第71話~オープニングセレモニー(前編)~

母の誕生日から三日後。


美桜と母は二日後に控えているショッピングモールのオープニングセレモニーのパーティーに出席するべくパーティードレスを買いにデパートに来ている。


以前母が依頼を受けた駅前のショッピングモールのオープニングセレモニーパーティーに母は広告デザインを担当した事で招待を受けていた。

また、広告会社に課長として勤めている父もショッピングモールの宣伝企画に携わっていた為招待を受けた。

そこで、ショッピングモールのオーナーが夫婦で参加するなら是非二人の子ども達も参加するようにと気を配りパーティーに招待したのだ。

実はショッピングモールのオーナーは母の高校の時からの親友で現在は敏腕女社長として活躍しているそうだ。


「うーん…。美桜にはどんなドレスが似合うかしら…。ピンクもいいし…赤は派手だし…ネイビー…は私とかぶるし…。……よし!美桜は清楚系で可愛いから白ね!あとは…飾りはこれね!」

「……お母さん…清楚系で可愛いって自分の娘に言うかな?…なんか恥ずかしいよ…。」

「美桜は親の私から見ても清楚系よ。それに自分の娘に可愛いって言うのは当然よ!可愛いんだもの!……けど…都合よすぎるわね…。美桜の事…数年間見てこなかった私が今更こんな事…。」

「そんなこと…ない…よ。」

「………。」

「………。」


今回の買い物はパーティードレスを買いに来た目的もあったが、母が美桜と離れていた分美桜の事を知りたいのと距離をもっと縮めたいと願い買い物に誘った。

美桜もまんざらでもないのだが、よそよそしさは残っている。


「お母さんがそのドレスが似合うというのなら…それにする。選んでくれてありがとう…。」

「美桜…本当に今まで…ごめんなさい…。」

「うん…。もう…伝わってる…。……この後スイーツ食べに行こう!2階に新しく出来た喫茶店のケーキが美味しいってネットで記事になってたの!せっかく母娘おやこ水入らずなんだから買い物楽しもう!ね!」


美桜は母が選んでくれたドレスを手に取りお礼を伝える。

母は美桜のお礼を聞き再び今までの事を美桜の目を見て詫びた。

母の気持ちが伝わっている美桜は景気づけようとスイーツを食べに行く提案をして、母はありがとうと小さくお礼を伝え美桜のスイーツの提案を受けドレスと装飾品のお会計を済まして二人は喫茶店に向かった。




―――オープニングセレモニーパーティー当日の夕方。パーティー会場。

美桜達家族は正装に身を包み招待を受けたパーティー会場へと着き受付を済ませており、ウェイターさんが飲み物を配り歩いていたので父と母はシャンパンを、兄と美桜はソフトドリンクを受け取りパーティーが始まるまで中で待っていた。

続々と招待を受けた人たちが集まり始め、パーティー開始の時間が刻々と近づく。



招待客全員が会場に揃い、軽食が運び込まれ招待客皆が手にグラスを持ったところでパーティー開始の時間が来た。

今回の主役のオーナーがマイクを持ちパーティー開始の挨拶をして今回関わった企業等の紹介を始めた。

その中に峰岸の名前があり聞き間違いかなと思った美桜は特に気にせずにいた。


オーナーの挨拶や紹介が終わり「皆様、今宵は楽しんでいってください」と最後に招待客に伝え会場にいる各々が挨拶まわりや談笑を始めた。


父や母も各企業の招待客達に挨拶に行く事になり、兄は社会勉強だと言って父と一緒に行き、美桜も母に誘われ同行する事になった。


母と挨拶回りをしていると、先ほど挨拶をしていたオーナーが母に向かって駆け寄って来た。

「いっちゃーん!今回は依頼引き受けてくれてありがとう!おかげでいい広告が出来たと皆が言ってるの。今日もパーティーに参加してくれてありがとう。そちらは娘さん?高校の時のいっちゃんに似ているわね!清楚系で可愛いわ。」


「こちらこそ、仕事の依頼ありがとう。娘達のパーティーへの参加も。美桜、こちらが私の高校からの友達で今回招待してくれた鳴宮なるみやさんよ。私はなるちゃんって呼んでるの。」

「は、初めまして…。一ノ瀬美桜と申します。この度はパーティーに招待して頂きありがとうございます。母がいつもお世話になっております。」


オーナーの名前はどうやら鳴宮さんと言うらしい。

ボブヘアーで柔らかい印象を受ける母とは反対に髪を後ろでアップにまとめており、目がキリっとして仕事が出来る女という表現が似合う女性だ。だが物腰はすごく柔らかい。

鳴宮さんのお礼や挨拶に母が対応してくれて、紹介を受けた美桜も鳴宮さんに挨拶をする。

「まぁ…すごく礼儀正しいわ…私の娘も美桜ちゃんを見習ってもらいたいくらい…。こんなにいいがいるなんていっちゃんが羨ましく思えるわ。」

「なるちゃんだって娘自慢すごい時あるじゃない。本当に娘さんを見ているんだなぁって伝わるくらいよ。………私は…。」


鳴宮さんの言葉に母は応え、だんだんと俯くうつむく


その様子に何かを察した鳴宮さんが母に伝える。

「………親子なんていくらでもそういう事あるわよ。血がつながっているとはいえ、『人同士』なんですもの。会社で人間関係がいろいろあるように、家庭でもいろいろな関係があるわ。それに気づき正せるかどうかだと思うの。『今』と、『これから』が大切じゃないかしら。過去はやり直せないけど未来に繋げてやり直す事は出来るもの。……それに…いっちゃん…もう十分じゅうぶん反省しているのでしょう?顔に出ているし、美桜ちゃんも…十分じゅうぶんに気持ちを受け取っている表情かおをしているわ。ね、美桜ちゃん。」


母に微笑みながら伝え終え、美桜に向かってウィンクをして同意を求めた。

美桜は「はい」と頷き返事をした。

きっと多くの人を見てきて、多くの経験をしてきたのだろう。

鳴宮さんの言葉は母と美桜、二人の心にすんなりと入ってきた。


「もう、いっちゃん!パーティーはまだ始まったばかりなんだからそんな顔してたらお化粧が崩れてさらに可愛くなった顔が台無しよ!それに、パーティーを楽しまないなら怒るわよ。ちゃんと楽しみなさい!」

今にも泣きそうな母を励まし、一喝した鳴宮さんを美桜はかっこいいと思い、どこかカノンに似ているなと思った。


母は鳴宮さんの言葉にそうねと頷き笑顔を見せ鳴宮さんや美桜に感情的になった事を謝罪した。

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