第13話 ヤングケアラー
『まさかこれが、契約の家だとか言わないよね?』
『あ、ああ。それに関しては今新しい家をたくさん建築中だからな。
その間にずっと宿暮らしだと困るだろ?
だから、その間のつなぎとしてここに住んでほしい』
かくして、ようやく、仮とはいえ一軒家を手に入れた今日この頃。
間取りとしては、おそらくもともと複数人で過ごす用の家であり、一人で過ごすには少し大きすぎる、そんな家。
だからこそ、まぁこの村の住居が不足している現在、ヴァルターやベネちゃんと同居になるのも半歩譲ってまだ許そう。
「でも、流石に何もできない子を雇うほどの余裕はねぇ……?
それに、明らかに邪悪な死霊術師になりたいっていう娘を家に住まわせるのは……ちょっとね」
「大丈夫です!
お姉さん方の迷惑にならないように、その辺の分別はちゃんとついています!
それに、家事やお手伝いなどについてはきっちりできるつもりです!
邪魔になるようなことはしません!」
えぇ~?本当でござるか~?
かくしてなぜか押し付けられたのは、先日死霊術を学びたいと言ったあの少女。
その自信過剰ぶりと先の痴態を顧みるに、この少女の言葉からは不安しか感じられず。
そもそも、非合法に死霊術を学びたいという相手を、死霊術師の家に預けること自体がかなりの問題があるようにしか感じられなかった。
「でも冷静に考えてください。
今お父さんの魂を預かっているのはお姉さんなのでしょう?
なら、順当に考えて、私を預かるのがお姉さんになるのは至極当然の流れでは?」
「別に、霊魂に人権はないし。
あくまで元君のお父さんであって、今は私の使役霊だからね」
「……!!つまり、お姉さんも私のお父さんとエッチするつもりなんですか!?
あの泥棒猫達みたいに、あの泥棒猫達みたいに!!」
余りにも不敬なため、魔力弾を一発額に飛ばす。
少女が頭を押さえて悶絶しているが、これでも死霊術師としては甘過ぎるくらいの対応だろう。
「ま、まぁまぁ君としても色々言いたいことはあるけど、まずは様子見からしてみないか?
何事も頭っから否定するのはよくないよ」
「そ、そうですよ!
それにもし本当にそれでも役に立たず、わがまましか言わなかったら。
その時こそ、だれも異論なく彼女を追い出すことができますから。
ね、ね?」
若干優しい擁護をするヴァルターと、地味にひどいことを言うベネちゃん。
かくして二人の温かい擁護により、一時的にこの少女を家事手伝いとして認め、この家での生活が始まったのであった。
☆★☆★
なお、それから数日後。
「はい!皆さん、ご飯の準備ができましたよ~。
今回は、山菜とキノコ、それに山鼠のスープです!」
「あ、ヴァルターさん、剣の手入れなら終わりましたよ。
油と血は落として、簡単な研ぎ直しもしておきました」
「あ、あのウサギの皮なら、すでになめし終わりましたよ。
どうしますか?近所の人と物々交換しますか?
それとも、何か新しいお召し物でも作りますか?」
なんと、そこには自分たちの予想の数十倍は有能であった、女の子の姿が
「さ、さすがに死霊術を学びたいとはいえ、頑張りすぎじゃない?
まだまだ小さいんだからもう少し、手を抜いてもいいんだよ?」
「?いえ、これぐらい普通では……?」
まさか、この娘……素!?
「だって、みなさん冒険者は基本的に戦うのがお仕事です。
ならば、それのサポートをする私は、それ以外の雑事はできるだけ全部やるべきですので、これぐらいは通常業務です」
「村の安全が、あなた達三人にかかっているのは十分に理解しているつもりです!
ならばこそ、シルグレットさんからお手伝いを頼まれた私はちゃんと」
流石にまだまだ小さいのにこの娘ガンギマリ過ぎである。
おまえさぁ、あの流れで言ったらどう考えてもクソガキ化や役に立たないのが普通だろ?
何普通に頑張っちゃっているの!?
「というか、アリスちゃんすごいねぇ。
普通剣の手入れとか、そういうのはわかんないと思うんだけど」
「はい!そこはお父さんがストロング村での用心棒兼冒険者だったので!
病気のお母さんと私を、支えてくれたお父さんを少しでも支えるべく覚えました」
ヴァルターに褒められてちょっと上機嫌なアリス。
それにしても、この死霊術師希望少女は、予想以上に有能で健気な答えをする。
幽体のままこの子の父親を呼び出して、それとなくこうなった原因を尋ねてみた。
『いやまぁ、私の娘は、幼いころから妻が病弱気味だったので。
幼いながら、早い段階で家事や病人の介護、なんなら私の冒険の準備や後片づけも手伝ってくれたんですよ』
それ一見健気でいい娘みたいに聞こえるけど、場所が場所なら虐待だからな?
この幼い娘がクソ田舎で母親の介護と家事、さらには冒険者のサポートまでやるって大分重労働では?
「いやいや、別に慣れればなんてことありませんよ?
それに、今のお手伝いは元々村にいた時よりはやることの量自体は減ってますし。
それにどんなに忙しくても、お父さんやお姉さん方みたいな冒険者とは違い、危険はないので。
これくらいやるのは当たり前でしょう」
やばい、この娘の中で冒険者の持ち上げっぷりがやばい。
なんか偉そうな子供だとは思っていたのに、行動だけ見るとそれ以上にやる気な娘だ。
流石に誰かストッパーはいないかと、他の二人にそれとなく視線を向けてみるが……。
「まぁ、本人がやる気なら止めないほうがいいと思うな。
それに、こういう徳を積んでいたほうが、神様からも評価されるだろうしさ」
「ま、まぁ、イオさんが優しいのはわかりますが……。
それでも、将来のためにこういうことに慣れていった方がいいと思いますよ?
アリスちゃん自身も、親が亡くなったことを考えると、普通に大人扱いしたほうが彼女自身のためですし。
そもそもここを追い出されたら、あとは野垂れ死ぬか、娼婦になるだけだと思うので……」
っく!この2人も甘ちゃんのように見えて、価値観中世だ!
いやさ、まぁ確かに彼女は孤児だし、そういう意味では無理にでも大人にならなきゃいけないのはわかるけど、もう少し手心とか、せめて、子供らしく過ごさせてあげたいというか……。
「そもそも、あなたは死霊術を学びたいとか言ってたけど、この忙しさでどうやって学ぶつもり?
そんな時間あると思う?」
「大丈夫です!
その時は、髪の毛や廃材を燃やしてでも、冬季や夜間に練習するつもりですので!」
冬季はともかく、夜間は寝ろや。
「大丈夫です!
こう見えても、夜更かしや徹夜は、慣れっこですので!
お母さんが病気で一晩中介護した時とか、お父さんが他の女の家に泊まって帰ってこなかったときとか!
夜なべ作業には慣れっこなので」
笑顔で答えるアリスに、思わず引きつりそうになるこちらの顔。
おもわず、自分の横に浮遊している彼女の父親の霊を思いっきりにらみつけてしまうのでした。
☆★☆★
そして、さらに数日後
「……というわけで、こちらとしては非常~~~~~に不本意ながら、あなたに最低限の魔術を教えようと思います。
もっとも、教える内容は死霊術師の前段階、『呪術』や『基礎魔術』、さらには『信仰魔法』が中心だけどね。
これなら教会やら学園の許可なしでも大丈夫だから」
「……はい!」
「というわけで、我が弟子となった魔術師見習いアリス。
君に第一の修業内容、いや、修業する上で絶対に守るべきことを話す」
「……!!」
「毎日、きちんと、寝ろ」
「……え?」
「いいから、寝ろ。
まだまだ成長期だから、寝ろ。
魔術師になりたいなら、寝ろ。
死霊術師でも、聖職者でも、冒険者でもなんでもいいから、特別なことがない限り、毎日十分に睡眠はとって、いいね?」
「い、いや、それだと皆さんのお手伝いが……。
それにお父さんを蘇生させるためにも、一刻も早く死霊術を……」
「だめ、魔術師は将来どんなタイプにしろ、寝なきゃ効率よく魔力が回復しない。
だから、私の弟子となり、魔術師を志すなら毎日睡眠時間はきちんと確保してもらう。
でなければ、貴様の父の魂を握りつぶすぞ。いいな?」
「ひゃ、ひゃいいぃぃぃ!」
かくして、私としては非常に不本意ながら、彼女の部分的な弟子入りを許可。
そのおかげで、このアリス嬢もちゃんとみんなと同じ時間には布団に入るようになったのでしたとさ。
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