第6話 ゾンビを量産するだけの簡単なお仕事

―――開拓村ギャレン近辺、小洞窟『盗賊のトランク』。


かつてはこの村の周囲に住むとある大盗賊団が戦利品をしまうためにそうなずけられたらしい。

しかし、その洞窟は現在、繁殖期になったゴブリンが住み着いており、彼らは日夜周囲の動物を捕まえ、繁殖活動にいそしんでいた。


「げぎ、げぎぎぎぎぎ!」


そして、『盗賊のトランク』に住み着いているゴブリンの群れのリーダー。

少し体格が大きく、衣装もゴブリンとは思えないほど整ったそれは、通称【ゴブリン・プリースト】と呼ばれる特別なゴブリンだ。

通常のゴブリンよりも、力と頭脳ともに高水準。

何よりもこのゴブリンプリーストは……。


『……ほう、私の声が聞こえるのか。

 ならば、加護チカラをくれてやろう……!』


を聴くことができるのだ。

それは断片的な声であり、いつも聞くことができるものでもない。

そして、その神も、人を守護する神とは別物であり、とても危険で恐ろしい。

いわゆる人族から【邪神】とも称される存在だ。

邪神は人族を嫌っており、そのために魔物を生み出し、そして魔物に力を与える。

このゴブリンプリーストはそんな邪神から力を与えられた選ばれた存在……というほどは珍しくはないが、それでも並のゴブリンを凌駕する存在である。

こうしてこのゴブリンプリーストは並のゴブリンを超える力を手に入れ、そして邪神が望むべき行動をする。


「お願い……やめ……ああぁぁぁ!!!」


そして、そこにいる人族の番もその成果であった。

すでにオスのほうは彼らの餌になり、メスのほうは苗床に。

順調にその群れの数を増やすことに成功していた。


通常、このようにゴブリンの数が増えると、周囲に歩き回っている冒険者にその数の増加を感知されるのが常ではある。

が、このゴブリンプリーストは、自分の巣の見張りを配置することで、自らの巣がまるで弱小のゴブリンの巣であるかのよう擬態していたのであった。

実際このゴブリンプリーストの策略により、この巣に偶然やってきたはぐれの人族(いわゆる盗賊)を一組捕まえることに成功している。


かくして、この普通よりもはるかに賢いゴブリンプリーストは夢想する。

この巣が自分たちの仲間でいっぱいになるころになったら、大掛かりな狩りをしようと。

近くに住む人族の巣に集団で狩りに出かけようと。

大丈夫だ、すでにいい母体から生まれた精鋭の子供がおり、彼らも順調に育っている。

更には自分たちには邪神の加護がついているのだ!


さぁ!邪神と己が力のために、あの人間たちを狩りつくし、食べつくし、増やしつくそうではないか!!



◆◇◆◇



「はい頑張って、トガちゃん」


そんな、そんな、なぜ。


「うわぁ、思ったよりも数が多い……しかも前よりも、魔力の質が高い。

 ああ、これが、人間から生まれたゴブリンってやつか」


俺の、俺たちの群れが。


「やっぱり、トガちゃん連れてきて正解だったな。

 純呪術だけだと、絶対に苦労しただろうし」


やわ肉、メスのくせに、孕ませろ、喰わせろ。


「……っと!

 う~ん、陰系統の神術か。

 ……あんまり、喧嘩売りたくない相手だけど、しかたないな」


俺の夢、使命、神の加護。


「……う゛!」


呪い、金属、鉄の塊、あ。



◆◇◆◇



「繁殖期ってこんなにすごいのかぁ。

 思った以上でしんどかったな」


「が」


場所はゴブリンの巣、時間はシルグレットに作戦提案した翌日。

さっそく私は作戦の一環でゴブリンの巣の掃除へ直接自分とその配下を連れてやってきたわけだ。

当初は所詮ゴブリンであり、一人でも無問題。

さらに今回は、【鎧霊】であるトガちゃんまで連れてきている。

だから、まず問題は発生しないだろうという余裕の心構えであったが、その予想は裏切られることになってしまった。


「数も数だけど、ゴブリンにしてはどいつもこいつも体格もいいな。

 魔力耐性もある、そして何よりも繁殖力とその悲惨さ。

 ……いや、やっぱりこいつらは放置しちゃいけない存在だね」


無数に製造したゴブリンの死体を、先ほど作ったゴブリンゾンビに集めさせ、一息を吐く。

実際今回対峙したゴブリン達は、どいつもこいつも自分の予想以上の強さであった。

どれもが並の獣以上の知恵があり、それなのにこの暗闇の洞窟でそれなり以上に動け、最低限以上の腕力を持つ。

その上、魔法を使えるものや特別な武術、さらには変わった身体的特徴を持つゴブリンまでいる始末だ。


「実際に人間の被害者も出ているっぽいしな。

 ……まぁ、村から被害は出てないから、多分盗賊か何かなんだろうけど」


ずるずると運ばれていく人間の男女の死体をみてため息をつく。

はじめはこれから先のこの村の風評のためにも、この計画を行うかどうか悩みはした。

が、それでも、この状況を見るに、どうやらこの作戦決行は正解だったようだ。

もしほかの巣も、この巣と同じ数と質のゴブリンがいたのなら、それは大変なことだろう。

それこそもしこれらのゴブリンが一斉にあの開拓村へと襲い掛かったら、たとえ自分や仲間がどんなに強くとも、村の人間は守り切れないのは目に見えている。

だからこそ、今回の計画でこのゴブリン問題にはきちんととどめを刺さねばならない。


「さて、それじゃぁ、さっそく始めますか」


かくして、私は大きく深呼吸をする。

集められた総勢15のゴブリンの死体と2人の人間の死体。

それらを綺麗に仕分け、あるいは絞り出し、整理。

その血を持って、洞窟の大広間を染め、その骨を使って部屋を飾り付け、中央に肉を配置する。


部屋の中央に無数の死体とともに立ち


陰の魔力を集め、霊魂を縛り、言葉を紡ぐ。


「我、冥府の理に触るる者。

 冒涜に溺れ、禁忌を犯す者」


その言葉に、意味はなく、覚悟に価値はない。


「霊を縛り、魂を迷わせる。

 死肉を喰らい、命で遊ぶ」


倫理は狂い、誇りなどない。


「しかし、それでも我は求める。

 畏怖と恐怖を以って、今世界に悲劇を生まん!」


だが、それでも敬意をもって!


部屋の魔力が竜巻のようにうねりあがり、血は輝き、死肉が躍る!


無数の殺した霊魂たちが悲鳴を上げ、思念と怨嗟が弾け回る!


「―――そう、これは最良の結果を求めんがため」


誰よりも強欲に、誰よりもどん欲に。


無数の呪いの声が過ぎ去った果てに、部屋の中央には鈍い魔力の光とともに、それが出来上がった。


「……というわけで、おはよう我が新たなる召使シモベ

 その見た目と強さ、名付けるなら……【ゴブリン・ゾンビ戦長ウォーチーフ】といった所か」


こうして、無数のゴブリンと人間の遺体から、新たな腐肉化け物がこの世界に生まれたのでした。




「よし、あとはこれを3回繰り返すだけだな!」


「ぎゃぎゃ!」


「う゛」


なお、こんな作業を後3回も繰り返す模様。

さもあらん。



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