煙
@that-52912
第1話煙
私は煙草が好きだ。1日100本は吸う。おかげで、男たちからは石ころを投げられ、女たちは、逃げて行き、犬からは追いかけられる。諸君、煙草なんて吸ってはいけない。で、何の話がしたいかと言うと、煙草のけむりの話をしたいのである。けっ、この糞坊主、インチキくせぇ、と諸君、思うな。とても愉快な話であり、人生の哲学になる話でもあるのだ。あせっては、いけない。煙草のけむりをじっ、と見つめてみたまえ。モテないあなたでも、あら不思議、哲学者にみえるぞ!知的なおとこ、あら素敵、と女性たちクラクラになるだろう。多分。
いや、本当は、こっからがほんとに言いたいことだ。けむりを見つめていると、それが様々なかたちのものに見えてきて、全く飽きないのだ。これは楽しいぞ。まず、けむりがゆらゆら、とゆれ、その姿が犬に見えてくる。犬。ワンワンワンワンうるさく、飯ばかり大量に食べ、しかも、うんこが臭いという下等動物だ。ほんとだぞ。それから、けむりがまた、ゆらゆら、ゆれて、武士の姿になるときもある。なに?武士を知らない?無教養な諸君に解説するとだな、武士とは、いくさに勝っては、涙を流して狂喜し、いくさに負けても涙をながし、もう生きていることはできませぬ、とか言って切腹しようとし、さらには普段は大量に飯ばかり食べ、しかも、うんこは臭いという下等動物だ。理解せよ、諸君。で、話の本題はこっからだ。なんと、けむりが、女の姿に見えてくることもあるのだ。モテない男性諸君、ほんとの話だぞ!女といっても、老婆ではない。わかい、花もはじらう、おんなだ。しかも、おんな、といっても雪女の姿になるのである。なに、怪談ではない。安心しなさい。しろいうなじ、青白いすがた、そして、真っ赤で魅惑的なくちびる。どうだ、美しいだろう。煙草のけむりが、ほんの少しではあるが、雪女になり、薄い微笑みをみせるのだ。こんな、綺麗なおんな、街にはいないぞ。さっき、煙草なんて吸ってはいけない、とおれは言ったが、この雪女の姿をみるだけでも、煙草を買う価値があるぞ。どうだね、今日から是非、煙草を吸ってみては。女の幽霊の姿でもみて、風流な気分を味わおうではないか。それでは、諸君、また会おう。
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