抜けてる人気者を守るため、陰ながらサポートに徹します

みゃあ

〇〇〇ついてる二見さん


 私――薄陰うすかげ透子とうこのクラスには、ひときわみんなの目を惹く女子生徒がいる。

 名前は、二見ふたみたまきさん。

 どのぐらい目を惹くのかといえば、すれ違った人全員が目で追うぐらいだし、一度見たら忘れられないと噂になるほど。

 それはひとえに、彼女の容姿が優れているからだろう。


 ぱっちりおめめに柔らかな眉。鼻は高く、ピンク色の唇はツヤがある。それらがバランスよく小顔に収まっていて、透明感のある肌が全体をまとめていた。

 肩まで伸びるサラサラした黒髪に、枝毛なんてものは存在しない。

 とまぁ、お顔だけでもポテンシャルが高いってのに、彼女はスタイルまでよかった。

 ブラウスにお山を築き上げるほどの胸元、私の両手でも掴めてしまいそうな腰、美しいカーブを描くお尻と、そこから伸びる細く長い脚。

 つまるところ、容姿端麗ってやつだ。目を惹かないわけがない。

 それでいて彼女の場合、成績優秀で運動神経も良く。いつも笑顔で、誰に対しても優しい。

 まさに完璧超人。高校入学と同時にクラスの、いや学校内の人気者へとなっていた。

 もう一週間がたつというのに人気は衰えることなく、むしろ増してる気がする。



 ……私? 私はまぁ、コミュ障なので人と仲良くとかできないし。目も合わせられないし。うまく話も出来ないし。影薄いし。

 笑顔を絶やさない。←わたしもこんな風になりたい――いやムリなんですけどね。


 高校生になったってのに、未だ友達のひとりも出来ずじまいだし。そもそも十五年間ぼっちですがなにか?


 「…………」


 そんなぼっちの私は、今日も二見さんに視線を向けてる。

 彼女の席は右端の一番後ろの席。私は間にひとつ挟んだ隣の席だ。

 今日も今日とて、うつぶせになりながら彼女を眺める。(こっそり←これ大事)


 で、二見さんは周りを囲んでる友達たちと、楽しそうにおしゃべりしてる。他愛のない話に笑顔を浮かべ、高校生活を満喫してた。

 あそこに混ざるような勇気は私にはない。まず間違いなく会話が続かない。

 「なにコイツ急に混ざってきたくせに会話のキャッチボールも出来ないとか」と冷めた目で見られるのがオチだ。


 じゃあなぜ二見さんを眺めているのかって? ほかのみんなのように目で追ってる……とかではない。

 実はここまで二見さんを持ち上げてきたが、彼女にも欠点がある。いや、人によっては美点かもしれないけど。

 二見環さんは、――抜けていた。

 言っちゃなんだけど、ポンコツである。


 私の目は彼女を見てるけど、正確には彼女の背中を見ていた。

 そこには糸くずがついていて。二見さんがそれに気づいた様子はない。


 たいていの人なら「なんだそんなことかよ。しょうもな」と呆れた目を向けてくるだろうが、相手はあの二見さん。

 完璧超人である彼女が、背中に糸くずをつけているなんてことが他人に知られでもしたら、


 『ねぇ見て? 二見さん背中に糸くずつけてるわ。なにあれ、オシャレのつもりかしら』

 『二見さんったら制服の汚れには気を配れないみたいね。きっと家ではだらしないんでしょうね』


 ――と、なるに違いない! 恥ずかしい思いをするに違いないのだ。


 幸いなことに二見さんの友達や、クラスメイト達は糸くずに気付いてなさそう。

 ここは私が助けて差し上げなければ。みんなにバレないように、こっそりと。


 「……っ」


 私は席を立ち、トイレに行く風を装って二見さんに近づいていく。いつも以上に気配を消して。

 彼女たちに気取られないような速度で、手を動かし、糸くずをキャッチ。


 「……っ!」


 いけないいけない、危うくガッツポーズを取りそうになった。

 チラ見するも二見さんには、気づかれてないよう。私はそのまま教室を出て、ひとつ息をつく。


 「今日も、二見さんを、守れた……」


 今度はガッツポーズをとる。


 いろいろ抜けてる二見さんが恥ずかしい思いをしないよう、守る。

 彼女の笑顔が曇らないように、陰ながらサポートする。それが私の(勝手に)定めた使命。


 だから二見さんは、高校生活をめいっぱい楽しんでくださいね……!

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