アメシスト秘話、突然ですが異世界転生して神になりました。

 僕の名前は馬越ディオニューソス、友達からはDIOディオと呼ばれている。


 父はワイン醸造家じょうぞうかで日本一美味しいワインを造り出すべく頑張っている。

 そんな父だが、酒と女には節操せっそうがない。

 僕も例に漏れず、実は父がヨーロッパ視察に出かけた時に現地の女性を妊娠させ、生まれたのが俺、というわけだ。


 まあ、生まれてしまったものは仕方ないし今更文句を言っても始まらない。

 母は産後の日だちが悪く、俺を産んですぐ亡くなったから顔も見たことがないし写真以外は知らない。

 義理の母は自分の子のように愛情を注いでくれたから母は義母だと思っている。

 

 というわけで30歳になった俺はワイナリー醸造所の副社長として日本一のワインを作るべく頑張っているところだ。


 「父さん、月野商事に営業に行ってくる。」


「おう、行ってこい、今年のワインの出来も上々だと社長うさぎに言っておいてくれ。」


 月野商事はうちのワインの販売を一手に引き受けてくれている大きな商事会社だ。

 そこの女性社長は父さんと友達らしい。


 「こんにちわー馬越ワイナリーです。」


 「こんにちはDIOさん。」


 受付嬢の女性は気軽にDIOと呼んでくれるので緊張しなくていい。


 いつものようにノックして社長室に入る。


 「どうぞ」


 の声に部屋に入ると美しいほっそりした女性が迎えてくれた。

 社長の秘書をしている「雨野雫」あめのしずくさんだ。

 実は僕は密かな恋心を抱いている。



 「あれ、社長うさぎさんは?」


 「それがね、急なトラブルで少し出てるの、多分戻れると思うからDIOさん、少しこちらで待ってくださいますか?」


 なんと、雫さんと二人っきり、受付では何の緊張もしなかった僕もドキドキしてきた。


 雫さんが砂糖なしミルクたっぷりのコーヒーを持ってきてくれる。

 もう僕の好みもバッチリ知ってもらっている。


 アプローチしたいけど、僕は名前負けというか、ワイン大好きで飲み過ぎ、ぽっちゃりしているから気後れする。(近況ノートに俺のイケてるころの写真肖像画載せときます。笑笑)

 はーあ、お食事くらいなら誘ってもいいかなあ。


 しばらく待ったが社長うさぎさんは帰ってきそうになかったので今日はおいとまする。


 帰りは雫さんのことばかり考えてぼーっと歩いていたら僕の人間界での存在は途切れた。


****


 気がつくとなんかすごい神々しい筋肉おじさんがいた。


 僕は全身血まみれだったが痛くはない。

どうやら血は筋肉おじさんのもののようだ。


 「ダレガ筋肉オジサンヤネン。」


 筋肉おじさんは僕の思考を読み取ってツッコミをかます。


 「ゼウス様、お手当を」

 薄衣うすぎぬの女性が近寄り傷口を縫い合わす。


 「ディオニューソスよ、よくぞ無事に生まれてくれた、お前は私の息子だ」


 「はぃー?」


 俺は要領を得なかった、

 なぜ僕の名前を知ってるんだ?

 まてよゼウス?



 「ええええ〜!」


 どうやら俺は神の子として転生してしまったようだ。


 しばらく放心状態ほうしんじょうたいだったが、だんだんと事情がわかってきた。


 筋肉おやじは自分の火遊びで大火事を起こし、それに巻き込まれそうになった俺を助けるために自分の身体を切り開いて中に押し込めて助けたらしい。


 まあ、こんなことになったが文句を言っても仕方がない。

 ここでも俺にできることをするだけだ。


 この神の世界にはどうやらワインというものはないみたいだ。

 となればディオニューソスにできるのは一つだけ。

 そう、現代チート知識を使ってこの神の世界にワイン革命を起こすことだ。


 何年もかけて最高のブドウを栽培するところから始めて神世界一のワインを作る。


 俺のワイン醸造家とてしての名声もゼウスの婚外子こんがいし烙印らくいんに負けないくらいになっていた。

 この時から俺は少し増長ぞうちょうしていたのかもしれない。

 もしくは地球への思い、雨野雫あめのしずくさんに何も言えなかったことへの後悔こうかいからかもしれない。

 酒を飲んでは暴れ、猛獣を飼って他の人や神にけしかけたり、あちこちで狂乱酒宴きょうらんしゅえんを開いてひんしゆくをかったり、いつのまにかそんな神になっていた。(※酒神バッカスの神話参照)


 ある日、父ゼウスに連れられて月の神ディアナの神殿に来た。


 俺は目を疑った。


 月の女神ディアナの侍女じじょの一人がなんと雨野雫さんと瓜二つなのだ!


 「雫さん!」


 その侍女に声をかけたが怯えるような顔をして女神の後ろに隠れる。


 仕方がないことだが、俺の悪名もここまで届いているようだ。


 月の女神ディアナが尋ねる。


 「酒神バッコスディオニューソスよ、この者を知っておるのか?この者は私が一番可愛がっておる侍女でアメシストという。」


 「月の女神ディアナ様、どうかこの私DIOディオニューソスにアメシストをめとらせてください、苦労はさせません。」


 「これ!ディオニューソスよ、いきなり不敬であるぞ!控えよ。」

 ゼウスはびっくりしてディオニューソスを押し留めた。


 「月の女神ディアナよ、不肖の息子が失礼をした、だが息子も酒神としてワインの普及に努めるなど実績も上げておる、侍女を娶るめとる件、考えてはいただけぬか。」


 「酒神バッコスよ、そちの酒癖さけぐせの悪さは神界にも轟いておる、3年3月の間酒に酔って問題を起こすことがなければこのアメシストをつかわそう。それで良いか。」


 「それでよろしゅうございます、決して約定やくじょう違えたがえません。」


 俺は本気で酒断ちを決意した。


 そして3年間一度もワインを口にすることなく過ごした。


 ワイナリーの方も順調で神界最高のワインもあと一歩というところまで来た。

 はずであった。


 「酒神バッコス様、最近、うちのワインの味が落ちています。」


 意を決した醸造担当者が自分の首に短剣を当てた状態でバッコスの前に跪く。

 神の怒りを買ったら直ちに自害する覚悟だった。


 月の女神ディアナとの約定は問題を起こさないことだ、飲まないと決めたのは自分だからここで飲んでも約定破りではない。


 最高の出来のはずのワインを口に含む。

 それは安物の大量生産品の味がした。


 「何だこれは」


 バッコスは、酒を断つために、3年間一度もワインを口にせず味のチェックも行わなかった。

 もともと現代チート知識で醸造してバッコスの舌で持っていたワインである。

 バッコスが自らチェックしなければ味が落ちて当然である。


 バッコスはまずいワインを飲んだ、飲み続けた。

 3年間ワイン断ちした反動と、ショックが重なり、そして品質の悪いワインを大量に飲んだことで悪酔いした。

 そしてストレス解消にとんでもないことを思いつく。

 へへへ、そうだ、今から従獣を連れて外出して最初に会った人間を食い殺させよう。

 雨白そうだろ。(※酒神バッカス神話の記述参照)


 ****


 同じ頃、月の女神ディアナの侍女アメシストはバッコスの屋敷を訪ねようとしていた。

 3年間ワイン断ちしているという話はアメシストのところにも伝わり、そこまで自分を思っていただけるなら、と考えるようになっていた。


 3ヶ月後には嫁入りするのであればもうお会いしてもいいかなと。

 月の女神ディアナも心よく認めました。


 少しおめかししたアメシストを連れて月の女神ディアナはバッコスの屋敷に向かいます。


 ****


 突然


 真っ赤な顔をしたバッコスと従獣が屋敷から出てきて、事前に命令を受けていた従獣は最初に目に入ったアメシストを食い殺そうと飛び掛かります!


 「や、やめろお!」

 バッコスの命令も間に合わない。


 咄嗟とっさに月の女神ディアナが神杖しんじょうを振り、アメシストを白く透明で硬い石に変化させる。


 従獣の牙も歯が立たずアメシストは間一髪助かったのです。


 「酒神バッコスよ、汝は約定を破った、この話はなかったことになる、良いな。」


 「申し訳ありません、月の女神ディアナ様」


 「そしてアメシスト殺害未遂の罪でそなたを異世界に追放する。」


 すっかり酔いの覚めたディオニューソス酒神バッカスは、深く後悔と反省をし、酒瓶に残ったワイン全てをその白い石に注ぐとその石は鮮やかな紫色に変わったという。

 このことから宝石アメシストを身につけると悪酔いから守ってもらえる、と言われるようになったのです。


 これが2月の誕生石アメシストの逸話となっています。



 ****


 「・・しさん」

 「馬越さん!」


 目を覚ました俺の横にはアメシストが居た。


 「ごめんなさいごめんなさい。」


 「馬越バッコスさん、大丈夫ですか?突然会社で倒れられて。」


「はーい救急隊通りまーす。道を開けてください。」


 「あ、雨野さん?」

 「そうよ、私がわかりますか?」

 「僕と付き合ってください。」


 不意を突かれた雫はえ、え、って顔をする。


 「そういうことはちゃんと元気になってからね、はーい、救急隊の方!こちらです。」


 


 

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