第13話
「零くん、夢魔の力使ったでしょ」
眉間に皺を寄せる遥希の睨みに、零斗はシュルシュルと小さくなる。
只今、都外のコンサート会場でリハーサル中である。
正座をしている零斗に、透矢が寄りかかるように座る。
「それで今日、動き悪いし顔色悪いんだ」
ぐりぐりと首の横を透矢の後頭部が刺さって痛い。
すみませんと言うほかない。
遥希の大きなため息に、零斗はびくりと身体を震わせる。
「誰にどう使ったのか知らないけど、活動に支障が出るのは許さないって、いつも言ってるよね」
「はい...ほんとにごめんなさい」
「ご飯は?」
「満月ちゃんの夢を食べてきました」
「1人に固執するから、回復が遅いんでしょ。...誰か人間の女の子スタッフ、何人か呼んで来て」
遥希の指示に、巳也が探しに行く。
零斗は慌てて立ち上がり、よろめいた。透矢が腕を掴んで転ぶことは回避させる。
「不味いのは食べない方がマシです」
そう訴えるが、遥希から激痛デコピンをくらった。
「いいから、精気だけでも食べろ」
デコピンの勢いで大の字に転がった零斗の周りには介抱と称して、ハーレムが出来上がった。
様々な好みでない味に、零斗は現実逃避を始め、気絶するように眠った。
すっきりしない心は置いておいて、多めの精気摂取のおかげで頭はクリアになり、リハと演出決めは無事終わった。
今すぐにでも帰って満月を直接味わいたいのを我慢して、数日ホテル暮らしだ。
せめて夢だけでもと満月の夢を食べて過ごしたが、あのセクハラ男はあまり出てこなかったので、懲りたのだろうと安心していた。
たまに帰っては家事をこなすツアーの日々が終わり、最終日のコンサート会場近くで打ち上げが行われていた。
零斗は早く帰りたい一心だったのだが、前回も捕まった女のお偉いさんに、絶え間なく飲まされている。
(すでに吐きそう)
顔を引き攣らせながらも、粗相をしないよう努めて、笑顔をキープする。
「私が介抱してあげるから、好きなだけ飲んでいいのよ」
零斗は押しつけられる胸の感触と、独特な女性用香水の匂いの気持ち悪さに、意識を手放しかけた。
もう限界だと、にっこりと彼女に笑いかけ、見惚れさせている隙をついて立ち上がる。
「明日も仕事があるので帰りますね」
女に背を向けようとしたが、手首を掴まれた。
「明日がお休みなことは知っているわ。帰るなら、あなたの家で飲みましょう?じゃないと、これからのアイドル活動...どうなっちゃうかしら」
零斗は青筋の立つこめかみを落ち着かせ、ゆっくりと座り直す。
「あら、お家に連れていってくれないの?」
「スキャンダルは御法度なので」
「残念」
唇を突き出し肩を落とす艶美な女は、こうして気に入った若手に手を出しているのかと、嫌悪する。
その後もグラスが空になるたびに酒が注がれ、朝日によってうすら明るくなる頃にようやっと解放された。
満月からの帰ったというメッセージは4時間も前に届いていた。
零斗は自宅トイレに座り込む。
(...気持ち悪い)
便器に頭を突っ込もうとすると、スマホが鳴った。満月から今日は休みですと、メッセージだった。
了解の返事をして、気合いだけでシャワーを浴びる。
ベッドへ身体を放ると、数時間気を失っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます