん、大丈夫ですか…?」

「瑞樹さんを泣かせた奴に制裁を与えなければ!」

「…ありがとう…皆…」

瑞樹の周りには、マオ、ルカ以外にも沢山の隊員がいた。

マオやルカ、Dioの他にも瑞樹は皆に慕われている。……否、隊員達は他の隊員を家族の様に思っている、だ。

「…僕、あんな、静留さんを、あんな風に、扱ってるのが、」

「うんうん。ゆっくりで大丈夫よ」

マオが瑞樹の背中を撫でる。

「どうしても、許せなくて、あんなのが、幼馴染なんて、うぐ…っ!」

「瑞樹、静留さん大好きだからなぁ…」

ルカが、うんうんと頷く。

「……静留さんは、あんな奴の何処が良いのかが分からなくて…」

「「本当に其れ」」

息が合うマオ、ルカ。二人は一度、玲香に会った事がある。

其れ故に、瑞樹と同意見なのだ。

「マオ様、ルカ様、瑞樹がそんなに言うなんて…興味が湧いてきた…!」

きらきらと目を輝かせるのは、瑞樹と同期で同じく幹部候補生のロイ。

ロイはアメリカ人と日本人のハーフで、父親の愛人の子だったらしく、ロイの母親…つまり、愛人が病死してから父親の家庭へ引き取られた。だが、其れが原因で父親の妻、腹違いの兄から虐待を受けていた。

父親は知らないふりをしており静留達が保護しなければ衰弱死する寸前だったのだ。

ストロベリーブロンドの髪を靡かせ、軍服に身を包むロイは様になっていた。

「会ってみたいなぁ…瑞樹を泣かした其の『幼馴染』に!」

ギラリ、とホリゾンブルーの瞳が輝いた。

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