第8話 一日の終わり。そして明日へ。
演習の時間が終わり、放課後となった。他のクラスメイトも初日が終わり、ぐったりしている様子が見受けられる。みんな初日は疲れるのだろう。初日が疲れるというのはどの学校も似たようなものだろうか。そう考えながら夜空も帰りの支度に取り掛かった。
そんな時、教室の扉から時島先生が姿を現した。
「すまん、夜空はまだ居るか?」
「……?はい!居ます!」
もう不安しか無いが居ることを伝えた。
「お、居るな。支度が終わったら職員室まで来てくれな。ゆっくりでいいぞ」
そう言って教室から去っていった。多分、このスキルの事で色々言われるのかなぁ。もしかしたら質問攻めにされるかも。呼び出されたら行かないわけにもいかないので覚悟決めて行くか。荷物を持って夜空は教室を後にした。
夜空が教室を出た後、教室に残っていた数人の生徒たちは、何事かとお互い話せる者同士で勝手な考察をしていた。
「けっ、俺たちとは違うスキルだからって、調子乗りやがって」
誰が言ったのかは分からない。
職員室を訪ねた夜空は時島先生に近くの空き教室に案内された。そしてお互いに席について、しばし沈黙。
(沈黙は余計に緊張しちゃう……)
「先生は、皆のスキルを見て良いなぁと思ったんだ。まだ皆自分のスキルには慣れてない、言ってしまえば素人だ。だけど、これから伸びる生徒ばかりだ」
突然先生はそんなことを言い始めた。頭の中で疑問符しか出てこない。
「そして、その中で印象が強かったのは君のスキルなんだ。授業のあと『限界能力』に詳しい人に事情を話した。そうしたらな、こう返ってきたよ。
『変異したスキルは数少ないがその存在は確認されている。恐らくだが、彼がそのスキルを使えるようになった頃に彼自身に何かがあったのだろう。模様が白色なのは多分そのせいだ。変異したスキルは通常のスキルより不安定なものだ。だからと言って悪いという事ではない。『限界能力』は肉体的、精神的に影響されることが多い。どちらかの状態が不安定な時にスキルが芽生えたのだろうな』
…という話を聞いて今に至るわけだ。だから一人の先生として生徒を知りたい。君が良ければ過去に何があったか聞かせてはくれないか?無理にとは言わない。話したくなければそれでいい」
先生の話を聞いて、悔しいが当たりだった。このスキルが使えるようになったのも心が不安定なその時期で、確かに弱っていた。過去の悲しみや痛み、今まで溜め込んでいたさまざまなものが原因でこれが生まれた。だけど今はこのスキルを使えることを誇りに思っている。だけど、このことを伝えたところで僕は救われるのか?それに先生とは初対面なんだ。軽々しく話せるほど言葉を交わしてない。
「お気遣いありがとうございます。だけどすみません。まだ会って間もない人に話すのは抵抗があります。いつか話す覚悟が出来たらまた機会を作ってくれますか?」
「あぁ、確かにその通りだね。先生と生徒は会って間もない。そしてまだ信頼されてないのもまた事実。そうだね、またの機会に。」
「はい」
「今日はいきなり呼び出してすまないね。今日はしっかりと疲れを取ると良い。それじゃまた明日な」
時島先生はそう言い残し席を立つ。夜空も聞いた事を頭で整理しながらそれに倣い席を立とうとする。しかし、一つだけ伝えたい事が出来た夜空は席に着いたまま先生を呼び止めていた。
「……時島先生。先程先生が仰っていた事ですが概ね合っています。ですが理由がどうであれ今はこのスキルを使うことが出来て誇りに思っています。そしてこのスキルをもっと良いものにしていきたいです。なので、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。これからも頑張れよ」
今度こそ先生は教室を後にした。今この教室に居るのは夜空ただ一人。一人だけになった教室で今日あったことを追い返した。
新しい生活が始まったこと。
昼休み、昼食を共に取る友達が出来たこと。
皆の前で【共鳴】を使ったこと。
そして、このスキルの事をほんの少し知れたこと。
今日だけで色々ありすぎた。毎日こんな生活が待っていると思うとワクワクする。
早く家に帰って夕ご飯食べて寝たい。そして明日を迎えたい。
夜空は教室を出て、帰路に就く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます