嫌いと言う殻、好きと言う君

nou

前夜

 告白された。

 あいつに、大嫌いなあいつ。いつも一緒の空間に入るけど同じ場所にはいなかったはずのあいつ。

 好きです。そう言われて私はこう答えるのが正解だったはずだ。

 嫌です。そう言えればよかったはずだ。

 だと言うのに、私の口から出た言葉は戸惑った言葉にもなっていない単語の羅列と考えさせてと言う言葉だけ。

 我ながら訳が分からない。

 嫌いなのだろうあいつが。いつもクラスの中心にいて、誰でも分け隔てなく付き合える八方美人のようなあいつを。

 嫌だろう。同じクラスの中にもあいつを狙っている女子がいてその何人かは知り合いで友達。今までの生活を崩すようなもので告白されただけでも崩壊は必至。そんなの断って終わればいい。それで他のコミュニティに入れてもらうとか適当にやり過ごせばいいだけ。それだけの話し。

 なのに、あの時あの瞬間私は断り切れなかった。

 一体全体何でだ。そんな命題が頭をよぎり寝付けぬ夜を過ごす私。

 枕に頭を置き布団を被り何度目かなど数えてもいないが何回目かの寝返り。

 目は冴え寝付けない夜。

 なんだと言うのだあいつはいきなり告白してきて好きだ。はあ、と怒りを示しても今この時にはあいつはいない。

 一人抱き枕を抱いてごろごろとベットを転がる私はさぞあいつから見たら滑稽だろう。嘘の告白か、新手のいじめか。だとしたら大正解だこの野郎。

 ああ、本当にああ言う奴がいるからクラスでもめ事はなくならないのだろう。

 そう思うと、ますますあいつが嫌いだ。

 マイナス一点をくれてやるよ。まあ、元々点数なんてつけてないから零点からのスタート。赤点じゃいあの野郎。

「はあ、何なのよ」

 そんな言葉が静まり返っている私の部屋で響く。

「あいつが、私の事を……好き」

 かぁと顔が熱くなるのを感じる。何なのだこれはこれではまるで恥ずかしがっているみたいじゃないか。相手はあいつだぞ。無駄にもてる癖にいつだって適当な理由で断ってきたあいつだぞ。いきなり私の事を好きと言われてもそれがなんだとしか言えないだろうが。

 もう少しそれっぽさを見せてくれれば信じられたのに、それもなしにいきなりだとかやっぱりあいつはあほだ。冗長と言うものを知らないではないだろうか。

「俺、前からお前の事が好きだ」

 あいつが言ったことを繰り返してみる。

「……あほか、罰ゲームでもやってたのかっての」

 前から何時だよ。幼稚園、小学校か。それとも中学。何時のどのときにどうやって好きになったのか短くまとめて話せよ。

「あぁ、もう!」

 私は、あいつが嫌い。それで話しは終わりだ。

 それでいい。

「寝よ。あほらしい」

 そう言って私は目をつむる。

「なんなんだよ。今更……」

 あの時の私の気持ちには答えてくれなかったくせにっ……。

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