第14話 アルミロ・カサヴォーラ

「エイスケ、お前さ、友達はいねえのか?」

「は? 沢山いるが?」


 親友のアルミロ・カサヴォーラの問いに、エイスケは顔をしかめた。少々、いや、かなり傷ついている。エイスケも多感なお年頃なのだ。


 アルミロはエイスケよりも二回りは歳上に見える壮年の男で、エイスケはよくアルミロに仕事を教えて貰っていた。エイスケはアルミロのことを親代わりとして慕っていたが、それを言うとアルミロは顔をしかめ、そんな歳じゃねえと機嫌を損ねるため、友人アミーゴということで落ち着いたのだった。


 アルミロはエイスケの友人を気取りながら、ちょくちょく親のような質問をしてくる。エイスケのことを気にかけているのが丸分かりなので、そんなアルミロの質問がエイスケは嫌いじゃなかった。なるべく真剣に答えるようにしているのだが、先ほどは考え込む前につい反射で答えてしまった。


「つーか、さっきまで友達と喋ってたのを見てただろう、あんた」


 先ほどまでスラムの連中と馬鹿やりながら仕事をしていたのを、アルミロは見ていたはずだった。ようやく仕事が終わり、今はアルミロと一休みしているところだ。


 貧民街の空き地の一角で、火をくべながら暖を取る。こうやってアルミロと火を囲いながら語らう時間がエイスケは好きだった。


「見てたから言ってるんだよなあ。お前、壁を作ってるのが丸分かりだぜ」


 そうだったか? とエイスケは自分の言動を振り返った。自分では分からない。上手くやっているつもりだ。


 エイスケは自分のことを気さくだと思っているし、悪役ヴィラン相手でも打ち解けるのが早いほうだ。顔見知りに声をかけられることも、まあまあある。先ほど沢山いると言ったのは、別に見栄のつもりは無かった。


「ガッハッハ! 自分では分からんか! なんていうかよ、お前、本音じゃなくて、相手が気持ちよくなるような言動を選ぶほうだろう」

「それの何が悪いんだよ」

「悪くない! 悪くないが!」


 アルミロはそこで言いよどむと、言葉を止めた。


「いや、言い過ぎたな。お前が自分で気付くのが本当はいいんだ。いいか、エイスケ。お前は誰かと意見がぶつかりそうになった時に、一歩退いたり、避けることができる人間だろう」


 過大評価だと思ったが、アルミロの親バカは今に始まったことではない。


「でも、どうしても避けきれないヤツってのはいるもんだ」

「とんでもなく凶悪な悪役ヴィランとか?」

「ガッハッハ! そういうのは避けられる。逃げればいいだけだからな」


 エイスケの的はずれな疑問にアルミロは大口を開けて笑った。そして、真剣な声で言う。


「逆だ、エイスケ。どうしようもなく気に入って、ふらふらしている自分ではなく、本気の自分でぶつかりたい相手。そういうヤツと、出会うこともある」

「へえ……?」


 なんとなく分かる話だった。エイスケはそういう人間に、既に三人ほど出会っている。『予知』の悪役ヴィランと『渇水』の悪役ヴィランは死んで、もう一人は目の前にいる。


「だからエイスケ。そういう時は自分が思うままに、ちゃんとぶつかったほうが良い。お前が、そういうヤツと出会えることを俺は祈っている」

「はいはい。分かってるよ。あんたはいつも説教ばかりだな」


 真剣なアルミロの声に、エイスケは気恥ずかしくなって聞き流すふりをしてしまった。いつもそうだった。アルミロの言葉はエイスケの心にどこか響いていたのに、エイスケはこうやって聞かないふりをしてしまう。本当は、ちゃんと聞いていたのに。なんだか向き合うのが恥ずかしくて、誤魔化してしまうのだ。


 そういう態度を取っていたことを、エイスケは今でも後悔している。

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