【番外編】転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件

きんちゃん

池田笙胡編

1話 池田笙胡

★これまでのあらすじ


 松島寛太まつしまかんたは不運な事故に遭い命を落とす。だが哀れに思った天使ちゃんにより、国民的女性アイドル『WISH』に人生を捧げる、ということを条件に転生を許される。

 超絶美少女小田嶋麻衣おだじままいとして転生するも、まさかの男性恐怖症が発覚しメンバーとして加入することは断念。

 だけど「WISHのために人生捧げる」って言うなら何もメンバーだけでなく、関わる大人たちだって人生捧げてるでしょ。そんならマネージャーになって裏方からWISHを支えることにするから命は奪わないでね、天使ちゃん!……という強引な解釈により、WISHのマネージメント会社『コスモフラワーエンターテインメント』に社員として入社する。

 最初にマネージャーとして担当したのは絶対的エース黒木希くろきのぞみ。そして次にくすぶっていた次期エース桜木舞奈さくらぎまいなのマネージャーを経て、小田嶋麻衣本人がメンバーに転向する以前の話。



 

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 私、小田嶋麻衣が桜木舞奈の次に担当したのは池田笙胡いけだしょうこというメンバーだった。

 小田嶋麻衣として転生し6年ほどが経ち、マネージャーとして2年目の春の頃だった。


「初めまして、小田嶋麻衣です! 池田さん、これからよろしくお願いします!」


 ダンスレッスン後のロビーでの対面だった。


「あ、小田嶋さんですね。これからよろしくお願いします! ……でも、初めましてじゃないですよね?」


 笙胡はレッスン後ということで、タオルで汗を拭いながらにこやかに対応してくれた。屈託のない笑みだった。

 実は彼女の言う通り完全に初対面ではなかった。私が黒木希を担当している時、桜木舞奈の担当をしている時、楽屋やレッスンスタジオですれ違ったことは何度もあった。

 でもきちんとこうして面と向かって話すのはこれが初めてだった。

 

「ええ、そうでしたね」


 笙胡がフレンドリーな笑顔を見せてくれたことで、私の緊張も幾分ほどけ微笑んで答えることが出来た。


「でも小田嶋さん、最初は希さんを担当してて、この前まで舞奈ちゃんの担当だったんでしょ? 次の担当が私なんかで良いんですか?」


 笙胡は少し笑ってみせた。彼女が言うその意味をもちろん私は理解していたが、私は胸を大袈裟に叩いて彼女にアピールした。


「大丈夫です、任せてください! これから一緒に頑張っていきましょうね!」


 池田笙胡はWISHの中でも人気下位のメンバーだった。彼女が自分の担当で良いのか? と自嘲気味に言ったのはそのことだ。


 でもこの時の私ははっきり言って燃えていた。

 腐りかけていた桜木舞奈が奮起し躍進していった。もちろんきっかけは黒木希や他のメンバーや周囲の大人たち、それに何よりも舞奈本人の強い気持ちだ。だけどその一因に自分も少しは貢献できたはずだという達成感をこの時の私は抱いていた。

 どんな人気の出ないメンバーだって、WISHのとんでもない倍率のオーディションをくぐり抜けてきたエリートなのだ! 本人のやる気、ほんのちょっとしたきっかけさえあれば間違いなく飛躍してゆく。それに私もきっと貢献することができる!

 そう確信していたのだ。






 前日の社長とのやり取りを思い出していた。


「麻衣。舞奈の次は笙胡……池田笙胡を担当してもらうわ。彼女のことは知ってるかしら?」


 私が舞奈の担当マネージャーを外れることは少し前に決まっていた。だがまだ次に誰を担当するかということまでは決まっていなかった。それがようやく昨日決まったのだ。


「はい。もちろんです!」


 私はマネージャーになる前からWISHのことを注目して見ていた。オタクだったと言っても良い。だから当然彼女のことも知っていた。

 彼女は2期生で、希の後輩、舞奈の先輩にあたる。加入から5年目で二十歳の大学生。幼少期から歌とダンスを習っておりライブ時のパフォーマンスには定評がある。

 だけど人気は50人近いWISHのメンバーの中で下から数えた方が早いくらいだ。ルックスやスタイルが見劣りするかというとそんなことは全然ない。

 じゃあなぜ人気が出ないか? というのは難しい問題だ。そもそも不人気になることが見込めるような子はメンバーとして採用しない。そんなことをするのは運営側にとっても本人にとっても不幸でしかないからだ。採用した時点では彼女もきっと人気が出ると誰かが判断したのだ。


 ルックスも良くてパフォーマンスも良くて……でもなぜか人気が出ないメンバーというのが彼女の他にも何人かいた。オタクの方々の推すポイントというのは本当に人それぞれで、傾向を予想することは非常に難しい。


「まあ、希や舞奈に比べたらやりがいのない仕事かもしれないけどあんまり気を落とさないでね。麻衣には期待してるんだから」


「そんなことないですよ!」


 社長は私を慰めるような口調で言ったがそれは心外だった。

 どんなに不人気なメンバーだって間違いなく素晴らしい魅力を秘めている。それを分かりやすい形で世に出すことが出来ればきっとブレイクする。むしろ池田笙胡というあまり人気のないメンバーを私の手によって開花させるのだ! 私ならきっとそれが出来る!


 この時の私は燃えていたのだ。



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