第39話 王都を目指す
勇者が私を殺そうとしたので誠に遺憾であるとサンドウ王国に伝えると、そのような事実は一切ないと否定された。
おまけに和平の使者を一刻も早く返還しなければ、大軍を派遣して攻め滅ぼすと脅される。
私としては、頼みの綱の勇者がやられたというのに強気なものだと思った。
そのような状況ではあるが、自分は領主の屋敷の会議室で椅子に座り、片手間で書類仕事をしている。
世話係のレベッカが入れてくれた温かいほうじ茶を飲みつつ、あくまで冷静に口を開く。
「それで、勇者とパーティーメンバーの意見は?」
部下の面倒は、上司が見るものだ。
それに勇者たちには利用価値があり、ノゾミ女王国とサンドウ王国の友好関係を結ぶのに手っ取り早い。
なので彼らは領主の屋敷に滞在してもらっており、今は私に呼ばれて目の前でお茶とお菓子を食べながら、のんびり会議をしていた。
最初は警戒心バリバリだったが数日もすれば慣れて、現代日本式のマジックアイテムの操作を覚え、便利で快適な生活をエンジョイしているのだ。
「俺は国王の犬になるつもりはないぞ。
生活レベルも下げるのもごめんだ」
最近の勇者たちは、毎日のように町の外にでかけて魔物の討伐をしている。
私たちに負けたのが悔しかったのか、レベルアップに励んでいるようだ。
今の
(ミスリルジャイアントに搭乗して大喜びしてたし、問題はないかな)
彼はテレビや漫画は普通に見ていたようで、異世界転生やロボットアニメへの理解もあり、また乗せて欲しいと食い気味に要求してきた。
ここで機体の改修やメンテナンスや制御が可能な私を失えば、二度と動かせないと伝えておいた。
なので今後は、天原が裏切る心配はないだろう。
次に私は書類仕事をしながら三人娘のほうに視線を向けると、それぞれ困った顔を浮かべていた。
「私は勇者様に従うように、命じられていますので」
「アタシも同じだ。家の事情はあるが、
「右に同じ」
どのように答えるかは、大まかだが予想できていた。
しかしさり気なく天原の好感度を稼いでいるのか、本当に好きになったのかはわからない。
私は他人の色恋沙汰にはあまり興味はないし、馬に蹴られるのはごめんである。
(まあ、取りあえずノゾミ女王国を裏切ることはないでしょ)
だが形勢が不利になれば、手のひら返しは珍しくない。
それでも私も状況次第で意見を変えるし、万が一の心配をし過ぎたら何もできなくなる。
ちなみに私が思考加速をしながら書類仕事をしている間、三人ともポテトチップスを食べる手が止まらなかった。
とにかく事前に皆の意見を聞くことができたし、これで良しとしておく。
自分も適当なところで手を止めて、ほうじ茶を飲んで一息ついていた。
すると
「そう言えば、女王様の意見は?」
便宜上は部下なので、お前から女王様に呼び方が変わった。
口調が荒っぽいのはいつものことではあるものの、私は別に根っからの王族ではない。
いちいち気にせずに適当に流して、自分の意見を口にする。
「私は別に、戦争がしたいわけではありません」
サンドウ王国がどの程度の軍事力を持っているかは不明だし、私は別に戦争がしたいわけではない。
それに後々、天原が国王になるのだから無駄に消耗させて荒廃するのは良くないだろう。
だからと言って降伏する気は毛頭なく、できれば穏便に決着をつけるに越したことはない。
なのでの後に取るべき対策を、はっきりと口に出す。
「貴方たちと共に、私も王都に向かいます」
「……ほう」
「その後は臨機応変に行動し、貴方にサンドウ国王になってもらいます」
「行き当たりばったりじゃねえか!」
案の定ツッコまれたが、こればかりはどうしようもないのだ。
「私は辿るべき未来を予測できますが、完璧ではありません」
情報が少なければなおさらで、その点サンドウ王国は不確定要素が多すぎた。
ここは大雑把なが方針だけ決めておいて、あとは臨機応変に対処したほうがきっと上手くいく。
ちなみに何故彼らに未来予測のことを話したかと言うと、別に深い考えがあったわけではない。
ただ完全に信用はしていないが一応は仲間なのだし、こっちも多少の腹を割って話をしたほうが良いと思ったのだ。
ついでに先読みされているとわかったところで、今度は知られている前提で予測すれば問題はない。
話したからとはいえ、容易に対処できる能力ではないのだ。
とにかくそういうわけで、私は彼に率直に尋ねる。
「それに勇者なら、国王になるぐらい簡単でしょう?」
「ははっ、言ってくれるな!」
焚きつけられた天原は、不敵な笑みを浮かべる。
どうやらやる気になってくれたようで、私も満足そうに頷いて書類仕事に戻る。
とにかく次の作戦が決まった。
あとはサンドウ王国の要望通りに、彼らをを返還する。
そして正当性を訴えるために私も王都に同行すると、書状に
やられっぱなしでは気が済まないので、今度はこっちが攻める番だ。
ゴーレムと人間の友好を望んではいるが、犠牲を出さずに成し得るとは思っていないのだった。
会議からしばらくして、準備に時間はかかったが王都に向かうメンバーが決定した。
普段から重宝しているいつものメンツで、特に代わり映えはしない。
ちなみに本当は家事ぐらい自分でやれるし、ノゾミ女王国や仮想空間の自宅では一人でのんびりくつろいでいる。
けれど他の人間が居る場所では、女王なのでそうはいかないのが困ったところだ。
長期間戻ってこれないことを考えて、留守の間はノゾミ三号にコッポラ領の政務を任せる。
実際に仕事をするのは私なのだが、領主代理になった頃と比べれば統治が安定して負担は減っていた。
ならば勇者をサンドウ国王にすれば少しは楽になるかと思いきや、彼にそっちの能力は期待できないので自分が続投だ。
だがまあ今は、ウルズ大森林の奥地に籠もって悠々自適に暮らすという目的がある。
なので千里の道も一歩からということで、遠隔操作で地道に政務を行うのであった。
少しだけ時間が経ち、二台の飛行型大型キャンピングカーで王都を目指して、高速で移動を開始する。
片方は勇者パーティーが乗っており、
だがしかし、彼は訓練をしていないし前世でも免許を修得していない。
私も持ってないけど経験だけは積んでいるので、それで良いのだ。
ちなみに私たちが乗っているほうは、秘書件世話係を務めているレベッカに運転を任せている。
勇者パーティーは
そして護衛のミスリルゴーレムの四人には、飛行ユニットを履かせている。
徒歩ではなく高速移動で追従してもらっていて、形状は何となく下駄っぽくも見えた。
しかし一応は、海を泳ぐエイをモデルにしたつもりだ。
ウッドゴーレムを連れて来れば、雑用をこなしてくれるので楽である。
それでもサンドウ王国にとっては凶暴なモンスターだし、仮想敵国の首都に乗り込むのだ。
あまり刺激すれば、問答無用で攻撃される可能性が高い。
なるべく穏便に解決したいからこそ、正面戦闘は極力避けて国王の元まで辿り着きたかった。
しかし、万が一の備えや護衛はやはり必要だ。
今回連れて行くゴーレムはミスリルタイプの四人のみで、残りは皆人間だ。
守護騎士も人形っぽく見えるように全身鎧で武装しているため、まあ何とかなるだろう。
もしどうにもならなかったら、その時はまた考えれば良いやと割り切る。
私は成長しないしレベルも上がらないが、思考加速や事務処理能力は天井知らずで上がり続けていた。
おかげで今では仮想空間に移動しなくても、政務や全マジックアイテムの管理を行うことも可能だ。
なので現実に意識を留めたまま、二台のキャンピングカーで王都に向かって休まず走り続けられる。
魔物が大繁殖しているのか、エンカウント率が異常に高いのが気になるが、ウルズ大森林の外はモンスターのレベルが低いのか蹴散らすのは問題はない。
取りあえず分身体は相変わらず多忙な日々を過ごしているが、本体の私は窓の外の景色を眺めて楽しむ余裕ができたのは良いことなのだった。
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