タラタラしててもいーんじゃない?!

@harurudao

ステップ0 エベレストからマリアナ海溝に飛び込んだ

僕は秋津ナギ。昼休み、何の変哲もない教室の中でこれでもかというほど落ち込んでいる人間だ。


光輝く高校生生活を送れる・・・なんて甘すぎる考えだった。テレビでよく出る超甘いドーナツ、あれに黒蜜かけたくらい甘かった。


単刀直入に言えば「彼女にフラれた。」


中学校の頃から付き合っていた最愛の彼女麦野メグ、彼女に今朝別れを告げられたのだ。しかもL〇NEで。せめて対面で言ってよ?!

このどうしようもない気持ちをどこに投げればいいのさ!と教室の隅で頭を揺らしていると、その頭に何やら生暖かいものが。

それは同級生の森村トオルの持つ使い捨てカイロだった。


「うっすc組の元カレさん。傷は癒えたか?」


「この様子で癒えたと思ってるのか?もし思ってるというのならお前は病気だ。近くの病院を紹介してやろう。てかカイロが生ぬるいんだよ今4月だぞ?。」


トオルは中学からの親友で根っからのオタク。さらに人当たりがいいというんだからすぐに気が合った。僕みたいなめんどい奴にも話しかけに来れるのは本当に尊敬している。しかし今はほっといてほしい・・・そう思っているとさらに奴が話しかけてきた。


「にしても中学からのアツアツカップルが破局とはね。新聞部にこの騒動のまとめを出したら・・・一面見出しはくだらないな。」


「やめてくれよ・・・僕はいいとしてもメグにすげえ迷惑かかっちまうよ。」


「あー...麦野さんに気ぃ使ってんのね。別れたのにまだ彼氏ヅラか?」


トオルがいたずらに笑いながらカイロを俺の頭にぺちぺちとたたく。こいつが寒がりなのはいいとしても今は4月だぞ。昼休みの高くから照り付ける太陽を浴びながらカイロなんか食らっては溶けてしまう。こいつの身体は一体どうなってんだ。

そんなことを思い窓を見てたらトオルが真剣な眼差しで


「まあ、お前の失恋にも興味はあるけど、それが目的じゃなくてさ。お前あれ、忘れてるだろ。」


と、トオルが指をさしたプリントには「学校図書館管理委員会:本日12時から。時間厳守」の文字が。今日は僕が所属した学校図書館管理委員会。通称カンカン会の初めてのミーティングだった。


「は!?え!?忘れてた!!! って昼飯食ってねえどうしよ?!?!?!」


「委員会終わってから購買で買って来いよ・・・転ばないよう気を付けていけよ。」


ミーティング1回目から遅刻は流石にやばい。そう思い焦りながら教室を出ようとする僕に対し、いやらしい目をしたトオルが口角をあげながら言ってきた。


「a組のカンカン会、担当麦野さんだってよ。じゃ、階段転ぶなよ。」


そんな声は僕に全く届いていなかった。まさかここであいつの声を聞いていなかったせいで後々とんでもないことになるとは思いもしなかった。


「全員いるな。ではこれからミーティングを開始する」


カンカン会担当の数学教師中野先生が無機質な声を響かせながらミーティングを開始する。何とか滑り込むことができて本当に安心した。あまりにも焦りすぎてすごく適当な席に座ってしまったが。


「本日の議題は図書館内の治安についてだ。最近大声で話しながらたむろする奴がいたり自習用スペースで昼寝をする奴がいたりなどと様々な問題が跋扈してる。それについてどのような解決策が有効か、隣の者と10分ほど議論してくれ。」


その時の僕は4階から1階まで駆け降りてきたせいで息は途切れ途切れ、眼鏡もずれてみっともないやつ度レベル100を体現したような見た目だったと思う。それでも迷惑をかけないようにと思い話しかけた


「すみません、僕のことはあまりお気になさらずに。それでは話し合い始めましょう。」


そう言い終わるのとほぼ同時に顔を上げる。そうしたときに目に入ってきたのは・・・


「ナギくん・・・?]


「メグ・・・なんで?!」


頭の中には?でいっぱいだった。どのくらいかというと、この時の僕の脳内はきっとタンパク質より?の方が多かったに違いない。


「そこ、議題に関係のない会話はしないように。」


どちらも相当大きな声を出してしまっていたのだろう。中野先生が軽く注意する。メグはすかさず「すみません」と一言謝り、それに続くように僕も「すみませんでした」と頭を下げる。


「以後気をつけてな。」そう優しく声をかけて去る先生を見送ってから僕はもう一度声を出した。もちろん声のボリュームをだいぶ下げて。


「メグ・・・なぜ君がここに?」


するとメグは、付き合っていた時、デートでいつも見せてくれていたような屈託のない笑顔で


「関係ないことは話さないようにしましょう。1回目のミーティングから先生に2回も注意されたら、流石に恥ずかしいよ?」


といった。

その時僕は実感した。僕はもう本当にメグとは別れたんだと。

その後はよく覚えてない。かりそめだらけの言葉を並べて、形だけのミーティングを終わらせ気が付いたら教室に戻ってきていた。


僕が戻ってきたのを見つけるとトオルが


「お帰り。ミーティングは間に合ったか?」


と一言


「ああ、おかげさまで間に合った。そして・・・」僕が言いかけたところで奴が割って入る。


「麦野さんと話せたか?」


「お前、なぜ知って・・・」


「お前が教室出るときに言っただろ・・・聞いてなかったのか?」


そこまで言われて僕はようやく思い出した。こいつ、なんか言ってたわ。


「いや・・・もうまるで他人かのような態度で淡々と会話してた」と言うとトオルは首をひねりながら「そうか」とだけ言った。


「でも・・・」僕はこのことを話すか迷った。こんなこと言えば数少ない友達であるこいつまで失くしてしまうかもと思ったからだ。そんな表情を悟ったのかトオルは


「どうした?なんでも言ってくれ。話聞くだけなら俺でもできるからさ。」

と一言。僕はこいつのやさしさに涙が溢れそうになった・・・いやそれは過大表現だ。少なくとも、少し心は軽くなった。そうしてゆっくり僕は思ったことを話し出した。


「引かれるかもしれないけど腹くくって言うわ。僕まだメグのことが好きなんだ。今日久しぶりに正面から顔見てさ、すっごい可愛いって思ってしまうんだ。顔だけじゃない。優しいところもそのままで、中学の時初めて見たときみたいな、一目惚れに似た何かが頭の中で走ったんだ。そこでやっと気が付いた。僕、またメグに告白して、付き合いたいんだ・・・」


そこまで話すとトオルは笑いながら言ってくれた。

「いいんじゃねーの?誰が誰を好きになろうがいいだろ。お前はその期間がちょいと長いってだけだ。頑張ってみろよ。それに・・・」というとトオルは首を横に振り

「すまねえ、言いたいこと忘れちまった」と一言添えた。


トオルの言ったことは大した名言でもないが僕はその言葉に心が救われた。


「サンキュ。僕、メグにまた振り向いてもらえるような男になるため頑張るわ。」

そういって僕は次の音楽の準備をして教室から出ていった。




「おっと、もうこんな時間か、俺も美術室行かねーと。」


____________________________________________________________________________


森村君が美術の授業のために私しかいない工作室のへ入ってくる。

森村君は私を見るや否や


「麦野さん、あいつ選択授業行っちまったけどいいのかい?」


と私に気を使うように声をかける。


「いいの。今の私なんかがナギくんに顔を見せることなんかできないよ。」

私は美術の準備をしながら森村君に話しかける。


私は麦野メグ。中学生の時からずっと付き合っていたナギ君・・・秋津ナギ君を今朝振った元カノだ。

私はこの学校に入学して早々とてつもない秘密を3つも抱えて生活している。


そのうちの1つだけは中学の頃からナギ君との共通の友達で、とっても信頼できる森村君に相談したのだが・・・


「まさか麦野さんがあいつのことをねえ・・・あいつとさっきまで話してたことの内容、授業終わったら詳しく話すよ」


「ありがとう。本当に助かります・・・」


そう、ナギ君を振った女であるこの私麦野メグは・・・

ナギ君のことが、大好きだ。

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