バーチャル世界と裏表!〜初心者ユーザーが超人気Vtuberだったんだが。〜

楠 楓

プロローグ 2つのバーチャル

この世に無数に存在しているゲームの中で、今日も密かに盛り上がっているゲームがあった。

 その名も、―VRchat―。

 無料でプレイできるゲームにも関わらず、完成度も高く、また自由度も高いゲームだ。

 俺、九条伊織くじょう いおりもそのゲームに沼る一人だった。

 会社での業務を終え、トボトボとした足取りで帰宅し、PCを起動してVRヘッドセットを装着する。


「こんばんは~。」


 今日も俺は、日常に『楽しさ』を求めるために、『誰か』と会話をする。


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この世に無数と存在しているYouTuberの中で、今日も一際盛り上がっているチャンネルがあった。

 その名も、―河津桜 凛かわづざくら りん―。

 企業に所属していない配信者にも関わらず、登録者数は300万人を超えており、男女共から人気のあるVtuberだ。

 彼女は今日も日課の配信を終え、座ったまま大きく伸びをする。

 そのままキャスターの付いたゲーミングチェアで部屋の反対側に移動する。


「さて、今日はどのワールドで遊ぼうかな~。」


 今日も私は、日常に『刺激』を求めるために、『みんな』と会話をする。


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「ちょっと凛さん! 後ろから敵来てる!!」

「え嘘! 紫苑しおんちゃんヘルプ!!」

「あーー!!やられたー!!」

「あらららら……。」


 二人のVtuberが流行りのFPSゲームをプレイする動画。

 ゲームは日によって異なるが、毎回数万人の同時接続数を誇る。


 二人の配信者のうち、一人はVtuber界のトップ企業、―Virtual planning F(バーチャル プランニング エフ)―

 で、トップの登録者数を持つVtuber、椚 紫苑くぬぎ しおん

 紺色のショートヘヤーに小さな王冠を頭に乗せた、一見大人しそうな見た目のアバターをしているが、中身は活発な元気キャラで、ツッコミの天才。下ネタなどにも普通にツッコミを入れるため、どんなVtuberともコラボできる。

 コラボのときは基本的には常識人キャラで、みんなの頼れるお姉さんポジションだ。


 そしてもう一人。そんなトップVtuberと肩を並べるVtuber。

 企業には所属していないものの、トーク力の高さと、万人受けされるキャラで着実に登録者数を増やしていった。ボケとツッコミ両方できるが、本人はボケの方が好き。

 薄ピンクの長い髪で前髪はポンパドールのアバターで活動するVtuber、河津桜 凛。

 

「ちょっとこのゲーム難しすぎない?」

「凛さんが下手なんじゃ……。」

「んな?!紫苑ちゃん酷くない? ねぇみんな!」


 リスナーに助けを求めたが、残念ながらコメントには『それは凛が悪い。』とか、『敗因明確じゃん。』とか、凛を養護するコメントはない。


「うわーーーん! みんながいじめるーーー!!」

「はいはい、そんな昭和みたいな泣き方はいいですから……。」

「ねぇ紫苑ちゃん。もっと和やかなゲームないの。どうぶなんたらの森みたいなさ。」

「なんですかどうぶなんたらの森って……。まあそうですね、最近はメタバースか何かで、バーチャル空間が流行ってるらしいですよ。」

「へー。」

「で、今はVRchatってゲームが注目されているらしいですよ。」

「全く聞いたことない。」


 凛は全く知らないと首を横にふる。コメントでは『聞いたことあるよ。』『全然知らん。』『やってる! めっちゃ楽しい!』など、様々な意見で溢れている。


その中でも、『Vtuberが出来るゲームじゃなくない?』とか、『妨害が出てきて即終了だろ。』と言ったコメントが凛の目に入る。


「リスナーこう言ってるけど、実際どうなの?」

「んー……確かに、Vtuberである私達がするには難しいかもしれませんね。」

「じゃあ駄目じゃん!」

「落ち着いて下さい凛さん。とりあえず、もうすぐ日付が変わりそうな時間なのでこの辺りで終了しましょう。」

「え! もうそんな時間?!」


驚く凛にコメントは、『確信犯』『明日学校なんや……』『時計読めないのか……』など凛を煽るようなコメントが多い。


「おい! 私だって時計くらい読めるわ!」

「わー!それじゃあみんな、明日も学校、お仕事頑張って! おやすみ!」


 と、紫苑が無理矢理配信を終わらせる。

 この二人がコラボするときはだいたいこんな感じだ。リスナーからは、おやすみコメントよりも、『定番漫才キタコレ』というコメントのほうが多い。


「それじゃあ凛さん、私も明日早いので、もう寝ますね。」

「うん。今日はありがとね紫苑ちゃん。」

「あ、一応さっき言ってたゲームのリンク送っときますね。」

「あ~あのVRchatってやつ? ありがと。また気が向いたらやってみるよ。」

「はい! それじゃあ凛さん、おやすみです~。」

「おやすみ~。」


 紫苑との通話が終了し、部屋が一気に静かになった。

 凛はさっき紫苑から送られてきたリンクからゲームのホームページを開く。


「VRchat……か……。」


 正直、興味がない訳でもない。一応、アバターの3Dモデルはあるが、個人勢のVtuberには、滅多に使う機会がない。凛は個人勢なので、3Dモデルも自腹で依頼した。なので使わなければもったいない。


「うん。このままストレージの肥やしになるくらいなら、ね。」


 思い立ったが吉日。凛はそのまま勢いに任せて通販サイトを開いて、ベストセラー第一位のVRヘッドセットを購入した。


「……一応、別の3Dモデルも……。」


 その後、3Dモデルのインポートで撃沈するのだが、それはまた別のお話。

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