3話

 次の日。 

 討伐パーティの点呼が終わると、隊列を組んで、ヒュドラの元へ出発した。

 国境の湖。そこにヒュドラが棲みついている。

「行くぞ!」

 5人ずつが1列になって、順に攻撃を仕掛けていく。毒を吐く素振りを見せたら後退する。

 決めているのは、それくらいだった。

「葉月、昨日、用意させていたのは一体なんだ?」

「フ、フ、フ、まだ秘密~」

 最後尾には葉月が用意させた壺を持った従者がいる。

「葉月達は武器ないのか?」

「初期装備があるわよ」

「はい、出しまーす! ジャーン、エンジェルアロー!」

 一列目の剣部隊の攻撃が終わると、葉月と弓部隊が構える。

「ようし、やるぞ!」

 弓は放たれ、ヒュドラの身体に刺さる、葉月のもの以外は。

「あ、あれ~」

 葉月の放った弓だけは見当違いの方向に刺さっていた。

「また特訓が必要なようね」

 その後も刀、槍、斧、ハンマー、銃、投石などが繰り返された。

 時々、吐かれる毒霧を避けつつ、攻撃を重ねていく。もし毒霧を浴びてしまったら、回復部隊から毒消しポーションを受け取る。

「攻撃、効いてるんかな」

 自身も刀部隊で戦っているノインが葉月達に話しかける。

「傷はついているわ」

「ゲームだったらHPゲージがあって分かりやすいのに」

「何だそりゃ」

「後どれくらいで敵が倒せるか分かるゲージ」

「それがあれば便利だな」

「残念ながら、ここは現実よ」

「皇子は後方でポーション配りしかしてねえし」

「まあ、それはそういう役割でしょう。皇子は冒険者じゃないし、実戦したことないのよ、きっと。それに、ポーションもらって声かけしてもらえるだけでも士気は上がるわ」

「ねえ、モモちゃん、そろそろ、アレの頃合いかも!」

「そうね」

「アレ?」

 葉月は後方の皇子と壺を持った隊に駆け寄っていく。

「壺をヒュドラの前へ!」

「「分かりました」」

 壺部隊は剣部隊に護衛されながら前へ進む。

「蓋オープン!」

 中には透明な液体だった。

「これでどうするつもりだ!」

「はい、飲んで飲んで飲んで~」

 葉月がシャンパンコールのように煽る。

「皇子も、皆もご一緒に!」

「へ?」

 モモちゃんも皇子の隣に飛んで来て言う。

「あれ、中身はお酒なんです。宴会の時、こんなコールをしませんか?」

「何だか、よく分からんが、とにかくやるぞ! 飲んで~、飲んで~」

 皇子につられて皆がシャンパンコールの大合唱を始める。

 この異様な雰囲気にヒュドラは攻撃を止め、壺の中を覗き込む。その甘美な薫りに、ぺろりと一口飲んだ。

 コールは止まない。ヒュドラは壺に頭を突っ込み、グビグビやっている。

「よし、今だよ! 皇子!」

「へ?」

「ほら、一斉攻撃の合図を!」

「あっ、皆の者、かかれい!」


そして、ついにヒュドラは倒れたのであった。

「これぞ、ヤマタノオロチ大作戦!」

「すごいじゃないか、葉月! どこでこんな作戦を思い付いたんだ?」

「日本神話から!」

「葉月の国の神話か!」



その夜、祝勝会が開かれた。

ヒュドラからの戦利品を分け合ったり、食事が振る舞われたりした。

勿論、一番の功労者として葉月は表彰された。

「葉月、ありがとう。これで隣りの国にも安心して行ける」

「隣の国に何かあるんですか?」

「あ、えっと」

 口ごもった皇子の代わりに、大臣が答える。

「皇子は隣の国のお姫様と文通をしているのですよ」

「ああ、それで」

「と、とにかく、ありがとう!」

「はーい」


 次の日、葉月達は盛大に見送られながら、アレク皇子の国を後にしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る