第5話 街


かたす駅の改札は無人みたいだった。



「あ、ここってお金……」


「形だけの駅だから、心配しないでいいわ」



一応聞いてみて、お金を払わないで通っていいと言われたが、いけないことをしているような気分で改札を抜ける。



かたす駅は電車内でも見たように、周りには道らしい道もなく、ただただ木が生えているだけだった。藁人形が釘で打ち付けられてそうな雰囲気だ。

怖くはないけど。



電車がどうやってここに来れたのか気になって、後ろを振り向く。

見ると線路は途中から黒いもやらしきものに包まれていて、そこから先にはなかった。

なんか怖え。



「あ、そうだ。貴方の名前は?」



思い出したように、前を歩いてた女の人が振り向いて聞いてきた。



「江人、巻森江人です」


「へぇ、コートくん……私は口裂け女って呼ばれているわ」


「ほー……じゃねぇ! え! 口裂け女!?」



やっべぇ、また興奮してきた!


俺の突然の大声に女の人は、いや口裂け女様は思わず足を止めてびくっと肩が上下したが関係ねぇ!



「く、口裂け女様ってあの都市伝説の……!」


「え、えぇ、トシデンセツってよく分からないけど、多分合ってるわ。……様?」


「口裂け女様、妖怪だったんですね! 本物に会えるとは思わなかったっす!」



興奮しながら詰め寄る俺と反対に、少し引き気味に口裂け女様は後ろに下がった。



「こ、コートくんっていつもこうなの? さっきも奇声上げてたけど……あと様付止めてくれる? 敬語も別に怒らないから……」


「いやいや、かたすとかいうただの噂みたいな駅に実際に! 行けたんですよ!? もうテンションがやばいっす!」


「一旦落ち着こう……落ち着こう……じゃないと街へ連れて行かないよ」


「承知しました!」



それじゃしょうがない。くっ……もっと聞きたいことがあるのに。


あっ、あれは……あれは絶対に、聞きたい。というか見たい。




「最後に一つ、質問していいですか?」


「へ、変なことでなければ……」



よしきた!



「口裂け女様のマスクの下どうなってるんですか? 見てみた」


「それはだめ」


「いです。……え? なんでですか! 変なことではないですよね?」



あぁ、という顔をして口裂け女様はその理由を教えてくれた。



「妖怪は、何か普通の生き物が持たないような力を持っている……知ってるわね?」


「そりゃあ、口裂け女様がさっき長ったらしく説明してくれましたし」



ほら、あれでしょ? 河童とか頭の皿に水があったら怪力が出せる……っていう感じの。



「敬ってるのか、馬鹿にしてるのかどっちなのかしら……とにかく、私にもそういう力があってね」



口裂け女様が何もない空中に手を向けた。


何してるんだろ、と思った途端、口裂け女様の手が虚空を掴んだかと思えば、はさみが現れた。


うぇ!? すげぇ!



「それが、口裂け女様の力……?」


「いえ、違うわ」



違うんかい!



「私の素顔を見た相手の顔を、切り刻めるって力よ」



お、恐ろしい……なんて力だ……待って、想像したらグロい。やだ。


でも、グロは無しで俺もそんなの欲しいなー……あ。



「その力って、妖怪なら誰でも持ってる感じっすか……?」


「ええ、コートくんもよ?」


「おおお! ちなみにどういうものかは……」


「それを知るために街に行くのよ。着いてきて」



そう言って口裂け女様は身を翻し、森の中へ入っていった。慌てて俺もその後に続く。


それから何分かして、口裂け女様が前を向いたまま言った。



「見えてきたよ」


「……すげ」



木の間から光が見える。それは近付けば近づくほど形がはっきりとしていき、提灯ちょうちんだと分かった。



そこにはオレンジ色に照らされた繁華街があった。しかし、ただの繁華街ではない。


木製の家一つとっても、壁に淡い光が照らされ妖しげな雰囲気を漂わせている。


そして、がやがやと道端で談笑したり、商売したりしている者は角が生えていたり、歩いているのは人とは思えないものばかりだ。


頭が異様にデカかったり、毛むくじゃらだったり、蜘蛛みたいだったり。



「……ここが」



ここが、妖怪の街。



これからのことを考えてたら顔にでてたらしく、口裂け女様が変態を見るような目で見てきた。なんで?

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