9 缶ビールでイケナイ気分
荷物を解いていると榎木が聞いてきた。
「篠原。バイト、いつから行くんだ?」
「来週から」
榎木に合わせてこちらに帰って来たので、ギリギリではない。
「そうか」と榎木は背中を向けて、自分の荷物にかかる。
シャツの袖から覗く日焼けした逞しい腕。広くなったように感じる肩幅。部屋が狭くて、息苦しいように感じてしまうのは何故だ。
気を取り直して、自分の荷物に向かいながら聞く。
「榎木のバイトは?」
「俺も来週からだ」
「そっか。じゃあどっか遊びに行こうぜ」
「そうだな」
それにしても母が押し付けてくれたものは、服から下着、小物から薬、食べ物まで、そこらで買えそうな物まで入っている。県産の蜂蜜を取り出しながら、重たかったわけだと思う。
荷物を片して、シャワーを浴びて出ると、榎木は缶ビールで一杯やっていた。Tシャツにショートパンツという格好で、パジャマのズボンにバスタオルを引っ掛けただけの俺をチラリと見て言ってくれる。
「お前って、可愛いけど色っぽくないよな」
「何だよ、それ」
男に色気を求めるなって。
「悪いか」
「いいけど」
俺も冷蔵庫から缶ビールを取り出してクイと煽る。最初の一口が美味いんだ。
榎木は立ち上がって「こっち来いよ」と俺を自分の部屋に誘う。
「何? 話でもあるのか?」
一応はお互いの部屋は不可侵条約を結んである。しょっちゅう出入りはしているけれど。
「いいから」
夜通し語ろうってか。うっしゃ。
缶ビールを抱えたまま部屋に入ると、程よくエアコンを効かせていて、風呂上りの火照った身体に気持ちがよかった。落ち着いたブルーと茶系でまとめられた片付いた部屋は、俺の雑然としたおもちゃ箱みたいな部屋とは全然違う。
榎木はベッドに背中を預けて座り、自分の隣をポンポンと叩く。
いくら俺が鈍感でも、先ほどの公園での行為もあってみれば、何かが来そうだとは思う。
うわー。告白されたらどうしよう。目に星を浮かべて、即答で返事したらお安く見えるだろうか?
などと、乙女な妄想を頭の中で展開させる。
しかし、榎木はそんな面倒なことはしなかったのだ。
缶ビールで一杯機嫌になって、隣に座ってへらへらしている俺の方を向いた。うんと顔が近い。
こいつ、まずまずのいい顔しているんだよな。
とか思っていたら、顔がどんどん近付いて、唇がくっ付いていた。
「ん……」
いきなりキス?
呆然としていたら、肩を抱かれて、顎を押さえて、本格的に唇が重なってくる。
告白は? 好きだ、くらいは聞きたいような。
しかし、榎木は戸惑って拗ねたい気分の俺にお構いなしに、どんどんコトを進めてくる。
手がパジャマのボタンを外して中に入ってくる。
む、胸を触ってる。俺の胸ってないぞ。ペタンコだぞ。
指が乳首に当たった。人差し指と親指で摘んだ。
「んんっ……」
キスされているので、変な鼻声だけが出る。
何か変だ。俺の身体。そんなことされたら、下半身にくる。と思ったら榎木のもう一方の手が下半身に下りた。
パジャマの上から俺の股間をしばらく撫で擦っていた手が、中に入る。何だか興奮してくる。
俺も榎木のそこに触れてみた。榎木も興奮しているようだ。
榎木の手がじかに俺のものに触れた。握りこんでゆるゆると手を動かす。
俺もお返しとばかりに榎木のものを掴んで刺激を与える。榎木のものがグンと力を持つ。俺のそこも、いきり勃っている。
榎木の手の動きが早くなった。お互いに競うように手を動かして相手を追い詰めたが、俺の方が先にイッてしまった。
「はう……」
男相手にキスをして、男相手に気持ちよくイッてしまった。
こうなったら、榎木もイカせてやろうと思ったが、彼は腰を引いて首を横に振る。その代わりに俺の穿いていたパジャマのズボンを脱がした。
このまま初体験も済ませてしまうのか!?
っていうか、ここまでずっと榎木が主導権を取っているんだよな。ということは、やっぱり俺が山田みたいにヤラれる方か?
チラッと榎木のそこに目が行く。結構立派なもの持っているんだけど、こいつ。コレが俺のそこに入るのか?
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫だ。ちゃんと教えてもらったから」
「え……?」
誰に……?
そう云えば、隣に訊くのは癪でとか言っていたな。それで、あの綺麗なオカマに訊いたのか!?
何で癪なんだ。
「ベッドに上がって」
「う、うん……」
本当に大丈夫なのかな。でも、隣はあの時、気持ち良さそうだったし……。
榎木はベッドの横の引き出しから、液体の入った手のひらサイズのボトルを取り出した。
よ、用意がいいんじゃないか?
だが、あの彼女が来た時から榎木はこういう事を聞いていた訳で、その頃から、俺とこういう事をしようと思っていたのか?
うつ伏せになった俺のお尻を、榎木の手が撫でたり揉んだりする。そんなコトをして面白いんだろうか。ボトルのキャップを開いて、ぬるい液体が尻の狭間に注がれる。
「力、抜いていて」
指が入ってくる。
「痛くない?」
「いや……」
痛くはないけど変な気分。それに、物凄く恥ずかしい。
何度も指が往復する。やがて二本に増やされて、後ろを押し広げるように動く。その後、榎木は俺の腰を持ち上げて、ゆっくりと侵入を開始したんだけど。
死ぬかと思った――。
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