第14話 ボイスチャット、最高!
「ただいま~……はぁ……。」
21時過ぎ、狛音に家まで送ってもらって伊織は無事に帰宅した。色々な事がありすぎて頭が追いついていないのもあるが、推しのマネージャーになったという何とも言えない気持ちが押し寄せてきた。
伊織は鞄をその辺に放って、ソファに体を委ねる。今日の疲れがソファに吸われていくような感覚だ。
「……今日はどうしよかな。」
無論、VRchatのことだ。今日は疲れ切ったので寝ようかとも思ったが、折角面白いことが色々あったので誰かに話したくなってきた。
さっきあったことは話せないが、会社でVtuberになることが決まったことくらいは、別に話してもいいだろう。
重い腰を上げて、自室に行く。壁に掛けてあるHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を取って、PCの電源を入れる。
VRchatを起動してから、HMDを被る。
「誰にジョインしようかな。」
伊織はコントローラーを操作して、フレンドリストを開く。
十人程がゲームをしているようで、誰に入るか迷っていると、記憶に新しいフレンドがいた。
「京さんだ。」
初心者過保護魂が爆発した伊織は、凛にジョインすることにした。
ロード画面に入り、少しだけ待ってると聞いたことのない声が聞こえてきた。
「これもすごいな~。作った人天才じゃん。」
どうやら凛がミュートを解除してしまっているらしい。
気付かないうちにキーを押して解除してしまったのだろう。
伊織はワールドに入り、凛を探そうと動き出して気付いた。
「すっご!」
凛が入っているワールドは、現実世界の大阪 道頓堀を再現したワールドで、あたり一面建物が広がっていた。
その景色はまさに圧巻の一言。現実世界よりも綺麗な景色とはこういうことのことを言うのだろう。
なんてことを考えていると、伊織の声に驚いた凛が走ってきた。
「こんばんは京さん。ミュート切ってるのって……。」
「え?」
わざとかもしれないが、何かしらのトラブルだといけないので一応言っておくことにした。
伊織的には、面白かったからこのままでも良かったが。
「も、もしかして、声、聞こえてます?」
「はい、もしかしなくても聞こえちゃってます。」
「……あの。」
「はい?」
「声聞いて、何か思いませんでした?」
凛が、何か不安そうに聞いてくる。何のことかさっぱり分からない伊織は、
「別に、いい声だと思いますよ?」
と、素直に答えておいた。
凛は小さな声で笑って、さっきの明るい声に戻った。
「チャットボックスで話すのも疲れちゃったんで、今日からボイスチャットを始めようかなと!」
本当になんのことか分からないが伊織だが、何か解決したのなら良かった。
「やっぱりチャットボックスは会話が成り立ちにくいですからね。」
「ボイスチャット、最高!」
「最高!」
吹っ切れた凛のテンションに乗せられて、よく分からないノリに乗っていると、もう一人誰かがジョインしてきたようだ。
さっきまでの流れを聞かれてなかったらいいのだが……。
「いい感じに盛り上がってるねぇ。」
「まよさん!」
「……もしかしてまよちゃん、さっきの聞いてた?」
「ん~、ボイスチャット、最高! ってところしか聞いてないよ?」
「バッチリ聞いてんじゃん!」
一番聞かれたくな人に、一番面倒くさい状況を見られてしまった。
「で、今日はこのワールドなんだねぇ。」
「京さんが入ってて、俺がジョインしてきたって感じ。」
「まよさんが勧めてくれたワールド全部面白かったよ!」
「そう言われると、ボクも嬉しいよ。」
何故か、二人の仲がめちゃくちゃ深まっている。
真夜中は凛がボイスチャットをしていることに違和感を持っていない。
「二人共、めっちゃ仲良くなってない?」
「そうだね~。ディスコードとかでよく話してるからね。ボイスチャットしてることには少~しだけ驚いたけど、普段から通話してるからねぇ。」
「まよちゃんは手が早いな……。」
「可愛いものには蓋をしろっていうからね。」
「それ、どこの国の諺?」
「真夜中帝国。」
「ショタとロリしかいない国だろ。」
「そうだね。大きくなったら……。」
「怖い! まよちゃん怖いよ!」
とんでもない闇を見た気がする。
こうやって、いつでも友達と話せるのがVRchatのいいところだ。
その後、他愛の無い会話をしたあと、伊織が今日一番話したいことを切り出した。
「そう、俺Vtuberになるんよ。」
「ほぉ。いいねぇ。」
割りと重大発表の気がするのだが、真夜中にとってはそうでもないらしい。
驚いた真夜中が見れると思っていたので、少し残念だ。
が、どうやら声も出ないくらい驚いたている人が一名。
「……京さん?」
「京ちゃ~ん。」
「……は、はい!」
右から予想以上にデカい声が聞けてきて、体が思わず左に傾いた。
どうやらこっちにはかなりの重大発表だったようで、少し嬉しくなった。
「くくくく、黒さん、Vtuberになるんですか?!」
「う、うん。今のVtuberブームの影響か分からないけど急に決まって。」
その後しばらく、喜びを抑えるような高い声が聞こえてきたのだが、二人共知らないふりをしておいた。
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