第2話
「ラスト一個…」
入学式の片付けはいつも生徒会の仕事らしく俺は例に漏れず淡々と仕事をしていた。4月に入ると気温はすっかり暖かくなり、学校の桜の木も満開を迎え、風に揺られながら花びらをはらはらと落としている。歓迎される側だったのが昨日の事のようなのに、もう歓迎する立場になったんだなとしみじみ思いつつ生徒会長の元へ戻った。
「会長ー!椅子の片付け全て完了しましたー!!」
「了解!じゃあそろそろ解散するか!」
軽く先生方に挨拶をし解散してふとスマホを見るとLINEの通知が来ている。
「ちょうど今部活が終わったから、みんなでゲーセン行くけど拓人も一緒に行かね?」
普段なら受けるであろうそのお誘い。しかし今日だけは断らせてもらう。
「めっちゃ楽しそうだけど、今日大事な用事が入ってるから無理だわ。また今度、埋め合わせするな!」
そう、なんてったって今日は俺の大好きな少女漫画、「君に捧げる恋の音」の発売日なのだ。前回から半年。ずっと待っていた最新刊。しかも今回はアクリルチャーム付きの特装限定版までもが発売される。キャラをモチーフにしたマークをあしらったチャームで絶対に欲しいと思っていたのだ。売り切れてたら悲しすぎて死ぬ。どうかまだ残っててください、と願いながら本屋のある駅に向かう電車に駆け込んだ。
まだ昼間だからか、乗った電車の席はいくつも空いており、俺は1番端の席に腰を下ろしてふとドア付近にいる男子高校生を見た。すらっとした背、さらさらした髪の毛、凛とした目。見た感じ俺と同じ高校の制服を着ており、薔薇のブローチをつけていることから、一年生だと判断できるが、どこか王子様のような雰囲気も相まってまるで「君に捧げる恋の音」の主人公神楽蓮みたいだ。こんな近くに凄い人がいるものなんだな、と思いながらじっと見つめていると、目線に気付いたのか、向こうがこちらに目を向けてきた。慌てて目を逸らし、何事もなかったかのようにゲームを始めたのだが、その視線は向こうが降りる次の駅まで外されることはなかった。
ヒロインだって夢じゃない @pukupukumarumaru
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