悪いがヒーロー、俺達ヴィランが主役だ
中太賢歩
始まり
第1話
『速報です。ヒーローが暴れていたヴィランを捕縛しました。警察は、ヒーローに賞状を授与しました』
『またしてもヒーローが活躍しましたね、佐々木アナウンサー』
『流石ですよね』
この世界は間違っている。
ヒーローは偽善者だ。
ヴィランは、ヴィランこそが、真の善者なのだ。
そう、彼…道永静留は思った。
「静留、遅刻するわよ」
「分かってるよ、母さん」
静留は食していたパンを食べ終え、登校する為玄関に向かう。
何故、静留がヒーローを忌み嫌い、ヴィランを讃えるのか。
其れは、幼少期に原因があった。
静留は五つの時、迷子になった。見知らぬ土地で。幼かった静留は泣きながら助けを求めた。
其処に偶然、ヒーローが通り掛かった。
これ幸いと、静留はヒーローに助けを求めた。
然し、ヒーローは言った。
「唯の餓鬼じゃねーか」
ヒーローは冷たい目で静留を見下ろし、嘲笑った。そして、静留を見捨てた。
直後、一人のヴィランが静留を見つけた。
静留は、ヴィランだと怯えた。
だが、其のヴィランは違った。
優しく静留を抱きしめて言ったのだ。
怖かったね、と。
「大丈夫だよ、もう怖くないよ。パパやママの所に行こうね」
静留を抱き抱え、ヴィランは上空に向かって飛んだ。
無事に静留は家族のもとへ戻れた。
…が、ヴィランが言った一言が、静留は忘れなかった。
「良い?私が助けたのは内緒よ」
「どーして?」
「私はヴィラン。君のパパ達が私を怒るから」
「なんで?」
「…ヴィランはね、ヒーローに倒されるのが仕事。ヴィランは皆に嫌われてるから」
寂しそうに笑って、ヴィランは飛び立った。
静留は、この日の出来事を忘れなかった。
「静留!」
「竜斗」
静留に話し掛けて来たのは、クラスメートであり同じくヴィランに恩がある男、十六夜竜斗。
「なぁ、竜斗」
「ん?どうしたんだ?」
明るく笑う竜斗。
「…俺、ヴィランになる」
「…へ?」
「ヴィランになって、ヒーローは間違っているって…世界に知らせるんだ」
静留の眼がギラリ、と輝く。
竜斗は、ニヤリと笑った。
「良いじゃん!俺もなるなる!」
「…良いのか?」
ヴィランになるとは、社会から見たら『異常者』として見倣され、精神病棟に強制入院も有り得る事なのだ。
「え?良いよ?だって、静留だけヴィランなんて、狡いじゃん」
きょとん、として言う竜斗。
静留は、思わず顔が綻んだ。
――最強のヴィラン結成前日の事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます