砂糖仕掛けのオレンジ
きょうじゅ
本文
もう一ヶ月も費やしてオランジェットを作っている。
オランジェットというのは、オレンジの皮を干して砂糖漬けにしたものをチョコレートでコーティングした洋菓子のことだが、この「オレンジの皮を干す」というのが曲者なのである。オレンジの分厚い皮はそう簡単にからからに乾いた状態にはならない。従って、乾燥だけで一ヶ月を費やし、そろそろ本命のバレンタインデーが近いのだが。
そんな折に、別のクラスだけど同じ学校に通っている幼なじみの少年に言われた。LINEで。
「なあ。明後日バレンタインデー、だよな」
「う、うん。それがどうしたの?」
「多分、おれ今年も誰からも貰えそうにないからさ。義理チョコでいいから、くれよ」
え、えーと。この場合、どう答えるべきだろう。
「あげない」
と言ったら、チョコレートを贈るという行為自体ができなくなってしまう気がする。でも、
「あげる」
と言ったら、自動的にこのオランジェットは確定で義理チョコであるということにされてしまうのではあるまいか。
「考えとく」
と私は返答し、その日のLINEでのやりとりはそれで終わりとなった。しかし、義理チョコというのは、なんとややこしく、複雑怪奇なシステムであろうか。義理チョコというのが何のためにあるかといえば、「その中に本命チョコを自然に紛れ込ませ、違和感なく贈らしめるため」である、というのが少女漫画などの世界でのお約束なのだが。
オランジェットになるために干からびているオレンジの皮が、からからと乾いていく。私の気持ちの柔らかなみずみずしさとは、対照的に。
さて、どうしよう。なんて言って渡せばいいのか、この私の茶色くもオレンジで甘い想い。
で、13日の夜。わたしはからからオレンジをオランジェットに仕立てていく。ラッピングするのは二つか三つでいい。一番きれいにできたやつを、ラッピングするのだ。残りは自分で食べた。想像以上に甘かった。コッテコテのギットギトに甘かった。
さて本命の作業である。綺麗に包むことができた。わたしは残りのオランジェットを、自分で食べる。彼以外の誰にもくれてやるつもりはない。一ヶ月もかけて作ったものを、義理チョコなんかで配れるものか。
で、当日。放課後に教室を訪れたら、彼はクラスメイトらしき少女と一緒にいた。すごく、嫌な予感がした。
「あ、わりぃ。今年は、もらえたわ。だから義理チョコはもういいよ、面倒言って悪かったな」
私は絶句した。
「……あ、そう。じゃあ、いいわ」
私は一人で家に帰り、わんわん泣いた。そしてラッピングを破り、義理チョコとしてすら受け取ってもらえなかった私の大本命チョコレートを口に入れた。
やっぱり、コッテコッテのギットギットに甘かった。
砂糖仕掛けのオレンジ きょうじゅ @Fake_Proffesor
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます