Scene10
「一班、進め! 二班は裏に回るんだ!」
「イエッサー!」
「決して隊列を崩すな! あいつらは一人になったところを狙ってる!」
実際に、それで既に何人も犠牲になっていた。
ケビンは焦っていた。さっきようやく合流した恭一ともすぐにはぐれ、安否もわからない。
ケビンは立ち止まった。
「あーあ。皆に注意したばかりだったのに」
ゆっくりと斜め後ろに振り返る。その先には、自分を狙う影が。
「ヒャーハッハッハ! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ。俺達の世界征服の、邪魔はさせん!」
筋骨隆々の身体で、太い触覚のようなツンツンへアーの悪漢が舌なめずりしていた。
「マンガみたいなキャラですね。随分と能力を使いこなしているようですが、ボクには勝てませんよ」
ケビンがバッと右手を伸ばした先には鈍く光るモーニングスターが。二十センチくらいの鎖で繋がっているタイプだ。グルングルンと高速で回し始める。
「お、おい……そんなん本来オレが持っているべきもんだろうが」
男が少し怖気づく。
「ええ。だから出しました。目には目を、ってね。それに今夜は……妙に星が綺麗ですから」
「いや、短絡的すぎんだろ!」
「死んでもらいます」
人間とは思えない跳躍力で、ケビンは一気に距離を詰めた。
そのままいくつもの棘がついた鉄球を、男の頭狙って振り上げる。
「う、うわぁぁぁあああーーー!」
男の頭蓋骨を貫くまであと1ミリ。その刹那、ケビンが持つモーニングスターは一瞬で消失した。
男は泡を吹いて気を失う。
「ボクがそんな野蛮な戦い方をするわけないでしょ」
「フフフ。そいつを倒しただけでいい気になるなよ」
「そいつは我々の中でも最弱……!」
ケビンの前には新たな人影があった。
「だからさっきからベタすぎません?」
ケビンはその男達に向き直った。
***
猛者十人との連戦は、さすがのケビンでも骨が折れた。全員を拘束してからよろよろと味方の加勢に向かう。
皆は無事なのか……ケビンは背の高い雑草がたくさん生える空き地を突っ切ろうとした。ガサ、と物音がする。
即座にあらゆる種類の武器を手にし、臨戦態勢に入った。
「あれ? 先輩?」
そこにいたのは、さっきはぐれた恭一だった。
「お、おう……」
恭一が目を泳がせながら、片手を上げて答える。
よく目を凝らすと、恥ずかしそうにこっちを見る葵と繁みに隠れて抱き合っていた。
「ちょ、ちょっと先輩!? 何やってんすかこんな時に!」
「おう、ちょっとな……」
「いやちょっとじゃないでしょ! 今みんな傷だらけになりながら戦ってるんですよ!?」
「わぁーかってる、わかってるって。身に沁みてわかってるよ」
「いいえ、全ッッ然わかってません! こんなところで油売ってる場合じゃない! ほら! 行きますよ!」
「あー! ヤバい崩れる崩れる!」
「やっめろぉ!」
恭一の腕を掴んで無理やり引き剥がそうとしたケビンは、恭一が出したオレンジ色の光に弾き飛ばされた。能力そのものを具現化させた、相当の上級者しかできない技だ。
「……ッ! 何するんですか!」
「うるせぇ! 今それどころじゃねぇんだよ!」
恭一の目が、今まで見たことないほど血走っている。
その必死の形相を見たケビンは、呆れたように肩をすくめ、立ち上がった。
「もういいです。見損ないました。このことは組織に報告させてもらいますからねッ!!」
そう吐き捨てて、ケビンは去っていった。
「あーあ……どうしよ……」
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