39話 炎上路線暴走中!
(……しまった……そんなつもりじゃなかったのになぁ……)
怒り散らかしてからのはるぴよの後悔は早かった。
なぜこの後悔の早さが怒りが表出される前に発揮されないのか。人の言動というのは不思議なものである。
絡んできた当のコメント主は捨て台詞を残して早々に去っていったし、それに乗じて数百人単位の視聴者が去っていった。最初のコメント主と同様の反感をはるぴよに対して漠然と抱いていた視聴者が、一定層いたのは確かだろう。
でもまあ皆がそこまではるぴよに対して反感を抱いて視聴をしていたわけでもなく、関係のない女性全体を敵に回すような言動をしてしまったために去っていった人も多少はいたことだろう。
あるいは男女関係なく単に激しい言葉遣いや語気が苦手だという人も多いはずだ。 ダンジョン攻略配信者の中でもはるぴよのような非ガチ攻略系の配信を見に来ている視聴者は平和でまったりした配信を求めている人が多かったはずで、そういった層にとっては理由がどうあれはるぴよが激昂したという事実だけで離れる理由に充分なのである。
だが不思議なことに一旦は目に見えて減った視聴者だが、その日の配信中に徐々に視聴者数は回復してゆき、擁護のコメントやはるぴよ自身のフォローをする人も増えていったのである。
〈いや、はるぴよは正論しか言ってなくね?〉
〈いや、ホントそれよ。自分のお気持ちしか表明しない例の『ガールズちゃんねる』の奴らに比べてはるぴよは割と全方位が見えてるよな〉
〈言いたかないけどさ……はるぴよって実は男なんじゃね?〉
〈wwwいや、動画加工の女装するならもうちょい露骨に可愛い女の子にするでしょ! リアルなアラサー女子にわざわざなろうとする男はいなくね?〉
〈まあガリ勉やって大手企業でバリバリ働いてたら実質男みたいなもんでしょ?〉
〈あ~……まあ男との縁はなかったろうなwww〉
「もう! いい加減にしなさいよね! 私は女だっての!」
〈あ、怒ったwww〉
〈まあ年齢とか容姿とかをイジるのはナシにしとこうや。流石にダサいっしょ〉
〈な、21世紀じゃないんだからな〉
〈別にはるぴよチャンネルは普通に面白いから俺たちは見てる。それだけで良いでしょ?〉
相次ぐイジりなのか擁護なのか判別し難いコメントにはるぴよもどう反応するか迷っていたが、何とかプロレス的に怒ったフリをして切り抜けることが出来た。
それに乗じてさらなる擁護のコメントが飛んできて、何とか平和的な配信を再開することが出来てホッとするはるぴよであった。
そんなこんなでしばらくは平和的なダンジョン攻略配信を続けていたはるぴよだったが、一つのコメントが飛んできたことでまた風向きは変わってしまった。
〈はるぴよさん。ボクは猛勉強して今年からはるぴよさんと同じ慶光大学の学生になったんですけど入学して見たら思ってたよりも全然大学生活が楽しくないです。憧れの慶光にさえ入学出来たらすべて上手くゆく。輝かしい大学生活が待っている! そう思って地獄のような受験勉強に耐えてきたのですが……現実はそうではないようです。一体ボクはどうしたらいいでしょうか?〉
「……」
再び和気藹々と新撰組3人にツッコみ、ツッコまれながらのゆるゆるとしたダンジョン攻略配信が再開した直後だった。だから流石にこのコメントを取り上げる気にはなれなかった。
もちろん現在の攻略配信とは関係のない質問が飛んで来ることは日常茶飯事である。
〈今日の晩ごはん何食べる?〉
〈好きなブランド何ですか?〉
こうしたダンジョン攻略には何に関係もない質問に答えることが、配信者の人柄を伝えることとなり、時として人気獲得につながることは想像に難くない。
でもだからこそ、その中でどんなコメントを取り上げるかは配信者側に選ぶ権利がある。
だから今このタイミングでどちらかというとシリアスなお悩み相談に応える気にはなれなかった。恐らくは多数の視聴者もそれを望んではいないはずだ。彼らはまったりとした攻略配信を楽しみたいのであり、勉強や学歴や人間関係といった現実問題からなるべく目を背けるためにこの配信を見ているのだ。
そもそも、コメントを送ってきた少年(?)が本当のことを言っている保証は全くない。名前も連絡先も知れない一視聴者でしかないのである。それにイチイチ真面目に応じなければならない理由はない。
「……はぁ、あのねぇ、私がうっかり喋っちゃった大学名をそんなに連呼しないでよね……」
だけど、そんなことが分かっていてもはるぴよはそのコメントをスルー出来なかった。
彼の送ってきたコメントがあまりに自分にも思い当たったからだ。
「……ってかねえ、大学生活がキラキラ楽しいなんてのは幻想だよ。一流大学だろうと三流私大だろうと多分そんなに変わんないよ、結局は。男女交際に新歓コンパにバイトにサークルだ……なんてのは一部の学生が作り上げた虚構だね。そういう虚構を楽しめるかどうかはその人の性格でしかないと思うよ。で、そういう奴らは大抵大学で何にも学んでないし、そういう奴ほど社会に出て成功するよ」
〈え? 成功する? 社会に出ると社会の厳しさに直面してすぐにやられるんじゃなくて?〉
ややあって、同じアカウントから返答が返ってきた。
「そういうもんなのよ。社会ってのは。まあ真面目で誠実なのがどっちかってのは言うまでもないけど、そんなのはほとんど誰も評価しないわよ。まあ可能なら上手くやってくことを……上手くやっている風を装えるように可能な限り演じてみるのも悪くないと思う。まあ最初は自分のことを滑稽に感じるかもしれないけどね。ムリならアナタは私と同類ってことよ。受け入れるしかないでしょ」
〈……なるほど。ちょっとボクには大人過ぎて完全にわかったとは言えないですけど。でもきっとどこかで役に立つと思います。胸に刻んでおきます。わざわざコメント拾ってくれてしっかり答えてくれてありがとうございました!〉
「まあ……頑張ってね、応援してるから。また時々配信も見に来てちょうだいな」
彼の悩みははるぴよにとってはあまりに身につまされる悩みに思えた。
果たしてどれほど少年に伝わったかはわからないが、少しでも有意義な交流の場になったのなら、配信を続けてきたそれ以上の意義はないようにすら思えた。
〈は? 何コイツ? 女に嫌われてるからってあからさまに雑魚オスのご機嫌取り出したんだけど! 最初は女の巣窟にも宣伝入れて女の味方を増やそうとしてたのに、諦めて寝返るの早すぎじゃね!? マジでみっともなさ過ぎて笑いが止まらんのだがwww〉
だからこそ、誠実に答えた内容に対する明らかな第三者の茶化しは絶対に許せなかった。
「……うるさいな、もう! マジでもう関わってくるなよ! 悔しかったら私と同じように配信者になってそこそこの人気になってみろよ! 所詮アンタみたいなモニター画面の前でキーボードをカタカタさせるだけで私と対等になった気になっているだけのクズだよ。この負け犬の遠吠えが!」
本日2度目、はるぴよの視聴者への怒りが炸裂したのであった。
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