第27話~屋敷の皆とお菓子パーティー~

街から戻った美桜は、護衛二人と馬車引きにお礼を伝え自室に急ぎ制服に着替えて特注したハサミを持ち厨房に走る。

そんな慌ただしい美桜にリリーも付いて行く。


厨房に着いた美桜は数時間厨房を使っても大丈夫か料理長に確認を取り許可をもらえた。


この間のお菓子の件もあったので料理長たちは美桜の作るものに興味津々だ。

美桜は料理長たちにも手伝うよう呼びかけ砂糖の実の収穫からハサミを使っての殻割、殻と砂糖の振るい分けをお願いし、作業を分担しながら準備を行う。


作るのはもちろんお菓子で、ホットケーキを作ったときは目分量だった砂糖も後に天秤があるのを知り、その使い方も調べ完璧に使いこなせるようにした。

材料や器具の準備がすべて整い美桜を筆頭にお菓子作りが始まる。


美桜も自分で手を動かしながら料理長達にテキパキと指示を与える。

次々と見慣れない料理が出来上がっていく事に料理長たちは驚きを隠せない中美桜の手や指示が止まることがなく最後の仕上げに入っていく。


出来上がったお菓子の種類はクッキーやガレット、一口サイズのドーナツにフルーツタルトだ。種類は少なくとも数を多く作った。

これからレパートリーも増えるだろう。


この世界は現代の日本のように乳製品の生クリームやバター、チーズにアーモンドパウダー、砂糖の実も豊富だ。

昔の研究者が偶然作るのに成功した氷室もあり氷を作る技術もある。次のお菓子作りを考えるだけで美桜の胸は幸せいっぱいだ。


盛り付けも終わり出来上がったお菓子たちを目の前に皆喉を鳴らす。

リリーに至っては目を輝かせて今か今かと待ち望む。

美桜は、屋敷の皆で食堂に集まりお菓子パーティーをすることを提案する。時間もちょうどアフタヌーンティーの時間だ。

リリーを始め使用人たちは皆お互いに声掛けをし、お茶の準備や盛り付けたお皿を食堂へ運ぶなど手分けをする。


皆が食堂へ集まり、準備が整ったところで美桜が話す。

「皆さん、お仕事中にこうして集まって頂いてありがとうございます。ここに並べてあるお料理は砂糖の実を使ったものでお菓子またはスイーツと言います。私と厨房の皆さんで作ってみました。このお菓子をお茶会などで貴族の方々に食べて頂こうと思うのですがその前にこうして皆さんから感想を聞きたいと思い集まって頂きました。それでは皆さんどうぞ召し上がってください。」


そう話し終えると、使用人の一部は書庫にこもりっぱなしだった令嬢が今度は何だと怪訝そうに見る。お菓子を前にしても動く気配がない。


だがそんな先輩使用人をよそにリリーや、若い使用人そして厨房の皆がお菓子を切り分けたりしながら食べ始める。

すると「な、なんですか?!このお料理!!この甘さ!!!」と最初に言ったのはリリーだ。「サクサクしていて、でも噛むたびに口の中でほろほろと崩れていき甘さが広がり紅茶と合わせたら余計に味が引き立ちます!紅茶もこのクッキーというお菓子も相性がいいですね!このようなお料理を思いつくとはお嬢様は博識なのですね!私、一生お嬢様についていきます!」


そう言ったリリーの言葉に続けて次々と使用人たちが感想を伝え「これなら他のご令嬢たちにも受け入れられますよ!こんなにおいしいお料理ははじめてです!果物にこんな使い方があるなんて…。いいえ、砂糖の実にこんな使い方があるなんて。長年お屋敷で料理長をしておりますがこのような気持ちは初めてです。幸せです。」

そう感動して泣きながら料理長はフルーツタルトを食べている。


その様子に怪訝な顔をしていた使用人たちも興味を持つがなかなか動けないのをリリーが先輩方もどうぞと笑顔でお菓子と紅茶をすすめる。

先輩使用人達はすすめられたお皿に乗ったドーナツを食べると食べたこともない柔らかさと甘い味に感動で美桜を見る。

「こ、これを…あのお嬢様が…」その先輩使用人の視線に美桜はにこっと微笑む。その時だった。


急に食堂の扉が開き「なんだ!この騒ぎは!私がいない間に何かあったのか!」と立派な身なりをした男性が勢いよく入ってきた。


先輩使用人の一人が「旦那様!おかえりなさいませ!お出迎えも出来ず申し訳ありません。お帰りは夜だと伺っておりましたので…。誠に申し訳ありません。実は…」と事の経緯を説明する。


それを見た美桜は「(カノンさんのお父様ですね。背が高くすらっとしていてイケオジという感じですね。)」


食堂から大勢の使用人たちのお菓子に対する感動の声が廊下まで漏れていた為何かあったのかと食堂に勢いよく入ってきたのはカノンの父、オリヴァー・グレイス・フローライトだ。


説明を聞き終えたオリヴァーが今度は美桜に向かって歩いてくる。

「カノン、部屋と書庫の行き来をしていたと思ったら今度はまた可笑しなことを…」

だけにですね。お帰りなさいませ。お父様。今までの振る舞い失礼致しました。これからはなるべくご令嬢として振舞いますね。」

そう綺麗なお辞儀をして伝えるとオリヴァーは久しぶりに見た娘が令嬢としての振る舞いをしているのに唖然とした。

それくらいカノンは令嬢としての生活から遠ざかっていたらしい。


ハッと我に返ったオリヴァーはテーブルの上に残っていたお菓子が目に入り皆の楽し気な雰囲気に「私も…一つ…いいか…」と美桜に聞く。

美桜は「もちろんです!お父様もどうぞ!」とお菓子が乗ったお皿を差し出す。


オリヴァーは一つ口に入れ食べたこともない美味しい料理を娘が作ったのだと驚きつつもついこの間の自分の娘に対する冷ややかな態度や他の貴族の娘への態度を思い内心複雑に思うのだった。


その考えが表情に出ており美桜は「お口に合わないですか?」と聞く。

「い、いや、そんなことはない…。おいしいぞ…。こんなに美味しい料理ははじめてだ…」と褒めるも煮え切らない言葉を言い残し食堂を去っていった。


残された皆は場の盛り上がりも落ち着きを戻し、時間も思いのほか経っていたのでお菓子パーティーはこれでお開きとなり皆が持ち場へ戻ろうと片づけ始めた。

残っていたお菓子は美桜の食後のデザートになった。

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