転生奴隷の世界再生計画! - 転生したら秒で死ぬ奴隷モブキャラだったので、フラグへし折って生き延びたら親切な家に拾われた。どうやらそこの娘が勇者っぽいので育ててみることにする。
はやしはかせ
はじまりの記録
一人の青年の命が失われようとしている。
クロードが帝国第三の都市エクリアの使者としてザクロスの街を訪れたのは、冬から春へとさしかかる時期だった。
かの英雄エルンストの息子をザクロスの市民は温かく迎え入れたが、事件が起きてしまう。
一人の奴隷が警備をくぐり抜け、クロードにすがりついたのである。
「英雄の息子よ! どうか我らをお救いください……!」
奴隷の名はジェレミー。
その首には最下層の身分を示す黒い輪の刺青がある。
「どうした?、落ち着け、大丈夫、大丈夫だから……」
クロードはジェレミーの肩に手を置き、落ち着かせようと微笑む。
「このままでは皆、殺されてしまいます……。どうか、どうか」
その訴えにクロードはうろたえた。
「殺されるって……、どういうことだ?」
顔をしかめ、ザクロスの町の長を見たクロードであったが、
「使者の服を汚したなっ!」
奴隷の不始末に怒った町長はジェレミーの首をつかみ、地面に叩きつけた。
町長とその部下たちがジェレミーを囲み、彼を殴り、蹴った。
歓迎の式典を台無しにしたジェレミーに民も怒り、
「殺せ! 殺せ!」
と叫び狂う。
「おい、やめろ! そんなこと望んでいない!」
叫び声だけが虚しく響いた。
クロードに運命の時が迫っている。
「皆、聞いてくれ」
ザクロスの町長に虐げられ、苦しみ続けていた奴隷達を前にクロードは言った。
「ジェレミーは殺された。俺はそれを止めることが出来なかった」
ジェレミーの遺品である指輪を握りしめるクロード。
「俺は誓う。彼の意思は俺が引き継ぐ。俺が君たちを助ける。君たちを解放する」
驚く奴隷達にクロードはその決意を叫んだ。
「今から俺は帝国の敵だ!」
終わりは近い。
全身に弓を射られ、町長は倒れた。
「なんて馬鹿なことを……」
口から血を吐き出しながら町長はそれでも恨み言をぶつける。
「こんなことして、帝国が黙っていると思うなよ……。お前なんざ、あっという間に……」
「俺は俺の信念のもとに行動した。正義は成し遂げられる。必ずだ……!」
クロードはためらうこと無く前を見ている。
「きっと伝わる。どちらが正しいか、わかってくれるはずだ」
「……その前にお前は死ぬんだよ!」
町長の体が変ぼうする。
見るもおぞましいモンスターへと変わっていった!
「なんだこれは……」
思わず後ずさるクロード。
目の前にいるのは人ではなく、獣のような毛を生やした巨人である。
彼は心を奮い立たせ、奴隷達に叫んだ。
「ここで退くわけには行かない! 最後の勝負だ! 武器を構えろ!」
クロードの命が尽きようとしている。
「ざ、残念ですが、エルンスト様は我々の受け入れを拒否しました」
部下が体を震わせながらクロードに報告する。
その目からは涙が出ていた。
「そうか。当然の判断だ」
圧制者を倒したものの、クロードとその奴隷達は反乱者として帝国軍から追われる身となっていた。
頼みの綱として父が治めるエクリアまで逃亡したが、父はクロードを受け入れなかった。エクリアを守るために息子との縁を切ったのである。
行き場がなくなった。
どの道を行っても帝国軍が待ち構えている。
残された日はわずかしかない。皆が気付いた。
「甘かったな、俺は」
クロードは素直に過ちを認めた。
「それでも逃げよう」
クロードは部下に言う。
「必ず道があるはずだ」
それでもクロードの命は風前の灯火だった。
妹のエリアが極秘裏に兄の元を訪ねたのはその夜のことである。
「父上が隣国ウォードに話を付けてきてくれた。逃げるならそこしかない」
日頃から男装の麗人として知られるエリアは今日も男のように振る舞う。
これが今生の別れであると知りつつも、エリアはあえて普段のように接した。
「部隊を細かくわけて目立たないように動けば、無事にたどり着ける可能性はある。だけど、ウォードまでは厳しいよ、兄上」
「わかってる。始めたのは俺だ。俺が終わらせる」
すべてを受け入れたクロードは落ち着いていた。
「俺が囮になって時間を稼いだ上で投降すれば、他の部隊は国境を越えられるはずだ」
「だろうね」
エリアはその美しい顔を一瞬だけ歪ませた。
「さよなら兄上。後は任せて」
「ああ、頼む」
エリアは静かに出て行った。
そのやり取りを見ていた部下たちは穏やかな顔でクロードに言った。
「我々は最後まであなたと共に戦います」
クロードは笑顔で頷いた。
「すまない」
やがて最後の戦いが起きて、クロードは捕らえられた。
その身柄は帝都イングペインに運ばれ、皇帝シオンの命により、死罪となった。
処刑の全貌は大勢の民の目にさらされ、皇帝の母ネフェルまでもが見物にくるという、一大イベントとなった。
ギロチンでスパッと首を切り落とされたクロードの姿に、帝国に逆らうことがいかに愚かなことか、誰もが思い知った。
処刑前日の夜、牢の中でクロードは呟いていた。
「悔いはないが別の道があったとは思う。あまりに急ぎすぎたのかもしれない。愚かな俺を導く軍師がいたら……」
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