"なり方"

「どう思いますか?」


 休憩スペースの自販機からカフェラテを取り出しながら、ひなたは影山に尋ねた。


「どうって?」

「八雲さんですよ。あの新しいアナウンサーっていう人」


 彼女の語尾が強まる。


「その感じは、だいぶ怒ってますね?」

「え? 怒ってる? 何を言ってるんですか? 私は正常ですよ? こんなことで怒るわけがないじゃないですかやめてくださいよ影山さん。私はただ業種も違う上にスクールにも行ってない癖してアナウンサーになるというのはどういう了見なんだと思っているだけです怒ってなんかいないですよ本当に怒ってなんか」

「怒ってますよね? 途中から句読点なくなってますよ」


 ぴくりと動くひなたのこめかみを目にしながら、一拍を置いて影山が応える。


「分かりますよ。ヤキモチ、ですよね?」


 彼女からの返答はない。図星だと訊かずとも分かる。


「弁護士や医者とかと違って、アナウンサーに“なり方”はありません。スクールに行ってなかろうが、まして未経験だろうが実力さえあれば生き残れる世界です。八雲さんがどんな喋りをするか分からないですが、素質があるというだけで起用されるなんて相当なものを持っているということだと思いますよ」

「……そんなことは、分かってますけど……」


 ひなたは視線を逸らしたまま、少し頬を膨らませて小さく零した。


「僕らのやっている“カゲアナ”だって、立派なアナウンサーのなり方です。それに……」


 影山が続ける。


「僕もスクール行ってませんよ?」

「え?」

「独学です。そんな私は、アナウンサーになっちゃ駄目ですかね?」

「……大変すみませんでした」


 深々と頭を下げるひなたが面白く、影山はつい声を上げて笑ってしまった。

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