第84話~聞いて欲しいです~

一ノ瀬家、美桜の部屋


三人はショッピングモールを後にし、一ノ瀬家で美桜の手作りのもとお昼ご飯を食べ終え美桜の部屋でゆっくりしていた。


「いやぁ~ご馳走様でした~。美桜ちゃんのご飯美味しかった~。」

「本当に美味しかった!毎日食べたいくらい!一ノ瀬さん、ご馳走様でした。」

「い、いえ…お粗末様でした…。」

「……峰岸君…わかって言ってる?」

「ん?何が?」

「あ…天然たらしだ…。」


原さんと峰岸君がくつろぎながら美桜にご飯のお礼を言う最中さなか、峰岸君の発言に照れる美桜を見て原さんは峰岸君にツッコミを入れた。

当の本人は無自覚のようでその様子に原さんは呆れた。

美桜はその様子に照れながらクスクスと小さく笑い、原さんも美桜と一緒に笑う。

峰岸君は二人が笑う様子を見て未だにいまわかっていないようで疑問を浮かべた表情をしている。


「そういえば、美桜ちゃん、さっきの話の続き!美桜ちゃんが占いのブースに行ってた事聞きたい!やっぱり恋の相談?」

「え!一ノ瀬さん何か不満があるの?!僕、絶対幸せにするよ!直して欲しい所があったら言ってね!」

「ち、違いますよ!恋の相談とか、そんなんじゃないです!…ふふっ…いのりちゃんが言うように雅君、天然たらしさんです。」

二人の勢いに美桜は慌てて否定し、雅君のさらっとした発言に原さんが言った事に同感して小さく笑った。


小さく笑っていた美桜だが、次第に落ち着きを取り戻し少しずつゆっくりと話す。

「占いのブースに足を運んだのは…なんとなく…足が向いたんです。……占いのお話の前に…お二人に…聞いて欲しい事があります。」


美桜は二人の目を見ながら話していたが、『聞いて欲しい話』それを言葉にするのに躊躇ちゅうちょし、俯いたがそれでもやはり聞いて欲しいと意を決した表情で俯いた顔を上げ、真っ直ぐに二人を見た。

その表情に二人は静かに頷く。


美桜は二人の頷きを確認した後座っていた腰を上げ、勉強机の小さい本棚から日記とおまじないの本を取り出し、二人に手渡し再び腰をフローリングに下ろした。

原さんは日記の方を、峰岸君はおまじないの方を最初に受け取り、戸惑いつつも中を開いて見てくれた。

一通り目を通してお互いに持っていた本を交換し、また一通り目を通す。


美桜は二人が本を一通り目を通したのを確認して、言葉を考えながら説明する。

「…今…お渡ししたのは見て頂いた通り…英語で書かれている本と、私が書いた日記と…私のお友達が書いた日記です。」

「…この英語の本、中は何が書いてあるの?それに、日記…美桜ちゃんと友達が書いたって…。」


美桜は原さんから問われ、峰岸君も原さんと同じように疑問の表情を浮かべる。


美桜は今から話す事は容易に信じてもらえないという事を覚悟したうえで二人に話した。

美桜がまだ家族と距離を置いてる時の事、人生をつまらないと思った事、おまじないをした事、そのおまじないのおかげか異世界の友達が出来た事、その異世界に行って多くの人と出会い、多くの経験をして少しずつ自信が付いた事、そして今に至るまでと占いの結果、全てを話した。


二人は静かに美桜の話を聞いていた。

美桜が話し終わった後、二人はそれぞれ考え込んだ。

美桜は二人の口から出る言葉が怖くなりぎゅっと目をつむった。

覚悟したとはいえ、やはり怖さはある。

大切な人達だからこそ「おかしい人」「夢見事を言っている」そんな言葉を言われるのではと不安と恐怖が押し寄せる。

しばらく続いた沈黙の中で美桜が不安や恐怖と戦っていると、先に口を開いたのは原さんだった。


「なぁーんだ、やっぱりあの時の美桜ちゃんは美桜ちゃんじゃなかったのね。ようやく違和感がとれたよー。」

「……そっか…今思うとたしかに…強気な性格と言うか…勢いが…違う。」

「そうそう、美桜ちゃんはポメラニアンみたいだけど、入れ替わった時はペルシャ猫って感じだった!」

原さんと峰岸君は思い当るふしがあるようなそんな会話をしている。

つむっていた目を見開き、その光景を美桜は呆然と見ていた。

返ってきた言葉は美桜が想像していたものとは明らかに違い過ぎて美桜は戸惑いを隠せずにいる。


「あ、あの、お二人とも…なんとも思わないのですか?可笑しな事を言っているだとか…その…変な子だなとか…。」

「「全然。」」

美桜の問いに二人は顔を見合わせて美桜の顔を真っ直ぐに見て言い切った。


「私、美桜ちゃんと中学の時から一緒なんだよ?美桜ちゃんが嘘をつかないのはわかっているし、たしかに半年前、私の知っている美桜ちゃんとは違うなって感じて寂しいって思った時もあったけど、理由がわかってすっきりしているの。それに、前世の記憶を持って生まれてくる人もいるくらいだから、入れ替わりくらい起きても不思議ではないと思うんだぁ。」

原さんはどこか納得したように美桜に自分の気持ちを伝える。


「僕も…驚きはあるけど、否定はしないかな。広い世界だし、不思議はあってもおかしくないと思う。……好きになったのはフワフワとした雰囲気の一ノ瀬さんで…近づくきっかけは…強気な勢いのある一ノ瀬さんかもしれないけど、やっぱり…今の一ノ瀬さんが好きだよ。それに…僕たちにどうやって話そうかすごく悩んで不安で…それでも話してくれた事、すごいと思う。話してくれてありがとう。」

峰岸君も自分の気持ちを伝え、優しい笑顔を浮かべた。


二人は美桜の話を受け入れてくれた。

その事に美桜は感謝の気持ちと嬉しさが込み上げ目に涙を浮かべた。

二人は美桜の涙に慌てふためきながらも、話してくれてありがとうとお礼を言いながら美桜に寄り添った。


「変わったと言えば、峰岸君も変わったよね。たくましくなったというか。」

原さんは峰岸君の方を見ながら聞いてみる。


峰岸君は思い返すように優しい表情を浮かべながら話した。

「…僕、『可愛い』ってよく言われてて…。屋上で絡まれている時に助けられて、このままじゃダメだと思って…。大切なモノを守る為に『可愛いままじゃダメだ』って…強くなろうって思って…できる事をできる範囲でして…。たくましく見られているならよかった。」


峰岸君は少し照れて笑った。

多くは語らなかったがきっと彼自身、家業や大切な人を守る為に悩み考え、たくさんの努力をしてきたのだろう。

今の彼は本当に頼りになり美桜から見るとかっこよくてたくましい王子様だ。


美桜の涙が引いた頃、二人は異世界での出来事を興味津々きょうみしんしんに聞きたいと美桜に迫った。

美桜はたじろぎながら二人にわかりやすく話した。


三人は時間が許す限り美桜の体験した話で盛り上がった。

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