第37話 定期報告と妹の病状悪化
ムルティスは、自宅に戻ってから、ディランジー少佐に定期連絡した。
『こちらハウンド。符丁の設定されていない話題で、重要情報があります』
『こちら本部。これ以降の情報は、通信終了後削除することにして、重要情報を受け取る』
『BMPのボトルに刻印の消し忘れがありました。製造元は政府の国有工場です』
『なんだって!? それはこちらでも把握してない情報だぞ!』
ディランジー少佐がこんなに驚くことは、戦時中ですらなかった。
それぐらい衝撃的な事実だったのだ。
ムルティスは、ディランジー少佐が混乱しないように、丁寧に説明していく。
『気づいたのは、たぶん俺だけです。仲間には言ってません』
『よくやった。もしかしたら、Aにつながる情報かもしれない』
『さらにいえば、うちの社長が犯罪組織の元締めで、政府の工場からBMPを引っ張ってくるみたいです』
『なんてことだ。手持ちの情報に大幅な漏れがあるということは、この事件、闇が深いぞ……』
ディランジー少佐は、驚きを通り越して落ち込んでしまった。
彼自身の能力に問題があるというより、政府内と警察内に内通者がいるせいで、情報収集の能率が低下しているのだ。
少佐なんて階級で、バチバチに情報を扱ってきた人にしてみれば、多少の不利なんて跳ね返せると思っていただろうから、いまの状況はショックなはずだ。
そんな相手に追加で情報を調べてもらうのは心苦しいのだが、もう一つ知らせておかなければならない情報があった。
『ゲテラド神聖国の民族系武装組織に、やけに腕のいい集団が合流していました。彼らは傭兵集団のようですね』
『詳しいことを教えてくれ。もしかしたらAにつながる情報かもしれない』
ジャラハルについて教えるべきかどうか迷った。
だがディランジー少佐に教えたところで、暗黒の契約書に関わっていなければ捜査の手は回らないだろうと考えて、そのまま話した。
ディランジー少佐は、傭兵集団についても把握した。
『事情は理解した。傭兵たちについては、頭の片隅に留めておこう。では今後もがんばってくれ、いやがんばらなければならないのは、重要な情報を見落としてた私のほうだな……』
こうして今回の定期報告は終わった。
いつもの流れで、妹のミコットと電話しようとした。
だが、妹のスマートフォンは呼び出し中のままで、誰も出ない。
てっきりお風呂にでも入っているかと思ったら、実家の固定電話から連絡が入った。
母親が、いまにも泣きだしそうな声で、こう伝えた。
「ミコットの病状が悪化してね。今日の午前中に入院したんだよ」
入院という単語を聞いた瞬間、ムルティスは軽いめまいを起こして、目の前が真っ黒に染まってしまった。
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