第78話~不安を拭う言葉~
美桜の様子がすぐれないと思った峰岸君は会場の入り口の近くにあるベンチまで連れてきた。
「一ノ瀬さん、ここで座って待ってて?」
美桜にベンチに腰掛けるように伝えて峰岸君は辺りを見渡し、近くにあった自動販売機に駆け寄り飲み物を一つ買い美桜のもとまで戻った。
買った飲み物を美桜に渡した峰岸君は美桜の隣に座った。
「はい、これどうぞ。」
「……ありがとうございます。」
峰岸君からはちみつレモンの飲み物を受け取った美桜はお礼を伝え、フタを空けて少し口に含んだ。
美桜の一連の様子を見ていた峰岸君は美桜に問いかける。
「一ノ瀬さん…何かあった?大丈夫?緊張してる?それとも…何か無理してる?」
峰岸君の問いに美桜は慌てて否定する。
「だ、大丈夫ですよ!本当に何でもないのです!……ただ…緊張は…しています。」
慣れていない場の熱気、初めての事に飲み込まれそうになるのを美桜はどうにか平然と保っていた。
「……応援に来てくださるのは嬉しいのですが…やはり両親の前でこういう大会というのは恥ずかしさもあります。」
「…あー…僕の家族もごめんね…。一ノ瀬さんの話をしたらぜひ見たいって聞かなくて…。」
美桜の気持ちを聞いた峰岸君は申し訳なさそうに話す。
その事に対して美桜はまたも否定し今の気持ちを打ち明ける。
「いえ、先ほども言ったように応援は嬉しいのです…。ですが…正直、私に戦えるのか不安で…。」
「…一ノ瀬さん…僕は一ノ瀬さんの事、好きだよ。日頃から好きな事や興味ある物、全部に全力で取り組んで自分の技術と知識として取り入れた。努力は時に実ってはくれないけれど、でも裏切らない事があるのも事実…。僕は何事にも一生懸命で努力している一ノ瀬さんを好きになったんだよ。」
峰岸君は体を美桜に向けて真剣な眼差しで美桜に伝える。
峰岸君の突然の告白に頬を赤くし驚くが、峰岸君が美桜を好きになった理由を聞いているうちに驚きを表していた顔がだんだんと引き締まる。
「これを言うと、よけいにプレッシャーになるかもしれないけれど…。これまでも、これからも結果はどうであれ、一ノ瀬さんの努力が実を結ぶのを僕が見ているよ。」
「雅君…。………ありがとうございます。他の人に見られているとか、自分が戦えるかとか…関係ない…私なりの…。雅君の想い伝わりました。私、もう大丈夫です!」
峰岸君の自分が見ているという言葉が美桜の心に響いて少し俯き考え、先ほどまでの不安な表情は消え、引き締めた顔を上げ、峰岸君を真っ直ぐに見て大丈夫な事を伝える。
「飲み物と、言葉…ありがとうございます。見ていてください!全力で挑んでいる所を!」
美桜は完全に不安が吹き飛んだ綺麗な表情で笑って峰岸君に伝えた。
その姿は本当に綺麗で、背筋も伸びて凛として可愛さの中に勇ましくもあり峰岸君は美桜に見惚れて惚れ直したのだった。
美桜が自分の試合の準備を整え、出番待ちの為に控え場で待機していた。
美桜を見送った峰岸君も応援席にいる皆と合流し、試合を見守る。
美桜の試合時間が迫り、深呼吸と精神統一をしていた。
「(不思議です…。先ほどまであんなに緊張していたのに、雅君の言葉でこんなにも出来る気がするなんて…。最初はカノンさんが始めた事でそれをやってみようと思っただけなのに…空手にこんなにものめり込むなんて…。これまでそれなりに鍛錬しました。それを信じて…。)」
美桜がグッと
マットの上に立ちお互いを見つめ、お辞儀をする。
顔を上げて相手と真剣な瞳がぶつかり試合開始の笛が鳴り身を構えてお互いに攻防する。
美桜は部活や空手教室での教えや動きを一つ一つ思い出しながら動きを組み合わせ、華麗に攻撃を避けたり、力いっぱい踏み込み技を出し攻撃する。
先制を取ったのは美桜の方だった。
相手も負けじと攻撃を繰り出すが、なかなか美桜に攻撃が入らず、少し焦り始める。
そうして攻防を繰り返していき、点をお互いに入れながらも一回戦突破したのは美桜だった。
勝敗が決まり応援席の皆は歓喜でお互いにハイタッチをしている。
部の後輩達がタオルや飲み物等持って美桜に駆け寄り労いの言葉を掛けた。
美桜はお礼を伝え、皆と一緒に午後の団体戦の為に場所取りしていた所へ向かった。
午後の団体戦は3年生の美桜と主将、2年生が3人の計5人で組まれたメンバーで挑み、結果は二回戦出場と勝利を修めた。
皆は歓喜し、部の活躍や美桜の活躍に応援に来ていた皆が労いの言葉を掛けた。
美桜は自分の両親や峰岸君の両親から感心の眼差しや言葉をもらい、嬉しさと少し自信を付けた美桜は明日の試合もまた頑張ろうとさらに意気込んだ。
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