第90話~気づいた恋心~
パーティーの翌日の午後。カノンの自室。
カノンは自室で一人、目の前の書類に目を通しながら昨日の出来事を思い返していた。
その度にため息が出ており、表情はいつもと違い沈んでいる。
「はぁ…。(殿下に謝罪をしなければならないのに…あれから一度もお会い出来ていませんわ。会場に戻ってもお話し出来る機会がなく…先ほど王宮まで行きましたが門前払いを受けてしまいました…。殿下…あんなにお会いしていたのに、たった一日会えていないだけでこんなに寂しい…と思うなんて…。)」
カノンが考え事をしながら書類に目を通していると、ドアをノックする音が聞こえた。
カノンが返事をすると、姉のサントリナが入ってきた。
「カノン、仕事中にごめんなさい…。少し…息抜きに中庭でお茶にしない?」
カノンの様子が昨日からおかしい事に気付いたサントリナはしばらく実家に寝泊まりする事になり、話を聞き少しでも元気づけようと休憩の提案を持ち出した。
カノンはその提案に頷き二人は中庭へと向かった。
中庭にはすでにお茶の準備が整っておりカノンとサントリナは席に着き各々お茶を飲みお菓子を摘まんだ。
「ん~。このお菓子、ほんっと美味しいわね。思いついたカノンは本当にすごいわ。でもこの甘さ…危険ね…。食べ過ぎには気を付けなきゃ…。でも手が止まらないわ~。次は何にしましょう~。」
サントリナは初めてのお菓子を美味しそうにほお張り、幸せそうな表情を浮かべて、目の前のお菓子を目を輝かせながら選んでいる。
その様子にカノンは少しだけクスリと笑った。
「お姉様、言っている事と行動が矛盾してますわ。」
「あら、本当ね。カノンもお一ついかが?書類にばかり目を通して疲れたでしょう?あまり根を詰め過ぎないようにね。」
「…ありがとうございます…頂きますわ…。」
カノンがサントリナから渡されたお菓子を一口食べ、またしてもため息がこぼれるカノン。
「(お菓子…殿下も、目の前のお姉様のように美味しそうにほお張るのですよね。)はぁ…。」
昨日から続くカノンのこの様子に父、オリヴァーや兄のフロックス、姉のサントリナは何も言えずにただ見守る事しか出来ずにいて、何が出来るだろうと考えていた。
皆が何が出来るだろうと考え、先に動いたのは姉のサントリナだった。
気分転換になればとお茶に誘ったのだ。
だが、いまだにため息の理由を話さないカノンに何と声を掛けていいか迷っていると、執事のカクタスがカノンにお客が来た事を伝えに来た。
カノンは通すように返事をし、カクタスが再び来客の対応する為屋敷へ戻って行った。
しばらくして、カクタスがお客人を連れて中庭へ姿を現した。
お客人、それはカノンの令嬢友達のアイリスだった。
「ごきげんよう、カノン様。突然の訪問すみません。昨日のカノン様のご様子がいつもと違いましたので、気になって…。」
「…ごきげんよう、アイリスさん…。ご心配お掛けしてすみません。……はぁ。」
「よろしければ、カノン様のお悩み…聞かせてください。」
「妹の悩み…兄である僕もほっとけないなぁ…。乙女会に参加するのは気が引けるんだけど、いつも可憐な妹が沈んだ顔しているのは見ていられないからね。」
いつの間にか兄のフロックスもアイリスの後ろまで来ており、話に参加しようと声を掛けた。
いつものカノンなら兄の言葉に反発するが、今はそんな気にならず沈んだ顔のままアイリスとフロックスを椅子に腰かけるよう案内した。
皆が席に着きカノンの言葉を待つが、カノンはどう話をしたらよいかわからずに下を向いたままだ。
その中で口を開いたのはアイリスだった。
「……カノン様。カノン様が今考えているのは殿下の事ですか?」
「…っ…どうして…。」
アイリスの言葉に下を向いていたカノンが顔を上げ、驚いた顔でアイリスを見た。
「…カノン様は無自覚でしたが…ずっと…殿下の事がお心にあるのでしょう?」
「……はい…この間のお泊り会の時にアイリスさんと殿下が楽しそうにお話ししていたり、昨日のパーティーで他の子とお話ししているのを見てヤキモチだとわかりました。…けど、どうしてヤキモチをやいたのか…殿下を傷つける言い方をしたのはわたくしなのに…いざ離れるとどうしてこんなにも胸が張り裂けそうなのか…わからないのです。」
カノンの言葉に今度はサントリナがカノンに問う。
「……カノン…お兄様の事はお好き?」
「…お兄様?…兄としてなら…まぁ…。」
「では、その好きと、殿下への気持ちはどうかしら。カノンから見た殿下の事…教えてちょうだい。」
「殿下への…気持ち?…殿下は…お菓子が好きで…先ほどのお姉様みたいに幸せそうに食べて…お調子者に思いましたが、剣術の腕前が強くて…頼りになって…いつもわたくしの前で優しく笑って………わたくし…こんなにも…殿下の事…。」
サントリナに問われ、ライラックの事を話している内に自分の気持ちに気付き、涙するカノン。
そんなカノンに兄はハンカチを渡した。
「やっと気づいたね。妹が離れていくのは寂しいけど…。恋する乙女が一番可愛いからね。何かあったら相談のるよ。男にしかわからない事もあるはずだから。それじゃ、僕は仕事に戻るよ。…あぁ、それと、王宮に行くのなら今日はもうやめた方がいいかもしれない…空が黒くなり始めてる。アイリス嬢も…もしよかったらこのままフローライト家にいるといいよ。」
フロックスはその場のカノン達にウィンクしながら去って行き、アイリスはフロックスの言葉に甘える事にし、空が晴れるまでフローライト家に留まる事にした。
しばらくしてフロックスが言っていた黒くなり始めていた空が全体に広がり雨風が出始めた。
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