現実世界編

41話 安心安全のはるぴよチャンネル

 まあそんなこんなで順調に『はるぴよチャンネル』は登録者を伸ばしてゆき、40階層を突破したあたりでチャンネル登録者も5万人を超えた。

 応援の投げ銭も多く飛ぶようになり、広告収入と合わせるとはるぴよの会社員としての月収を上回りそうな勢いだった。


 もちろんこうした恩恵のほとんどははるぴよ個人の実力ではなく、3人の新撰組の未だ底の見えない戦闘力が根底にあることは間違いない。それに比して自身はそのレベルに全く達していないというのがはるぴよのコンプレックスでもあったが……まあこの点に関しては焦っても仕方ないだろう。


 シニチェクと絡んだ時の動画は未だに方々で拡散されていた。

 そのイメージではるぴよの配信を観に来る視聴者がいつまでも絶えないのは嘆かわしい限りなのだが、そのおかげで新規の視聴者が増え続けてもいるので……トータルではプラスの方が大きいかもしれない。




 相変わらず変な絡み方をされることは多い。


〈新撰組? が本物なのかはよく分かんないけどさぁ……何なのあのいけ好かないお局おつぼね女子みたいな女! あの女がいなければもうちょい見れるんだけど〉

〈ね? 私、このチャンネルを最初からアーカイブ辿って見てみたんだけどさ、結局この女がこのチャンネルでそれなりに視聴者を獲得してるのって3人の新撰組をたまたま拾ったからなのよね。マジで運が良かっただけで、頭の悪いモテない男たちからチヤホヤされてるのってホント滑稽よねww〉

〈ね、マジでそれ! っていうかあの3人はホントに新撰組なのかしらね? ちょっと一回確かめるために外に出てきて会わせなさいよね?〉

〈あ、それは良い案! ホントに新撰組なら女子ファンはさらに増えるだろうし、単なるコスプレで映像とかも加工で誤魔化してるのがバレたらマジで人気は地に堕ちるわよね!〉

〈ちょっと、それは流石に可哀相でしょwww一応配信者なんだからそこまで化けの皮剥がさなくてもwww〉

〈まあ、ビビッてなかったら外界で会えたら私たちも嬉しいで~す! ご検討のほどよろしくで~す〉


 もちろんこうした野次馬コメントは無数に飛んで来る。普段は無視しているのだが、時として無視し続けるわけにもいかない時もある。

 それは単にはるぴよの虫の居所の問題の時もあるし、他の視聴者を不快にさせる可能性が高い時、それから反論することで視聴者が喜びそうな時だ。はるぴよは自然とチャンネル全体を視聴者目線で捉えるようになってきており、個人の意志を優先することは少なくなっていった。というかはるぴよ個人の意志というもの自体が無くなってきているような感覚だった。




「は? 自宅のスマホで寝っ転がりながら嫌いな配信者の動画にわざわざご意見送ってきてるヒマなBBAたちが何を偉そうに言ってんの? こっちはダンジョンに命賭けてリスク背負ってやってんだけど? 何の行動もしてない外野が偉そうにいうことほどダサいことはないからね? マジであなたたちもこれから何か没頭出来ることが見つかると良いでしゅね~」


 このはるぴよの返答に支持者たちはと喝采を送った。

 以前なら決して思いつきもしなかったこんな文言も、今のはるぴよはスラスラと言えるようにまでなっていたのだ。


 こうした発言がさらなる炎上を呼ぶことは想像に難くない。はるぴよは何度もこうしたことを繰り返していた。

 不思議なことにはるぴよアンチは女性が多く、逆に支持者は男性が多い。

 その理由を一言で言い表すのは難しいが、厳しい受験勉強をくぐり抜け大手企業に入ったはるぴよは男性的な役割を求められてきたせいかもしれない。しかしもちろんはるぴよは男性ではなく女性だ。男社会で生きてきた分、受けてきた優しさも理解しているし、男性側からのほぼ無意識の差別も同時に理解しているということだ。

 そうした立場がはるぴよの理解力を生んだのかもしれない。

 いつの間にかはるぴよは弱者男性の味方のような役割が求められるようになっていたのだ。


(……いやぁ、でも熱狂的な信者の方が怖いからね……)


 しかしはるぴよ自身は執拗に絡んでくるアンチよりも、むしろ熱狂的な支持者の方を警戒していた。

 アンチの方が飽きるのが早い。飽きたらこのチャンネルは見なくなるわけで、散々アンチコメントを送ってきたアカウントがいつの間にか消えている……なんていうのはよくある話だ。

 それに対して熱狂的なファンはいつまでも執着する。

 そして何かのきっかけで熱狂的なファンがアンチに転換する……愛が憎しみに転ずる……というのもあまりによくある現象だ。

 しかもコメント欄を見ているとはるぴよの熱狂的なファンは弱者男性が多いように見える。

 まあはるぴよのスペック、そして今までの振る舞いなどは彼らをターゲットとしてきたとも言えるのだから当然だろう。しかしだからこそ彼らを敵に回してしまった時は怖いのではないか……そんな恐れがはるぴよにはあった。


(……まあ、何とかなるでしょ!)


 だからこそ、自分1人の意志よりも全体として求められている方向にチャンネルを持っていくということをはるぴよは優先したのだし、彼らの傾向も地雷がどこにあるのかも少しずつ理解出来るようになってきている実感があった。

 配信活動を始める前に思い描いていた健気なアイドル系配信者とは真逆な存在かもしれないけれど、まあこれはこれで意義のあることをしているんじゃないだろうか?


 はるぴよがそんな小さな満足感を味わえるようになったのも、チャンネル登録者数・視聴回数という明確な結果が出ていることが要因だろう。数字こそがはるぴよの最も確実なメンタルヘルスなのだ。



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