第39話~王宮主催の夜会~
王宮に着き招待状の時間まで少し早い時間だが準備があることを伝える。
王宮に仕える使用人はすでに到着している貴族の方もいる事を伝え中へ案内し、侯爵家の使用人達と協力しながら準備に取り掛かる。
別の使用人にパーティーホールまで案内されると、時間まで早いがすでにほとんどの貴族たちが集まっていた。
美桜とオリヴァーがそろって貴族達に挨拶回りをしていく。
その最中、カノンに対するささやきが所々で聞こえてくる。美桜は気にせずオリヴァーと挨拶回りをしていると、準備が出来た使用人たちがホール内へ料理を運び始め国王や王妃、殿下が揃い、いよいよパーティーが始まる。パーティー開始の挨拶を国王が発する。
「皆の者、この度は何かとせわしい中集まってくれたこと感謝する。王宮主催とはいえ、気兼ねなく楽しんでいってほしい。それと、ちまたで噂になっているフローライト家。アザレアの復興ご苦労。して……アザレアの復興に関して聞きなれぬものを耳にした。菓子という食べ物があり、なんでも原料はアザレアのものだとか。今日はそれを披露するよう事前に伝えているが出来ておるか。」
国王の言葉に美桜とオリヴァー以外の貴族達がざわつき始める。
一人の貴族が躊躇いつつも意を決して言葉を発する。
「陛下、発言をお許しください。お言葉を申し上げますが、あのアザレアの原料を使った食べ物があるというのですか。ましてや披露とは…いったいどういう…。まさか王族自らあの土地の物を……ここにいる我々皆で口にするというのですか。そんなこと…。あの街がどういうところかご存じのはず。そのようなスラム街の物など、とうてい口には…。」
その貴族の言葉は国王を前にしているため丁寧な口調だが、あきらかにアザレアに対する侮辱だ。その言葉に美桜が貴族達の前に立ちはだかり言葉を発する。
「そのお言葉聞き捨てなりません!黙って聞いておりましたが私には侮辱の言葉にしか聞こえないです!あなたはあの街の方々が今までどんな思いで生活をしていたのかご存じですか!?好きでスラム街になっていったのではないんです。
きっかけは昔の天災や大飢饉かもしれませんが、時代が進み災害を忘れられ、復興や手助けを国や他の街から忘れられた経緯があってあのような姿になったのです。
国や、私達貴族の生活は民の力あってのものです。アザレアの方々は文句も言わず良く働いてくれています。今こうしている間にもすごい勢いで復興が進みいずれは他の街にも劣らないくらい立派な街になると私は信じてます。それくらい頑張っている方々が一生懸命働いて得た作物を使った食べ物や街を実際に見ることもなく偏見で侮辱するのはやめてください!」
美桜は言い切った。だがそれと同時に今までの美桜なら考えもしないくらい勢いのある発言に美桜自身が一番驚き戸惑っていた。その様子を影ながら見ている令嬢の姿がある。
「(ど、どうしましょう…。あんなに頑張ってるアザレアの方々のことをあのように言われてつい勢いよく言葉を発してしまいました。と、とりあえずここは国王様に謝罪せねば…)あ、あの…。陛下…。突然の申し出失礼致しました。それからあなた様にも…」そう両方に謝罪を述べていると、オリヴァーが話に入ってきた。
「陛下、そしてリーデル子爵。娘の無礼お許しください。ですが私からもよろしいでしょうか。娘の言う通りアザレアは今、着実に良い街へと変わりつつあります。陛下のお耳に入ったようにお菓子という食べ物の用意もこの通り出来ております。
娘が考案し侯爵家の料理人達が作りました。アザレアの復興に欠かせない作物で作り特産品として考えております。ぜひともお召し上がり頂きアザレアをスラム街としてではなく、一つの街として認めて頂きたいのです。」
そうオリヴァーが国王の問いに答えつつも美桜のフォローに入った。
それでも周りの貴族はざわつきささやいていると若い殿下がお菓子に近づき手近にあった紅茶のシフォンケーキを皿に取り分け一口食べる。
美桜はその様子をどこかでお会いしたような…と考えながら見ていた。
「うわ!これ…この間食べた物とはまた違った形のお菓子だね。すごくふわふわしていて口の中で溶けていくようだ。こんな食べ物は初めてだ!そして甘さだけではなく紅茶の香りが口に広がってすごくおいしい!母上もどうぞ召し上がってみてください。果物やハチミツには飽きたと仰っていたでしょう?この食べ物はきっと母上の飢えを満たしてくれますよ。」
そうお菓子に感動し、新しくお菓子をお皿に取り分け王妃に渡す殿下。
その声に美桜は思い出した。
「(この声…。もしかして、リックさん?!どうしてここに?!庭師の弟子と仰っていたはずです!母上とはいったいどういう…もしかして…殿下だったのですかー?!)」
街で会ったリックが立派な身なりをして目の前にいることが信じられず驚いた顔をしている美桜。
そんな美桜に気づいたリックもとい殿下は美桜にウィンクをする。
殿下からシフォンケーキの乗ったお皿を受け取った王妃はおずおずとフォークで一口に切り分け食べてみる。
「まぁ…。なんて柔らかく口の中でとろける食感なのでしょう。軽くて程よい甘さで…。紅茶の香りも口の中に広がりとても幸せな気持ちになります。このお菓子というもの…いくらでも食べてしまいそうです。」
幸せそうに満足しながら食べる王妃に国王も食べてみて同じく絶賛する。
原料や作り方などを美桜やオリヴァーに問いただすくらい気に入ったようだ。
そんな王族の様子にざわついていた貴族達もお菓子の存在が気になりだしそわそわしている。
その様子に気づいた国王が改めて言葉を発する。
「皆、アザレアがあのような街になったのはフローライト家のご令嬢の言うとおりだ。我々は考えを改める必要がある。すぐにとは言わぬ。時間がかかってもよい。少しずつ我々がアザレアに、国に…何ができるか再度考えていこう。この国が良くなっていくように、皆の協力も必要だ。どうか…。」
その国王の言葉に貴族たちは各々考える。それに国王がここまで言っているのだと一人、また一人お菓子に近づき実食を始めていく。
皆、躊躇していたがいざ食べてみると絶賛と感動の嵐に会場は包まれた。
国王と同じく原料や作り方を是非にと美桜やオリヴァーは貴族たちに囲まれてしまった。
少し会場が落ち着いたところで原料の説明をした。
原料を聞いた後会場は今度は驚きの嵐になった。作り方については直接侯爵家に来て指導をする事を伝えた。日にち決めは後日とし予約制で各貴族の料理人達を侯爵家に招く事を決めた。
会場が落ち着きを取り戻し各々がパーティーの残り時間を楽しんでいると、美桜のもとに先ほど美桜を影ながら見ていた令嬢が近づいてきて挨拶をする。
「カノン様。ご挨拶よろしいでしょうか。お初にお目にかかります。わたくしはカーネリアン侯爵家のアイリス・フォン・カーネリアンと申します。アイリスとお呼びください。先ほどの論説お見事でした!あのお言葉に感銘を受けまして、ぜひお近づきになりたいのです!」
「え、えーっと…。ご挨拶ありがとうございます。私も挨拶失礼しますね。。私はカノン・グレイス・フローライトと申します。あのようなお恥ずかしいところをお見せしてしまい…失礼致しました。お近づきになりたいと言って頂きありがとうございます。お友達になれたら嬉しいです。」
美桜が微笑み返事を返すとアイリスは嬉しそうにしている。そこへ殿下が声を掛けてきた。
「やぁ、カノン嬢。この間も今回も美味しいお菓子をありがとう。本当、お菓子は魅力的だね。すっかりやられたよ。それから、街では名前を偽って身分を隠して申し訳ない。王都でアザレアの事が話題になっていて、様子を見に行ってみたんだ。君の行動はアザレアにいる時に影ながら見ていたんだ。」
「い、いいえ、殿下ともあろうお人が街中で身分を隠すのは当然です。お気になさらないでください。」
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。改めまして、僕はライラック・レイン・アルストロメリア。よろしくね。またお菓子を作ってくれたらうれしいな。」
そうして殿下が改めて名乗り三人は時間まで談笑して過ごした。
貴族相手に思いもよらない行動に出たり、お菓子を披露し少しだけでも認めてもらえたり、アイリスという令嬢友達が出来たり、リックの正体が殿下という事実を知ったり何かと忙しい夜会になったのだった。
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