一人一人が自分の記憶からかつて見た光景を思い浮かべる

ヒロインやストーリーの魅力もさることながら、本作品の中での風景描写が私の琴線を響かせた。

主人公が、あるときはヒロインと、あるときは一人でドライブしながら眺める海の光景。私は、雲一つない空、白い灯台へと繋がる道路、そしてその先にある、白波を立てて青く広がる海を想像した。自分の記憶からその光景を引っ張り出したのだ。
本作品を読んだ方々が想像する景色は一人一人違ったものになるだろう。同じ海でも太平洋と日本海では異なるし、天気や時間帯や風の強さ、色々な要素で異なる顔を見せる。
いくら言葉を連ねても、多分一致することはない。それが小説の難しさでもあり、映像作品や漫画とは違った魅力でもある。

そのことを思い出させてくれた本作品に感謝する。