詭弁/冴木さとし への簡単な感想
応募作品について、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。全ての作品に必ず感想を書くというわけではありませんのでご注意ください。
指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。
そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。
またネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。
詭弁/冴木さとし
https://kakuyomu.jp/works/16817330653942137234
フィンディルの解釈では、本作の方角は真北です。冴木さんの宣言と同じですね。
本作はトロッコ問題をコミカルに扱った作品です。
トロッコ問題は「正解を出すこと」が目的ではなく、どのような理由・考えによってその回答を出したかを分析して“人”を知ることが目的であると考えています。学術的な心理テストみたいなものだろうと思います。心理テストもテストとは銘打ってますがテストではないように、トロッコ問題も問題とは銘打ってますが問題ではありません。
これを理解しているようで理解していないのが鬼怒川で、理解していないようで理解しているのが犬猿だろうと思います。
トロッコ問題は倫理上の課題でありAI作成にも関連するという基本情報を踏まえたうえで“素晴らしい正解(回答)”を出して論文に活かそうとするのが鬼怒川で、トロッコ問題のことはよく知らないがどうもこれは人の意思決定と考え方を探るためのツールに過ぎないのだから“素晴らしい正解(回答)”を出すことに意味なんてないとするのが犬猿なのだろうと解釈します。心理テストは出題する側になって初めて論文になりうるのであって、出題される側ではおよそ面白い論文にはならないでしょうから。
そんな両立場のやりとりを延々と続ける作品だろうと思います。平行線を描くことで、立場の違い、あるいはトロッコ問題を多角的に描いているのだろうと思います。
それはいいのですが、フィンディルが気になったのはコメディの処理の仕方です。
フィンディルは本作を真北だと判断しました。コミカルに描いている点と、犬猿が鬼怒川を煙に巻いて話を終わらせることを目的にしている点です。
ただこの目的設定の描き方が中途半端なんですよね。ちゃんと犬猿に目的を設定できていないように感じました。
課題で忙しくて(トロッコ問題に)興味がない→共同論文になりそうだから興味を持つ→やっぱり課題が忙しい→無料飯という報酬で興味を持つ→やっぱり面倒くさい→煙に巻こう→煙に巻く、みたいな流れであると思います。
犬猿の方針が二転三転しているように感じました。興味ない、興味持つを繰りかえして、結局興味ないから煙に巻こうが最終目的になっているんですよね。「こうなることが犬猿の目的です」が本作ではずっと定まっておらずふらふらしていた印象があります。
トロッコ問題の表現で犬猿と鬼怒川の平行線が描かれてすっきりしないだけに、コメディ作品としての主人公の目的までも曖昧だと、作品全体が不安定でぼんやりした読書体験になってしまっているように思います。
北北西や北西ならばそういうぼんやりした読書体験も良いのですが、本作はなまじ犬猿の興味有無で目的自体は示されているので、北北西や北西と同じように見ることも難しいと思います。目的の矢印自体がなければぼんやりしていてもいいのですが、本作は矢印自体はあるのに矢印の向きが何度も変わっているイメージです。
ですので犬猿の目的を最初に設定してそれを一貫させる、真北エンタメの基本構成を設置してみるといいんじゃないかなと思います。
たとえば「鬼怒川からトロッコ問題の話をされたが、課題で忙しいからその話を早く終わらせたい」という目的を一貫させてみる。適当なことを言って鬼怒川を満足させて話を終わらせようとするが鬼怒川がしつこいので、煙に巻いて終わらせるなど。
これを意識してみるだけで本作は真北コメディとしてすごく読みやすくなると思います。本作は途中途中で犬猿が興味を持ってしまっているのでどう読めばいいのかが判然としていないように思います。
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