私ですか？聖女やらせてもらってますけど……え？そちらが本物の聖女だから私は用済みですか？

婚約破棄 編

第1話

　「アルティア！ お前との婚約を破棄し、この国から追放する。偽物め！」

　あら……まぁ。

　◆　◆　◆

　私、シューラス王国で聖女やらせてもらってるアルティアといいます。

　シューラス王国は隣国とも比較的友好な姿勢を取っていて、戦争などはここ数十年は皆無だとか……

　そんなシューラス王国目下の悩みは大森林や山脈に出てくる魔物達です。

　本日は先日起こったスタンピードを無事に収めたことを祝うパーティです。

　パーティなんて……と思うかもしれませんが『我々は挫けないしスタンピードに負けない』という意味も含んでいるらしく、王都周辺はもちろん被害のあった地域はもちろん、その近くの街や領主によっては遠い地域でもお祭りをしています。

　費用も国がきちんと出しているそう（被害地域は全額、その他は補助金）で市民にはなかなか好評みたいですね。

　シューラス王国ではスタンピード自体が最低でも数年に１度は起こっているので、この国はお祝いごとはなるべく派手にお祭りになる傾向が強いです……国民も面倒見がよくお祭り好きな方が多いですね。

　他国に比べてスタンピードの回数が多いのは……ダンジョンも多い上、国の西側のほとんどが森林や山脈のために縄張り争いなどで強い魔物が移動すると弱い魔物が押し出されるように人里の方へ来るという場合もあります。

　ただ、危険はあるけど森やダンジョンからの恩恵も大きいため人口も冒険者もそこそこ多いので間引いてこの頻度です。ほったらかしたら数年に１度ではすまないかもしれません。

　パーティに先駆け受勲式もあり、私も参加させていただきました。

　国王陛下直々にお褒めの言葉まで頂いてしまいました。

　何でも聖女たちがいち早く駆けつけたことで負傷者や死者が圧倒的に減ったからだとか……それでも失われた命があるのですけどね。

　それに今回はスタンピードを確認後、すぐに結界石で張ったはずの結界が破られての襲来ですから……悔しい限りです。

　私の分の褒賞金はいただけないとお断りして、被害に遭われた方たちに当てていただくことにしました。

　ちなみに結界石とは聖女や聖人が主に作っているもので、結界石は魔力を込めるか呪文を唱えるかすれば結界が張れ、もう一度魔力を込めるか呪文を唱えれば解除できるというものです。

美しい音楽、美味しそうな食事、会話を楽しむ人々……ゴクリ。おおっ、滅多に食べられないデサートまであるではないですかっ！

　あ、あれは王都で有名なお菓子屋さんの限定商品っ！た、食べたいっ……

　しっかり挨拶まわりもしましたし、食べてもかまいませんよね？

　神殿長も頬がふくれるほど詰め込まず、上品に食べるならば好きにして良いと言っていたので……その時に親しみがどうとか庶民的な聖女もアリとか言ってましたけど、よくわかりませんね。

　とにかく食べる許可はいただいてますし。

　ふふっ……では、さっそく全制覇するぞっ……と思ったら目の前に立ちはだかる女性。

　あら？まだ挨拶し終わってない方がいたかしら？……あー。

　「アヤネ様、ごきげんよう」

　見知ったお顔でしたが、パーティなのでかしこまってみました！

　アヤネ様は黒髪に黒い瞳の可愛らしいお方なんですが……今はそのお顔を顰めて、私を指差しながら

　「一体あなたは何なのよ！」

　「私ですか？聖女やらせてもらってますアルティアですけど……」

　というか、知り合いなんですから一体何なのよ！はひどくないですか？指を指すのはマナー違反ですよ。

　「そ、それは知ってるわよっ！私が主役なのになんであなたがそんな格好してるのよっ！」

　「……はぁ。主役ですか？」

　あぁ。いつもの服ではなくドレスを着ているから気に入らないんですね……

　なんか、パーティ準備でいつもの服を着ようとしたら、神殿の皆さんからドレスを着て行きなさいって言われたんですよねー……目の前に３着のドレスを出されてですね、この中から選びなさいって……うん、逆らえない圧でしたので大人しく従いましたよ？

　それで薄紫のシンプルでお腹を締め付けない（パーティの食事がたくさん食べられる）上、いざという時にも走れそうなこのドレスにしたんですよねー。

　それにスカート部分はシフォンっぽい素材を重ねたデザインなんですけど、もしもの時は破って包帯にできるんですよ！便利ですよねー。結構丈夫そうなので手では破れなさそうなところが残念ポイントですけど。

　あ、これは両親がプレゼントしてくれたドレスでしたし、いざという時は使いなさいと言っていたので破っても大丈夫です……たぶん。

　「そ、そうよ！私が主役であんたは悪役でしょっ！」

　主役やら悪役やら……お芝居のはなしですかね？流行りのおはなしがあったでしょうか？私そういうの疎いんですよねー。

　「なんのことだかさっぱりですね……」

　ふぅ……早くお菓子やデザートを食べてリフレッシュしたいところですが……そうもいかないようです。

　あらあら。そんなにドタドタ走ってはみっともないですよ……あぁ、またデザートが遠ざかってしまいます。

　「アルティア！またアヤネに何かしたのかっ！」

　「デクランさまぁ！」

　「アヤネは本物の聖女だぞ！アヤネさえいればお前はもう用済みなのだっ……そもそも偽物の分際で俺と結婚しようなどとっ」

　「殿下……」

　私に向かって、場所に不釣り合いほど声を荒げているのは、私の婚約者であるシューラス王国の第２王子のデクラン殿下である。

　ものすごく手間がかかっていそうなキューティクル煌めく金髪と青い瞳の美形ですが、最近は鍛錬をさぼり気味なので若干のぽっちゃりさんです。

　その顔は憎々し気な表情にやってやったぞ感がにじみ出ており正直見られたものではないですね。

　先ほどまで賑やかだったパーティ会場もシーンとしてしまいました。いや、音楽もお喋りもやめなくてよかったのに……今はすごい数の視線が私たちの一挙一動を見守っている状況です。