第37話~女神祭の飾りつけ~

美桜とオリヴァー、ウッドの三人が女神祭の計画を立てて一週間が経つ。


女神祭の飾りつけは今年は東側のフリージアだけで行うことになった。


アザレアにも声をかけ、復興の事で街の人達は皆大忙しなので女神祭の準備は侯爵家で準備をすると伝えたら、すごく喜んではくれたが復興だけでも侯爵家に感謝してもしきれないのに女神祭までしてもらうのは申し訳ないという気持ちの方が強く、街の人達は今年は気持ちだけ頂きたいと見送りになった。


―――フリージア

フローライト家が治める街フリージアの一番大きい通り。コーラル通り。

ここにはいろいろなお店や屋台が並ぶため人通りが一番多い。

そこでは今ウッドを筆頭に手の空いてる街の人、数十人と美桜が女神祭の飾りつけを行っている。

美桜が考えた飾りつけはこうだ。


炭鉱場に色味のあるガラス石があるという事で大量に採掘するように頼み、ガラス職人に採れたガラス石を色別に加工してもらいガラス板を作る。それと美桜の要望通り無色のガラス石で星形も作ってもらう。

色とりどりのガラス板を数枚作ったらハンマーで割り様々な大きさにする。割れたガラスは尖ってると扱うとき危ないので、やすりで削り少し丸みを帯びさせる。

それから鍛冶職人に鉄を加工してもらい中太の長い針金を作ってもらい渦巻き状に一度形を整える。


これを30個ほど作ってもらい、そしてその渦巻きの中心を円錐の形になるように上に引っ張る。高さは約60センチぐらいの高さになるように計算して作ってもらった。

そして衣服職人には木樽を覆えるくらいの大きな国旗を30枚作るように依頼をした。国家の紋章を前後左右の四か所から見えるように刺しゅうもお願いして作ってもらった。


こうして出来たガラス板を割ったものを円錐型の針金にでんぷんで出来た接着剤で貼り付けていく。

色も形も違うガラスを貼る作業はまるでパズルのようだ。

そして円錐のてっぺんから電球を内側に垂らし星形のガラスを組み合わせたらステンドグラス風ツリーの完成だ。

これらを大通りの両側に間隔をあけて設置していく。


設置する際、美桜の思うような高さを出すために高さ100センチの木樽を土台にし木樽の模様を隠すため衣服職人に依頼した国旗を紋章が見えるように被せ、ステンドグラス風ツリーを乗せる。

この国旗がクリスマスカラーだと最初見たとき美桜は驚く。

淡い緑の布をベースとし赤い線の枠で緑を囲み、赤いアルストロメリアの花が真ん中に大きく刺しゅうされている。


ただ一つ問題が残っており、ガラスを照らすちょうどいい大きさの電球が足りないのだ。

電球まで作る時間が足りなく、今からでも間に合わない。

どうしたものかと美桜が考えていると、以前から美桜を影から見る者が近づいて声を掛けてきた。


「こんにちは、お嬢さん。すごい飾りつけですね。こんな色とりどりのガラスの飾りは見たことがない。それに国旗をこんな風に飾るなんていったい何のお祭りですか?」


急に声を掛けられ驚いた美桜は声のしたほうを勢いよく振り返る。

そこには背がスラっとして帽子をかぶった好青年が立っていた。青年は物珍しそうにまじまじと飾りを見る。


美桜は驚きはしたものの青年の問いに笑顔で答える。

「こんにちは。来週の25日に女神祭があるのでその準備をしています。せっかくの女神祭なのに何もしないのはもったいないと思いまして。こうして飾り付けたり各家庭パーティー料理を作ったり、プレゼント交換をしたり、楽しいお祭りになれたらなと思い急遽皆さんに協力してもらっているのです。願わくは、いずれは国全体が楽しく出来たらいいな…なんて思ってみたりしています。


(どなたでしょうか…背が高くて爽やかなイケメンさんです。峰岸くんの方が私はかっこいいと思いますが……ってなぜここで彼が出てくるのですか!)ところで、あなたは?私はカノンと言います。」そう百面相しながら峰岸君が頭に浮かんだのを振り払い名乗る美桜。


「(へー…。変わり者の令嬢だと耳にはしていたが…。面白いな。)あ!まだ名乗っていなかったね。僕はリック。よろしくね。この飾りは君が考えたの?さっき何かに困っていたようだけど、どうかしたのかい?」

美桜の話を聞いた青年はぽそっと美桜に聞こえないくらいの声で呟き、自分がまだ名乗っていないことに気づいて名乗り、先ほど美桜が悩んでいるのを見ていたので聞いてみる。


その問いに美桜は困っていたことを思いだし返事を返す。

「実は…この飾りに電球を取り付けたいのですが、丁度いい大きさがないのです…。職人さんは他の作業や今回の飾りで手いっぱいだったので作る時間が足りず…。今からお作りするのも時間が足りないのです。」


そう残念そうに言う美桜にリックは提案する。

「僕、王宮に庭師の弟子として師匠と出入りしているんだ。時々殿下ともお話しする機会があって少しは顔が利くから明日の仕事の時、電球の事相談してみるよ。もしかしたら物作りが好きだったノーマン国王の遺品に君が納得いくものがあるかもしれないし。それじゃ、そういうことで、また明日この場所で!」


美桜はその提案を聞いて元国王の遺品はさすがに駄目なのと自分たちが起こした事業の問題に王宮を巻き込むのは申し訳ないと思い断ろうとしたのだがリックは美桜の返事も聞かずにさっそうと言ってしまった。

美桜はさらに困りながらも致し方ないと思い残りの作業を開始した。


―――翌日。


女神祭の飾りつけがおおかた終わり、美桜がウッドと電線の配置や電球がないままのステンドグラス風のツリーの飾りの安全性など点検をしているとリックが大きい袋を抱えて美桜達のもとに駆け寄って来た。

「カノンさーん!こんにちは!約束通り電球持ってきたよー!この中に使えそうなのはあるかな?」

そう言ってリックは袋を広げて中を美桜に見せた。


「すごいです!こんなにいっぱいの電球!それに丁度いい大きさの物ばかりで、これならツリーに使えます!リックさん、ありがとうございます!でも本当に使ってもよいのですか?王宮の大切なものでは…。」

袋の中を確認した美桜は求めていた物が大量にあり喜ぶ半面、申し訳ない気持ちで確認する。


だが、リックは王宮の許可を取ってあるから大丈夫だと満面の笑顔で答える。

その返事に美桜は嬉しさが込み上げリックの手を取りお礼を伝え、もう一つ休憩の時に食べようと思っていたクッキーを渡した。

「これは…?初めて見る食べ物だ…。匂いはすごく香ばしいね。」

美桜から渡されたクッキーに見慣れないためまじまじと見つめ匂いを嗅いだりしたのち一口かじってみる。


「!?な、こ、サ!?」

リックは初めてのお菓子にうまく言葉が出ないようだ。

「こ、こんな食べ物初めてだ…。サクサクとしていて…。それで口の中でホロホロとして…噛めば噛むほど香ばしい匂いと甘さが口の中いっぱいに広がる。この食べ物すごく気に入ったよ!どうやってつくるの?これも君が?」


少し落ち着きを取り戻したリックはクッキーについて興味津々だ。

すごく気に入ってくれたようでその様子に美桜も嬉しくなった。今は詳しくは話せないが、いずれ国中にお菓子の事を広めたいと美桜は説明する。


二人はお菓子の事で盛り上がっていたが、その場に取り残されていたウッドがコホンと咳払いをした事でリックと美桜は女神祭の準備の事を思い出す。

電球が無事に届いたこともあり最後の仕上げに取り掛かる美桜とウッドだったが、そこにリックも手伝うと言ったので三人で作業に取り掛かった。

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