第9話

 カイトさん率いるパーティを指名して依頼を出した。


「メジュ草を取ってくれば良いんだね?」

「はい」

「取ってくるのは葉でいい? 量は?」

「そうですね。根や茎は今回はいらないです。量は任せます。多ければ乾燥させて粉にしますので」

「了解した」


 そう言って彼等は冒険者ギルドを出ていった。


「さて、と。彼等らに渡す報酬の準備をしなきゃな」


 メジュ草は比較的簡単に手に入る。森の中で日当たりの良い場所に生えてるから。


 頼んでおいて気が付いた。


「あっ、俺も行けばよかった……」


 だがもう後の祭り。すでにカイトさん率いるパーティ『ウィンド』は居ない。すでに採取に出たあとだ。


「まぁいっか。次回頼もう」


 こうして俺は宿に引き返す。道すがら何度か村人に声をかけられ対応しつつ。



 みんな村に錬金工房と雑貨屋が出来ることに期待しているようだ。それが皆の役に立てるようでなんだか嬉しい。


 とは言え宿に籠もっていてもやることがない。しょうがないので宿の1階の酒場でのんべんだらりとしていると、やはり冒険者に絡まれた。


「おう。なんでぇ。ずいぶんと生っ白い奴が居るな」


 俺は無難に「こんにちは」と返す。


「冒険者か?」

「いえ。錬金術師です」

「ほぉ。そりゃ珍しい。ここで商売でも始めるのか?」

「いずれは。今は工房兼住居が出来るのを待っているところです」

「ほぉ。そりゃいいな。今は近場の街まで買いに行っているからな。どうしても効率が悪い。傷用のポーションは作れるのか?」

「はい。大丈夫ですよ」


 そんな会話を交わす。これなら店を開けば直ぐにでも顧客が付くだろう。ありがたや、ありがたや~。


 さて、村人や冒険者と交流して、何が足りていないか、何が必要かをリストアップしていく。


「やっぱ、必須は薬系になるよなぁ」


 傷用のポーションや栄養ドリンクは必須。虫除けも必須。でもこれらはどちらかというと薬師の領分だ。この村には薬師がいないから需要があるが、いずれは薬師が来たときのことも考えて他の商品開発も考えておいたほうだ良いだろう。


 うん?


 薬師と錬金術師の違いを教えてくれって?


 あ~


 そうだな。錬金術師は素材と素材を掛け合わせて、全く違う物を作る人たちのことを言う。例えばAと言う薬草とBと言う薬草をかけ合わせて、それを変質させて爆薬を作っちゃうようなのが錬金術師。


 薬師はAと言う薬草とBと言う薬草をかけ合わせてCと言う強力な薬を作るのが仕事。


 なので、錬金術師は薬師の真似事もできるが、薬師は錬金術師の真似事は出来ない。一般的には錬金術師のほうが上と言われるが実際には、どっちが上とか下とかじゃなくて、どっちもそれぞれ方向性が違う。というのが正解だ。


 ただ薬師には突飛な物は作れないと言う欠点はあるけどね。


 まぁ、人体に影響のある薬だ。


 必要なのは突飛な発想ではなく、確実な安全性だ。


 普通に考えて嫌だろ?


 錬金術師が作る、何が元になっているのか分からない薬より、ちゃんとした薬草学の理論によって作られた薬のほうが。


 たとえ効能が一緒でも。


 話が少しそれたか。


 えっと、必要なものをリストアップしてたんだっけな。


 そうだな。結界石とか簡易結界石とかもあってもいいな。どちらの品も魔物から取り出した魔石という物質を変質させて作る魔物除けの事だ。


 他には、冷蔵庫が欲しいとか魔石を使った竃が欲しいなんてのがある。家事って1日仕事で大変だからな。そのうちその辺の魔道具も作ろう。


 でも、この辺のは魔道具技師の仕事なんだよな。


 まぁ俺も作れないことはないけど。


 うん?


 魔道具技師と錬金術師の違い?


 魔道具技師は、そのもの魔道具と呼ばれる道具を作る仕事の人。錬金術師は……さっきも言ったな。そうだな。薬師がいて錬金術師が間に居て魔道具技師がいる。錬金術師は間に居る感じかな。それぞれの分野にも片足突っ込んでたりする。そして、それぞれの分野に素材を提供したりもする。


 何でも屋みたいな感じだと思ってもらえば良いと思うよ。


 さて。リストアップはこの辺にして、俺が人生をかけて取り組む最大の目標を決めようと思う。


 毎日をただ、ダラダラと過ごすのも勿体無いので。


 まぁ出来たら良いな。と言う程度の代物だ。出来るかどうか分からんしな。


 という訳で、出来たら良いなという物。第1弾は転移!


 これがあれば、どんなに遠くの街にだってひとっ飛び!


 他には空が飛びたいなぁとか。ゴーレムの製造なんてのもやってみたいなんてのもある。


 あぁ夢が広がる。


 まぁあくまで出来たら良いなであって、出来るとは言っていない。だが生涯をかけて取り組んでもいいだろうとも思う。


 夢は大きい方が挑戦しがいがあるだろ?


 さて。


 でっかい夢もいいけど、まずは現実の足元の安定からだな。


「生活しなきゃね」


 そのためには、まず6等級ポーションである栄養ドリンク作りからだ。


 先は長いな。


 夕方。カイトさん達パーティである「ウィンド」が帰ってきた。その手には結構な量のメジュ草が。それらを買い取り、乾燥させるために窓の軒下に干していく。


 塩は、いちおう行商人のテレンスさんに頼んだが、さて。いつ届くやら。


 テレンスさん以外の行商人が来るのを待った方が早いかな?


 まぁ来たら購入しよう。他にも何か素材になりそうな物を頼んだりもしないとな。魔筆の素材に、魔紙の素材。他にも細かな道具類。


「あっ、ガラスに陶器!」


 ガラスや陶器の入れ物も必要か!


 でもここに運んでもらうとなると割れる恐れが……


「自作するか」


 素材だけ運んでもらおう。


 まぁそれもこれも、家が出来てからの方が良いだろう。


「最低でも3ヶ月は宿暮らしか」


 さて、出来ることから始めますかね。

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