サファイア秘話 シャム猫シンのぼうけん

 その昔、ビルマ(現在のミャンマー)にシン、という緑色の瞳をしたシャム猫がいました。

 シンは実はある高僧を守るために神から遣わされた、シン・神獣だったのです。


 ビルマの王は賢君だったので平和であり、シンも普通の猫のようにのんびりと日向ぼっこをし、充実した日々を送っていました。

 飼い主の高僧もシンに惚れ込み、厳しい修行の合間には必ずシンと遊びました。

 普段キリリとした高僧の目もシンの前では垂れっぱなしです。

 シンも愛されていることを感じ取り、お腹を見せてゴロニャンしたり、その神通力の無駄使い全開で応えます。

 カワイスギクライシス!


 高僧ムンハの仕えるラオツン寺院には黄金の髪とサファイア・ブルーの瞳を持ったツォン・キャン・クセという女神が祀られていました。


 ビルマ国王の威光が翳りを見せ始めると、各地で盗賊団などが出るようになってきました。

 「おい、あの寺院襲おうぜ、立派な寺院だから金銀財宝がたんとあるに違いねえ、坊主丸儲けと言うからたんまり貯め込んでいるだろうさ。」


 ラオツン寺院最大のピンチ!


 あたりが暗くなった頃、盗賊団は大人数で寺院に押し入りました。


 高僧ムンハは盗賊団を諭しましたが聞く耳を持たずムンハを投げ飛ばしました。


 シャム猫シンはむくりと起き上がり、盗賊団に近づきます。


 「おいおいなんだ、この可愛いシャム猫は、こいつは高く売れるぜ、捕まえて帰ろう。」


 そう言って首魁が手を伸ばしたその時!


 シンは大きなあくびをしました。



 緑色の瞳で盗賊団をじっと見つめます。


 静かに見つめてくるシン。


 盗賊団たちは冷や汗を流して動きが完全に止まる。


 物理的な大きさは変わらないのだが、盗賊団からはシンが恐竜ほどの大きさに膨れ上がったような錯覚と殺気に恐れ慄いていた。


 シンが盗賊団にじゃれつく。


 盗賊団には怪物が飛びかかってきたように感じた。


 首魁の胸に爪を立てる。


 首魁は袈裟斬りに身体を割かれたような錯覚に襲われる。


 「ヒィ!」


 盗賊団はてんでバラバラに逃げ始めた。



 こうしてシャム猫シンは高僧ムンハとラオツン寺院を守ったのである。


 この後、この話を伝え聞いた各地の盗賊団は二度とラオツン寺院に近づくことはありませんでした。


 女神ツォン・キャン・クセは勇猫シンの忠誠を讃え、自分の目と同じサファイアブルーの目を与えました。


 こうしてサファイアが忠誠の象徴となったのです。

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