第88話~昇格パーティー~

カノンの兄フロックスが帰ってきて5日後。

あれからカノンと父、兄、ライラック殿下の4人でペオニーの街含む元子爵の領地の相談を何度も行った。


結果、被害にあった女性達の受け入れる療養所の準備は順調に事を進めている。

元子爵の領地に建っていた木造の廃屋を早急に手の空いている建築職人に依頼し、手入れをしてすぐに住めるようにした。

中の部屋は療養する本人の希望にそった飾りつけをする事になり、カーテンやベッド等の必要最低限の装飾は温かみのある物ばかりを用意した。


また、お世話する人や料理人、警護は就職希望の女性を集めたり、元子爵家で働いていた使用人達を雇入れる事になった。

防犯に関してはフローライト家の腕の立つジェードとシェルの二人を交えて女性の騎士や自警団となれるように戦い方の技術を教えて行く事にした。

王宮の手助けもあり国のあちこちで募集を集め、雇用問題を少しでも解決しようという計画だ。


それからフローライト家はここ最近の功績がたたえられ、公爵家に昇格となり、その昇格パーティーも近々行われる予定だ。

王宮での開催となる為、フローライト家はパーティーに向けての準備で大忙しだ。



――昇格パーティー当日


フローライト家の使用人達はパーティーに参加する為の準備でてんやわんやだ。

そんな中準備が出来たカノンは姿鏡で身なりに問題がないのを確認し、玄関へと向かった。


カノンが玄関に着くと、すでに父オリヴァーと兄フロックスがそろっていた。

カノンの姿を見るなりフロックスは歓喜の声を上げながらカノンに抱き着こうとするが、カノンがぴしゃりと止めに入った。

「おぉ~!!今日もまた一段と美しく他の者に見せるなどもったいない!」

「お兄様、抱き着くのはおやめ下さいまし。そんな時間ありませんわ。早く会場に参りますわよ。」


フロックスはカノンに止められ広げていた手を寂しそうに下ろしトボトボとうな垂れながら歩き馬車に乗り込んだ。

その兄妹の様子を父オリヴァーは苦笑いで見ており、カノンとフロックスが馬車に乗り込んだのを確認してオリヴァーも一緒の馬車に乗り込んだ。


「そういえば、カノン、君は殿下と仲が良いというのは本当かい?噂では共闘もしたと聞いたよ。美しいだけではなくて強くたくましくなったんだね。」

「仲が良い…のは自覚はありませんが、最近はわたくしが行く所に殿下がいる事は確かですわ。まぁ、お菓子目当てだと思いますが。(…自分で言って少し寂しさを感じますわ…ってなんですの…この感情は。)」


カノンはフロックスの言葉に返事した際少し感じた寂しさを振り払うかのように頭を少し左右に振った。

その様子を見ていた兄は少し寂しさと不服そうな表情を浮かべていた。


「(あぁ…カノン…無自覚なんだね…。この間久しぶりに殿下にお会いしたが、カノンを見る目が優しかったんだ。お菓子目的ではないとわかるさ。…にしても妹が嫁入り…幸せになって欲しいが…いかなる相手でもすぐには納得できないな。)」

「お兄様?珍しくだんまりなさってどうなさいましたの?」

「ん?今日も可愛い妹だなぁって見てたよ。」

「…聞いたわたくしがおバカでした。」


フロックスは行動や言動は少しおちゃらけて見えるが、洞察力が高く、カノンの気持ちもライラックの気持ちも汲み取っていた。

だが、妹を想うあまり頭ではわかっているが気持ちの方が追い付かないでいた。

カノンの言葉にまた調子を戻し、馬車内はまたしても騒がしくなった。

王宮に着くまでの間、この温度差のある会話が続き会話に入れないオリヴァーはただ見てる事しかできず、カノンは体力を持ってかれる事となった。



ようやく王宮に着き、カノンは少し疲れた顔をしており、オリヴァーはカノンを気遣いながらエスコートし、フロックスは久々の王宮に浮足立った様子でいる。

パーティー会場にはすでに招待客が集っており、その中にはなんとフロックスの妹でカノンの姉もいた。


「カノン~~!久しぶり~!噂は聞いているわ。いろいろ大変だったみたいで…。ごめんなさい…すぐに駆け付ける事が出来ず…。」

「サントリナお姉さま?!お久しぶりです!…大変な事もありましたが、それだけではなかったので平気ですわ。お姉さまも嫁ぎ先の事がありますので気になさらないでくださいまし。それよりどうしてここに?」

「実家の爵位が昇格するという事でお誘いを受けたの。それと…お父様、お兄様お久しぶりです。」


姉のサントリナはすでに嫁いでた事もあり、カノンに関する噂を耳に入れたのは遅かったのだ。

その事をカノンは予想しており、解決もしているのでお互い深くは言及しなかった。

サントリナはカノンに誘われた理由を伝え、父や兄にも挨拶を交わした。

フロックスはカノンに対する態度をサントリナにもしようとしたが、彼女はカノン以上の冷たい言葉で兄を制止した。


フローライト家がそろい、時間もきたので王座に王家がそろいパーティーが始まった。

国王の挨拶から始まりフローライト家の昇格宣言をされ、会場の皆が拍手喝采をわき起こす。

こうして拍手がおさまった所で国王の掛声を機に各々挨拶回りが始まった。


カノンも他の貴族のご令息やご令嬢から挨拶をされ、一通り挨拶を終え、落ち着いたところで王家に挨拶に行った。

国王や王妃からは主役はフローライト家だからと気遣いを受けたり、労いの言葉をもらった。

殿下であるライラックにも挨拶をと思ったが見当たらなかった為、少し休憩を挟んで探す事を決め、人が少ないバルコニーに向かった。

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