亡き宮廷魔法使いの純愛物語
夏目海
失恋
私は校内のベンチに腰掛けると、一つ大きなため息をついた。エジンバラはもとより曇天が多かったが、今日に限ってはいつにも増して重く厚い雲で空が覆われている。身に纏う黒いローブもまるで闇夜の一部のようであった。
恋というものを初めて経験した身にとって、別れもまた初めてだった。今まで必死に学んだ、魔法もこういう時ばかりは役に立たないこと知った。いっそ誰かに忘却の魔法をかけてもらい、全ての記憶を消し去って欲しい。
「また、どうしちゃったんだ!」
無邪気に声をかけたのは、死んでもなお校内を彷徨う亡霊の騎士、サー・ウィリアム・イースター卿だった。
「ねえ、ウィル」と私が問いかけると、うん?とウィルは優しく微笑んだ。
「叶わない恋についてどう思う?」
それを聞いたウィルは、ほほほっと笑った。
「いやあ唐突だね。少し昔のことを思い出したよ。私も生きてる頃は恋をしたものだ」
「生きている頃ねぇ。私も今死ねたらなぁ。ねぇ、ウィルが魔女狩りで死んだって噂本当?」
「その通りさ!」
ウィルは笑った。
「捕まって、火炙りにされたの?」
「そうだとも!」
「なんで逃げなかったの?」
「杖を取り上げられていたから逃げられなかったんだよ」
「なんで魔法使いってバレたの?」
「私は王室に仕える宮廷魔法使いだったからね。ヨーク朝の頃は、今と違って、魔法を扱える者が重宝されたのさ」
「ヨーク朝?」
「ヨーク家の王朝のことさ。エリザベス殿下の正式名称はエリザベスオブヨーク」
「ごめんなさい、私、歴史は詳しくないの」
そんな言葉を無視して、ウィルは過去を回想していた。
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