第94話~婚約破棄?~
夕食を食べ終えたカノン達は食堂で婚約の話をしていた。
「カノン嬢との婚約手続き…王宮の許可はおりてて、書類待ちなんだ。その書類が出来たら後はフローライト公爵の署名を書いてもらって手続きは終わりだよ。」
「殿下…仕事早すぎませんか…。」
「せっかく両想いになったんだから、早く婚約しなきゃと思ってね。それに、結婚前提だと、王宮に一緒に住めるし、無茶しないように見張っていられるしね。」
「先ほども言ったが異議あり!!僕が帰ってきてまだ間もないと言うのに、もぅカノンと離れるなんて!サントリナと離れてるだけで寂しいと言うのに…あぁ…何という事だ…。」
婚約の為に行動が早いライラックにカノンは呆れながら聞いており、兄はいまだに異議を唱えている。
「いい加減、妹離れをしたらどうです?お兄様も縁談の一つや二つ、そろそろするべきでしょう。妹溺愛を除けば見た目も仕事面も完璧なのですから。」
「そうは言うが、サントリナ!僕は君達がいるから生きていけるんだ!なのに…そんなに僕に構われるのが嫌なのかい?!」
「嫌ですわ。もぅ、子どもではありませんのよ。わたくしも、カノンも。いずれは嫁ぐものです。その溺愛を他のご令嬢に向けてくださいまし。まったく…次期公爵ともあろうお人が情けない。」
「…サントリナ~~。」
カノン以上の強気な性格の姉の言葉に肩を落とし涙目になっている兄。
二人の会話を父とカノンは苦笑いで見ており、ライラックは楽しい人達だなと、クスクス笑いながら見ていた。
「先ほどは食事が来て聞きそびれましたが、殿下は妹のどこをお好きになったのですか?恋のお話…わたくし、興味ありますの!それに、今後の生活のお話などお聞かせ願えないかしら。」
「あ!そうですわ!殿下、少しお話したい事がありますの!ちょっと一緒に来て下さらない?さぁ、参りますわよ!おほほ、それでは、お姉様方、恋のお話はまた次回という事で、失礼しますわね。」
「カノン嬢、そんなに慌てなくても…。そ、それでは失礼。」
姉が興味津々に恋の話を聞こうとしたが、カノンは恥ずかしくなり座っていたライラックの腕を取り強引に立たせ、そのまま食堂から立ち去った。
「…逃げられましたわね。けど、また今度伺いましょう。……お兄様…いつまで落ち込んでいるのですか。」
「サントリナが冷たいからじゃないかぁ…。」
「はぁ…。あぁでも接しないと、殿下の手前、お兄様の立場的にもまずいでしょう?妹想いなのは重々承知してますが、殿下のお心も考えてくださいまし。」
「サントリナ…僕を想って…さすがだな~!!これからはより立派な公爵になるように頑張るよ!!」
サントリナは厳しく見えるが、心根は優しく兄妹の事を考えての発言だ。
カノンのめでたい縁談の話に水を差そうとする兄の言動を見かねて少し強めに言ったのだ。
それを兄は自分の事を想って言ってくれたのだと汲み取り機嫌が直りサントリナや父はその様子に呆れつつも安堵した。
カノンが去った食堂は少しだけ騒がしかった。
一方でカノンとライラックはカノンの部屋へと来ていた。
「ここは…カノン嬢の部屋。……まさか、
「違います。」
「そんなに即答で否定しなくても。」
「そんな事より、聞いて欲しい事があるのです。」
「そんな事って…。まぁ、いいか。正式に婚約が決まれば一緒に生活出来るしね。」
「その事なのですが…お断り致します。」
「え…婚約破棄を?どうしてだい?!両想いになれたのに!朝も君からキスしたようなものだろう?!」
「わたくしからキスはしておりませんわ!ただ手を伸ばしただけです!殿下からしたの間違いでしょう?!そうではなく、人の話は最後まで聞いてくださいまし!」
カノンは言い合いが始まりそうになったのを軌道修正して、おまじないの本を本棚から取り出し、ソファに近づいた。
ライラックもカノンの行動を見ていた為、一緒にソファに腰かける。
だが、隣同士ではなくカノンを後ろから抱きしめる形で座ろうとカノンより先にソファに座り、カノンの腕を引き自分の足の間にカノンを座らせた。
カノンは恥ずかしさが込み上げ体をよじったが、すでに腰に回されていた手がびくとも動かないので諦めて本題に入る事にした。
「…その本…この間の。」
「えぇ…おまじないの本ですわ。以前…殿下にわたくしの戦い方について全部は語れませんでした。この本と関係があるのです…。聞いてくれますか。」
カノンは後ろから抱きしめているライラックの手にそっと自分の手を添え、少しだけ振り返り真っ直ぐにライラックの目を見た。
ライラックはカノンの言葉に頷き、カノンが自分の方を向けるように抱きしめる腕を少し緩めた。
カノンは体を半分ライラックに向け、顔には不安な表情が浮かび下を向きながら全てを話した。
自分が置かれていた過去の立場、人生をつまらないと思っていた事、おまじないの事、異世界の友達の事、入れ替わりの事、異世界の出来事を。
その声やカノンの手は次第に震えはじめた。
話しを受け入れてもらえるかどうかの不安と恐怖。
だが、カノンは最後まで話した。
「……カノン嬢、話してくれてありがとう。…最初に会った時と今の君の雰囲気が違うのはそういう事だったんだね。あの戦い方も…この国にはないから事実だと受け止めるよ。」
「…殿下…信じてくださるのですか。」
「うん、信じるよ。君は負けず嫌いでまっすぐで嘘をつく人ではないからね。それに…僕が好きになった君は猫のようだけど、出会った当初は犬みたいだったから。それくらい違いがあるから疑う余地はないよ。ただ…やり残しか…。」
「はい…いつ行けるかわかりません…行けたとしてもいつ戻ってこれるか…。ですから、一緒に住むのは出来ないのです。申し訳ございません。」
「わかった…それなら、もう一度手続きして僕がここにしばらく滞在するよ。それと、君が戻ってきたら、正式に婚姻するよ。その時は…覚悟してね。」
ライラックはカノンの話を信じ、カノンと一緒にいたい為再びフローライト家に泊まるつもりらしい。
婚姻後の覚悟をライラックが意地悪な表情を浮かべてカノンに伝えると、その意味を理解したカノンは顔を赤らめた。
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