第91話~災害、再び~
空が黒く染まり、辺りは昼間にも関わらず薄暗い。
風や雨も強くなり始めている。
アルストロメリア王国には天気に関する知識はないが、現代の知識が少しあるカノンにはこの現象が何なのか予想がついた。
「これは…台風ですわ…。たしか…何百年か前にも国に訪れたって歴史書にあったわ…。屋敷の皆に知らせなくては。」
カノンはこれ以上雨風が強くなる前に対策をしようと屋敷中を駆け回り皆に声を掛け中庭や馬小屋など外に飛ばされる物がないように安全を考え屋敷の使用人達と協力して外での作業を成した。
「カノン様!カノン様の言いつけ通りの作業終了致しました。他の使用人達も皆無事です。」
「わかりました、ありがとう。雨で体が冷える前に着替えてきてちょうだい。」
カノン含む屋敷の使用人達は雨に濡れながらも作業を無事に終え、風邪をひかないようにと皆に着替えを促し自分自身も身軽なワンピースタイプの制服に着替える為屋敷の中へ戻った。
カノンが屋敷へ入ると、アイリスがタオルを持って駆け寄って来た。
「カノン様、ご無事ですか?」
「アイリスさん、わたくしなら大丈夫ですわ。せっかくお越し頂いたのにおもてなしもあまりできず申し訳ありません。」
「いいえ、こちらこそ、こんな大変な時に何も出来ず申し訳ありません。」
「お客人なのですから、お気になさらないでください。タオル、ありがとうございます。着替えてきますね。」
カノンはアイリスからタオルを受け取り肌についた水滴を拭いながら着替える為、部屋へ戻った。
カノンが着替えながら台風の事を考えていると、心に何か引っかかりを感じた。
「何百年かぶりの台風ですわね…。台風の方角はいったいどこから…他の地域は無事かしら………ぁ…まさか!」
カノンは歴史書の内容を思い出し、台風の来た方角を考えると引っかかりの原因がわかり急いで部屋を飛び出し、玄関へ向かう。
「(たしか、歴史書にはこうも書かれていたわ。西側から災害が来たと。おそらく今回と似たような事が起きたのだわ。アザレアがまた…急がなくては。)」
「カノン様?!どちらへ向かわれるのですか?!先ほどよりも雨風が強く外に出るのは危険です!」
「離してください!リリー!今からアザレアに向かいます!」
カノンが玄関のドアを開けようとした刹那、夕食の準備をしようと玄関を通りかかった侍女のリリーが外に出ようとするカノンを見かけ、カノンに抱き着き止めに入った。
カノンとリリーの押し問答の騒ぎを聞きつけた父や兄、姉、アイリスまでも玄関へ集まった。
「カノン、いったい何の騒ぎだ!」
「お父様!…わたくし、アザレアに行きます。この天気…きっと西側から来ているのです…何百年も前のようにまた…。アザレアが立ち直り始めたというのにまた壊れるなど、見過ごせません!」
「カノン様、さすがにこの天気では馬も走れないですわ。天気が回復するのを待ちましょう?」
「アイリスさん……ですが…。」
「あぁ…可愛い妹よ…それほどまでに熱心に…だが、アイリス嬢の言う通りだよ。この天気じゃ君も危ない。外に出ても歩けないほどに風が強くなっているんだよ。この状態でアザレアに行って街の人達が喜ぶと思うかい?」
父に続きアイリスや兄もカノンを止めに入る。
カノンは皆の言葉にぐうの音も出ず、悔しい表情を浮かべ俯き唇を噛み何も出来ない自分自身に怒り、拳を強く握った。
そんなカノンの肩を姉のサントリナが優しく抱き、食堂に導く。
屋敷にいる使用人達含む皆が緊急事態に備え、食堂に集まった。
皆が食堂に集まった頃、外が明るく光ったかと思えば大きな地響きがなった。
雷がどこかに落ちたのだ。
それが合図かのように屋敷内の電気がすべて落ちた。
その場にいた使用人達は慌てないように冷静に対処し、ロウソクや暖を取れるものなどを用意し始めた。
――時間はもう夕食時。
外は相変わらず激しい風や豪雨が続き、電気は落ちたままだ。
食堂に集まっている皆が食事をしているが、誰一人でさえ、口を開かない。
あんなに騒がしい兄でさえも今回ばかりは静かに食事をしている。
カノンが食事を終え、食堂を出ようとしたが歩き慣れている屋敷とはいえ、暗い中は危険だという父の言葉に食堂内のテーブルに戻り、皆で今夜一晩食堂内で過ごす事になった。
――明け方。
父達は夜遅くまで外の様子を気にして起きていたが、真夜中を過ぎた頃、緊迫していた疲れが出始めたのかテーブルに突っ伏して眠りにつき始めた。
カノンは一睡もできず、ひたすら窓の外を眺めており、明け方になるにつれて風や雨が止み始めたのを確認し、皆が眠っている中一人外に飛び出し、馬を引きアザレアへと向かった。
足場が悪い中無事にアザレアに着いたカノンは目の前の光景に目を見張った。
「…なんですの…これ…。街中に…木々が…。北側は…北側に行ってみましょう!」
台風のせいで木々が街中まで飛んできており、レンガ造りの家も所々欠けている。
街の様子を一通り馬に乗りながら確認し、足元に散乱している木々を避けながら北側の農園まで足を運んだ。
「…なっ!これは…。やはり、街中の木々はここから…。立て直さなければ。」
北側の農園に着いたカノンは一瞬驚くが、想像していた通りの惨状になっており、馬を適当な場所に繋ぎその場で一人、作業に入った。
農園の半分以上の木々は倒れ、数本ほど街に飛ばされていたのだ。
想像通り…いや、想像以上だろう。
目の前に広がる光景は一人で作業をするにはあまりにも酷いありさまだ。
だが、カノンはそんな事は気にも留めずただ無心に作業を行っていく。
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