楓子さんの日常

立花万葉

第1話

まず始めに


[見えんとじゃないと。見ようとしとらんとよ。]

これが昔も今も変わらない、私のばぁちゃんの口癖です。

子供の頃はその口癖の意味がさっぱり分かりませんでした。ですが、この歳になってやっと少しずつですが分かるようになってきました。特に最近では{なるほどねぇ~}としみじみと頷いてしまいます。


申し遅れました。ワタクシ、中川楓子 26歳、独身でございます。

そして妖怪が見え、ある妖怪と一緒に暮らしています。はい、そうです。妖怪について数多くの妖怪研究者達が多くの本などを出版等されていらっしゃるあの妖怪ですよ。

 しかし小さい頃から見えていた訳でも一緒に暮らしてきた訳でもございません。見えるようになり、一緒に暮らすようになったのは、ほんの一年位前からなんです。皆さん驚かれたかと思いますが、一番驚いたのは私自身ですよ。

 約一年前のある日、見たこともない者が一人突然ウチにやって来たのが全ての始まり。玄関前に立っていた見たことない訪問者とは、頭の大きなお地蔵様のような妖怪<油すまし>。最初に見た妖怪です。

 しかしばぁちゃんが教えてくれるまで名前どころか妖怪だとも知らなかった…。

落ち着いた様子でお茶を飲んでいる横で、私がオロオロとプチパニック起こしていたのは言う迄もありません。だって皆さん、妖怪が我が家を訪れてくるとは誰が想像できるでしょう。断っておきますが、皆さんの中には持っていらっしゃる方がいるかもしれませんが、私には霊感などありません。霊を視た事も無ければ、心霊体験だって一度も経験した事も無いんです。霊の存在や心霊体験を否定するつもりはありませんよ。また自分が経験したり目で見えるモノしか信じない人間ではありませんし私は、基本的に現実主義者です。

否定はしませんが、それらに関して全く興味が無かったし、まして妖怪など問題外。妖怪のよの字すら知らなかったんですもん。

そんな私の目の前に突然現れたのです。それだけじゃありません。油すましがやって来た次の日から、わんさか得体の知れぬ者達が毎日ウチに来るようになってしまったんですよ!

 最初の頃は、驚きと戸惑いの連続でした。さすがに楽観的な性格の私も悩み、ばぁちゃんに相談する事にしました。

 油すましはそのままウチに住みつき、変な姿の妖怪達が家に帰るとたくさんいるんですから。危害を加える様子は無いものの、明らかにウチに遊びに来てると分かるんですもの。{おかえり}とばかりに私の足下にじゃれついてくる小さな妖怪もいれば、寝転んでテレビを観ている妖怪もいるんですよ。それに驚く私を見て大声で笑い、してやったりと皆で喜ぶんです。

 困った声でばぁちゃんにどうすれば良いのか相談してみると

「妖怪ってもんは、人間ば驚かせたりイタズラした

 りすっとが大好きやっとばい。でも怖がらせよう

 とはせん。楓子は家に来る妖怪達が怖かとね?油

 すましば追い出したかとか?」

ばぁちゃんに聞かれ、ハッとしました。

 油すましがやって来た時もそのまま住み続けていても、毎日遊びに来るようになった妖怪達に対しても、驚きと戸惑いはあるものの今まで不思議と怖いと思った事が無いことに気が付いたのです。

 怖いと思わないと分かった途端、私は彼らの事が知りたくてたくたまらなくなりました。図書館で妖怪に関する本全部借りて、いくつもの書店で関係ありそうな本を探し回って本という本を読みあさりましたよ。おかげで私の本棚は妖怪の本ばかり並んでいます。ネットでも調べまくりましたね。

 色々と知っていく内に、分かっていく内に彼らに慣れてしまいました。本当に慣れって怖いモノで、いつしか驚くどころか世間話をしたり一緒にお菓子を食べたり、怒ったり笑い合ったりしている私がいたんですもの。

 本を読んだりネットで調べたりして、彼らと触れ合いながら私なりにいくつか思う事が生まれたんですよ。それは最後にお話ししますね。

 今は部屋が狭くなるくらいやって来るので、障子や襖を壊されないようにまずは、茶の間と仏間を仕切っている襖を外して部屋を広くしなくては!

その後みんなでお茶でも飲みながらまったりしようと思います。



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