第4話

 ゲーネッツが再び声を潜める。


「この村で女遊びがしてぇが、どうも具合がよろしくねぇ」

「そうなんですか?」

「あぁ。みんな身持ちが堅くてよぉ……」

「ふぅん」

「お前さんはどうだ?」

「う~ん。どうだろう? まだ来て2日目だからなぁ」

「10年前だっけか? 村を出たの」

「はい。当時8歳だったから、その辺の事は全然でしたし。最近の村の事情もさっぱりです」

「そぉかぁ」


 そう言ってゲーネッツは天井へ視線を向けた。


「まぁここには仕事で来てるだけだがよぉ。どうせなら遊べる場所も欲しいよなぁ」


 ゲーネッツはそう言って俺を見る。


「村長あたりに進言してみちゃくれねぇか?」

「俺がですか?」

「あぁ」

「まぁ、そういう要望があったと話すだけなら」

「おっ。ありがてぇ。頼むぜ」


 そんな会話をしていると、ゲーネッツを呼ぶ一人の優男がいた。隣には妙齢のキレイな女性もいる。2人とも20歳前後ぐらいだろうか。


「ゲーネッツ。村人に絡むんじゃない」


 するとゲーネッツは首を左右に振って答える。


「ちげぇよ。絡んでねぇって。普通に話をしてたんだよ」

「そうか?」

「おう。なっ! ジン」


 そう言って俺の肩を叩き話を振ってきた。俺はその男女に自己紹介をする。


「ジンです。よろしく」

「カイトだ。こっちの女性はアヤ。それで? ゲーネッツに絡まれてない? 大丈夫?」


 カイトさんが心配そうにしているので、俺は笑って答える。


「大丈夫です。ちょっと話をしていただけです。ありがとう」

「そうか。ならいいけど」


 そう言ってカイトさんはゲーネッツに「そろそろ行くぞ」と言って外へと促した。


「おう。じゃあなジン。さっきの件、話すだけでもいいからよろしくな!」


 そう言って3人は出ていったのだった。


 その後は、久しぶりに村の中を見て回った。昔に比べて建物が増えたと感じる。順調に発展しているようだ。魔の大樹海による恩恵だろう。ありがたい。


 変わった場所。変わらない場所と様々だ。その時、1人の村人とすれ違った。赤毛混じりの茶色い髪の女性だ。背中には赤子が背負われている。その村人が俺を見て驚いた顔をした。


「えっと。もしかして……ジン?」

「うん?」


 俺は振り返り、首を傾げた。誰だっただろう?


「私! カレナ! 覚えてないかな? ほら。昔よく一緒に村長に悪戯をした!」


 俺は言われて思い出した。


「カレナ! うっそ! あの? マジで!」


 俺が駆け寄り、まじまじと見る。


「本当だ! たしかに面影がある! その鋭い眼光。たしかにカレナだ!」

「目付きが悪くて悪かったわね! それにしても、うっわ。久しぶり! どうしたの? 帰ってきたの? 元気だった?」


 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。俺は視線を彼女の背中に背負われる赤子に向けた。するとカレナが笑った。


「あぁ。この子?」

「うん。カレナの子?」

「そう。去年ね」

「へぇ。おめでとー!」

「うん。ありがと」


 そう言って照れる姿は新鮮だ。俺はそんな幼馴染の姿に思わず笑顔になってしまう。


「へぇ。カレナもすっかり大人の女性だね。あの頃は男の子みたいだったのに! ふふ。可愛くなったね」


 するとカレナが真っ赤になって照れた。


「ちょ! 何! バカじゃないの! 何を言い出すのよ!」

「あはは。ごめん。でも、そっかぁ。10年だもんな。みんな大人になったんだよなぁ」

「そ、そういうジンだって。すっかりカッコよくなっちゃって。まぁうちの旦那には負けるけど?」

「あはは。あ! ところで旦那って誰? 俺の知ってる人?」

「うん。私の旦那はゴンダだよ」

「うっそ! ほんとに? あの頃、あんなに仲悪かったのに?」

「うん。まぁ色々あってね」

「へぇ?」


 何があったんだろう? すっごい気になる。でもカレナは話題をそらしてきた。


「あはは。まぁ私の話は追々ね。それで? 我が村から旅立った天才ジンは、どうしたのかな?」

「あはは。ちょとね。理想と現実が合わなくてさ」

「ふぅん?」

「うん」

「そっか。色々あったんだ。それで? 村には?」

「うん。村で錬金工房を開こうと思ってる。後は雑貨屋もね」

「おぉ! ほんとに! 何を作るの?」

「傷用のポーションを中心に、色々作ろうと思ってるよ」

「へぇ。いいね。この村に錬金術師かぁ。うわぁ! いい。すっごくいい!」

「あはは。ありがと」


 しばらく話し込んでいたら、カレナの背中の赤ん坊がグズりだした。カレナがあやし始める。俺はしばらくその姿を見ていたが、いつまでもそうしていても仕方がない。


「さて。それじゃあ俺。そろそろ行くな」

「うん」

「まぁ、これから宜しくな。ゴンダにもよろしく伝えておいてくれ」

「わかった」

「じゃな!」

「じゃね!」


 そう言って別れた。しばらく歩いて村をもう一度見る。


「そっかぁ。子供かぁ」


 幼馴染が子供を産んで、母親や父親をやっている。村はあまり変わっていないように見えるが、でもそこに住んでいる人々は色々と変化していってるんだなぁ。


 とっても感慨深くて、何だか胸が締め付けられる思いがした。

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