雨の降る街で。

@akiysd515

第1話 とある男の観察日記①

東京駅を飛び出した寝台特急は、ひたすら上に、宙の方へと登っていく。


「次の駅は、月面、セレネでございます。到着予定時刻は13時35分となっております…」

アナウンスが流れ、四両編成のこの宇宙に比べればチリほどの大きさの列車がフッと浮き上がった。


「何度体験しても慣れないものだな。」

彼がボソッと呟くと列車は30年前の大事故で出来上がった分厚い雷雲の中に入った。

大きな揺れがあったが問題はない。

いつも通りだ。

彼は腕時計に目を見やる。


2168年8月27日 9時48分


「そうか、もうそんな時期か。」


彼が窓の外に目を移すともう東京はおろか、地球の外型がわかるところに列車は達し、眼下には真っ白く覆われた地球があるのみだあった。


「『地球は青かった』か、今となっては真贋を疑う話になってしまったな。」


禿げかけた白髪を撫でながら言うと彼は静かに息を止め、30年振りの雨の降らない夜空に安心したのか、静かに、静かに最後の夢を見た。


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