50話 推しと夏祭り
昨日は、未来たんとお風呂でなんとも甘いひと時をすごした。
朝、気分の良い目覚めで起きられたのは昨日、寝る前に未来たんと体を寄せ合ってスキンシップを堪能して、気分よく眠りについたのが良かったのだろう。
仕事着に着替えを済ませて、ダイニングに行くと未来たんが朝食を作って待っていてくれた。
未来は佐藤が起きてきたことに気付くと、作業の手を止めてこちらに歩み寄ってくる。
「おはようございます、佐藤さん。昨日は良く眠れましたか?」と天使のような微笑みを向けてくる。
ほんと、控え目に言って天使なんだよな。
「朝ごはんもできていますよ。さあ、食べましょう」と新妻のようなセリフを言ってくる。
佐藤はダイニングテーブルに座ると「いただきます」と箸を持つ。
「いただきましょう」とお上品な言い方で手を合わせる未来。佐藤もそれに習い、手を合わせる。
朝食は、今日も美味しかった。平日の朝からこんなに気分よく朝食を食べることができたのは
多分、昨日お風呂で未来たんが言ってくれた心強い言葉のお陰だろう。
熱々の味噌汁を啜り、玉子焼きを口に運び、良く味わい朝食を済ました。
朝食を食べ終えてリビングで、朝のニュース番組を見ていると未来たんが後ろから歩み寄ってくる。
気付きはするものの、昨日のこともあり、顔を見られずテレビの方へ視線を向けていると
未来たんが、「お出かけ前に...しておきますか?」と少し、羞恥が混じる声で訊ねてくる。
佐藤も彼女の声に釣られて、動悸が跳ね上がる。
恐らく、ハグのことだろう。出勤前に未来たんとできるとなるとこみ上げるものがあり胸が熱くなる。
「あ、ああ。お願いするよ」と今日の分のハグをお願いすると、未来たんは両腕を広げてきた。
そこで未来たんの胸に飛び込むような形で彼女の胸に顔を埋めて、その腕で優しく包まれる。
そして、たっぷり、5秒間未来たんからのハグをされ、陽だまりのような暖かさと甘い匂いに包まれてマシュマロに顔を埋めているかのような心地の良い柔らかさを感じて気持ちが安らぐ。
たっぷり、未来たんからの充電を終えると名残惜しさを感じながら、彼女の胸から離れる。
「佐藤さん、お仕事頑張ってきてくださいね。それでは、また後で」と言う。
ん??また後で?!俺が、家に帰ってくるまでの『また後で』なのだろうか?と疑問に思うが、未来たんは「今日でしたよね?夏祭り」と確認してくる。
「そうだった。仕事が終わったら、一緒に行こう」
「はい、楽しみです」そう微笑み応えると、夏祭りが待ち遠しいと思いながら会社へと向かった。
***
わたしは佐藤さんが出勤してから、朝食の片付けを終わらせるとこれから向かう先に向けて、
先方との打ち合わせに行くときのような相手に失礼の無いような白のブラウスに黒を基調とした薄でのコートを羽織り、ロングスカートで足のラインを隠して正装を整えた。
向かう先は佐藤さんの働く飲料メーカーの会社だ。
ある人物と会うアポイントも済ませてあるので、早速、決戦の地へと向かうのだった。
部長さんと面会を果たした未来は自己紹介の挨拶で、叶羽未来というアイドル名は伏せ、鈴木友希と本名を告げる。
相手も、営業部の部長で
部長さんは、わたしのことを一般人だと思っているのだろう。
このまま事が済むのなら、それでいい。でも、もしものときには—
「本日は、御多忙中の時間を割いて頂き誠にありがとうございます」と、前置きをして早速、未来は話の本題へと入る。
「単刀直入に申し上げます。佐藤さんの退職を受理してください」
「と、言いますと?」いきなりの申し出に部長さんは訝しむ低い声を上げる。
「しらばっくれないでください!佐藤さんが退職したいと申し出したときもそれを断って
無理やり会社に縛り付けたそうじゃないですか」
「縛ばり付るだなんてめっそうもないですな。ただ、佐藤の将来を考え、今はその時じゃないと判断し、諭したまでですぞ」
「シラを切るつもりですか。酷いことをしておいて恥ずかしくないのですか?!」
「お言葉を返すようですが、佐藤は私の部下です。彼の行く末を考えての判断に過ぎません」
「佐藤さんの意見は無視してもですか?」
穏やかさの中に語気を強めて言うと、部長はさんは、「これだから小娘は」という風に
肩を竦める。
「佐藤は未熟者故、御社に留めているまでです。彼にひとり立ちする力が付いたそのときは
御社を送り出す所存ですので、ご心配なく」
「そんなこと言って、佐藤さんが精魂尽きるまで、働かせるつもりなのでは?」
部長さんは佐藤さんが成長するまでと言っているけど、佐藤さんにとって劣悪な環境下で成長を阻害する職場に置き続けて、佐藤さんが転職を諦めるまで外に出さないつもりなのだ。
(それなら、わたしは強行的手段に出るしか現状は変えられないだろう)
未来は、意を決して切り札となる言葉を口にしようとして、部長さんをきつく睨みつける。
「もう、あなたの様な人に佐藤さんは預けられません。」
このまま佐藤さんを働かせるつもりならわたしが強引にこの会社から引き剝がさないと!
「どうするおつもりですかな?」
「佐藤さんは、わたし達『放課後シスターズ』が貰います。あなたなんかには渡しません!」
と未来は、格好よく言い放つ。
「あ、あなたはもしかして、あのカリスマアイドルの叶羽未来さんですか?!」
ようやく未来の本来の姿に気付いた部長さんは、酷く、驚いている様子だった。
「どうですか、佐藤なんかを連れていくより我が社で、商品のイメージモデルとして契約しませんか?広告宣伝部とも掛け合ってみますので!」と手の平を返し、チラチラ胸を見ながら言ってくる始末に未来は呆れかえる。
「あなたなんかと契約するつもりはありません。残念でしたね」と冷たく付き返す。
「あと、人の胸ばかり見て話さないでください!不快です交渉の場ですることじゃないですよ。最低!」と一喝する。
そして、未来はポカンと呆ける部長さんを残して、その場を後にするのだった。
***
未来が、佐藤をヘッドハンティングした日の夜。佐藤は未来と連絡を取り合って、隅田川花火大会
イベントに来ていた。
花火が打ち上るまで屋台の出店で買い食いして回ろうと未来と二人で歩き回る。
「今日は思いっきり楽しみましょう、佐藤さん」
「そうだな、今日くらい羽を伸ばそうかな。また明日からまた仕事だし」
「でも、近いうち佐藤さんは会社から解放されることでしょう。もう一度、退職届を部長さんに
出てみては?」
「そんな、受理してくれるはずないって」
あれだけ、頑なに断られたのだ。何度言ったとしても部長の考えは変わらないだろう。
「そこのところは、わたしが部長さんと掛け合って手を回しておきましたのでご心配なく」
「いつの間に?!」
知らない間に、部長とひと悶着あったということだろうか?
「ふふ、内緒です。これから、会社から、解放されますね」
出店の屋台で、イカ焼きやたこ焼きを食べ、夏祭りを満喫する二人。
「佐藤さん、あーんしてください」と佐藤は、未来たんから口の中に熱々のたこ焼きを入れられる
「ほがっ!あっつ!!」とほふほふと口の中を一生懸命に冷ます
「美味しいですか?」
「熱々を放り込むな!でも、美味しいな」
口の中を火傷してしまったが、未来たんからの「あーん」して貰えたのだから安いものだろう
和気あいあいとした楽しい時間が流れる。
そして、19時になり花火が打ち上がるになると夜空に咲く大輪の花を見上げながら未来は佐藤に願いを告げる。
花火、キレイですね」
「未来たんの方がキレイだけどな」
こんな歯の浮くような言葉を言っては未来たんに引かれてしまうか?
「また、そんなことを言う」
陰キャには不釣り合いな言葉だったかもしれない。
ここは、『ILOVEYOU』の返しのように正直に「そうだな」と返しておくのが正解だったか?
「そう言えば、この前、佐藤さんの誕生日でしたね」
「そうだったけ?忙しくて忘れていたけどな」
日常が忙しなくて自分の誕生日を祝っている暇なんてなかった 。
今は、未来たんから祝って貰って、幸せでいっぱいだ
「わたしは覚えていましたよ。今日、お祝いしたかったのです」
「ありがとう」
「これ、わたしからのプレゼントです、受け取ってくれませんか?」
と言い、可愛くラッピングされた小さい手提げ袋を渡してくる。
「開けてみてください」
「おお、ネックレスだ。カッコイイ」と佐藤は包みを開けて喜ぶ
「気に入ってくれて良かったです」
「ネックレスなんて洒落ているな「そうな」
未来たんからの初めてのプレゼントだ大事にしようと心に誓う。
「これは、磁気ネックレスといって、首にかけていると肩こりなどの体の疲れを取ってくれるものなのですよ」
「そうなのか、日頃から疲れているからありがたいな」
「佐藤さん、かけてあげます」と佐藤からネックレスを受け取ると屈んで未来の背の高さまでしゃがみネックレスをかけて貰う。
「本当は、仕事で疲れている佐藤さんにと思っていましたが、これを付けて、これから」のお仕事を頑張ってください」
夜空に綺麗に咲く花火を見上げながら未来は、言葉を紡ぐ。
「これから、忙しくなりますよ、プロデューサー」
ステージで光り輝くのは君だよアイドル」
「君たち、『放課後シスターズ』を誰もが羨む最高のアイドルにしてやる。夢はドーム公演だ!」
「よろしくお願いします。わたしをドームに連れて行ってくださいね。わたしも頑張ってすごいアイドルになります」と、佐藤と未来はお互いの将来の夢を誓い合うのだ
った。
***
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5章が完結したので、応募原稿の制作をする為、しばらくの間お休みします。
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