第181話 これは……。

アラームで朝が来た事を知った。

夜中のアラームで目が覚めなかったようで警護用のキングさんは消えていた。

油断したぜ、ここが本当にセーフティゾーンで良かった。

ステータス画面でHPバーとMPバーを確認する。

どちらもバーは100%だ。

しかし疲れが取れているようには思えない。

ああ、今日はこのまま一日ゴロゴロしたい。


レッサが少し離れた所に設置したトイレから戻ってきた。

キックがもそりと起き上がりトイレへと向かった。

キシェとナオリンはもう身支度を済ませていた。

皆んな元気だなぁ……、若いって素晴らしいね。羨ましい。

トイレを済ませたキックが心なしかヨレヨレと戻ってきた。

うむ!心の友よ。(同年代だよな)


「はぁぁぁ、よっこらしょっとぉ」


俺が掛け声と共に身体を起こしたところにナオリンがやってきた。


「おはよ、カオさん。はいこれ朝ご飯」


ナオリンはアイテムボックスからやまと屋印の弁当を取り出して俺に渡してくれた。

あ、まだほんのり暖かい、焼いた卵サンドだ。俺が一番好きなやつ。


「すまんな、ありがとう」


「ふふふ、あっちゃんから預かってた。寝起きが悪い時はこれを渡せって。あと、これ」


そう言ってナオリンは自分のスマホに撮ったマルたんとイッヌたちの画像を俺の目の前でスライドしていった。

うお!よっし!今日も頑張るぜ。

俺は正座をしてサンドイッチをバクバクと完食した。



さてと、いよいよ地下ダンジョンのボス部屋か。

今回はボスの顔が拝めればよい。

だが、出来れば討伐したい。

恐らく地上ダンジョンと同じようにセーフティに飛べるメダルを貰えると踏んでいる。


ボス部屋の扉の前で各自確認をする。


「今回は帰還スクロールではなくメダルで22Fへ戻る、全員メダルの準備を怠るな。それと行けそうならカオの合図でボスに一矢当てるぞ。弓を肩にかけておけ、矢はすぐに出せる場所に」


「兎に角全員無事に帰還するのが第一だ!弓矢は俺が合図してからだ。メダルを持った状態で居てくれ。」


「はい」「はい」「ええ」

「カオ、行けるか?踏むぞ?」

「おう!」


『B1』の扉が開く。

サモン(KBB)を三体連れた俺とレッサが、直ぐ後ろにキシェ、キック、ナオリンが続く。



40Fのボス部屋より広い。

ボスはどこだ?

部屋の中央に目をやっていたが、ボスは中央よりもっと向こうから滑るように突進してきた。

体長10メートルのバジリスクよりもっと小さい、3、4メートルくらいか?

赤黒い肌の…、人型、俺は慌ててロングボウで射った。

矢は弾かれてしまったが、三体のKBBがボスに向かっていった。


ボスに1番最初に辿り着いたKBBが何の攻撃も出来ずに掴まれて固まっている。

ステータスの画面を見るとKBBの一体のHPバーが凄い勢いで減っていく。

ヤバい、マズいぞこれは!


「皆!帰還だ!メダルで22へ飛べ!」


「え?」

「え…」


「早く飛べ!飛べ飛べ飛べ!」


キックがシュンと消え、続いてキシェとナオリンが飛んだ。

レッサは俺が頷くのを見て飛んだ。

俺もメダルの22Fを選択した。

飛ぶ寸前に自分カンタマが発動したのが見えた…、何かの魔法攻撃を受けて弾いたのか。

間一髪。


ダンジョンの22F、冒険者で賑わう通路に出た。

サモンは付いてこなかった。

いや、付いてこれなかったのか。

ステータス画面を見るとKBBのHPバーは一本も残っていなかった。

サモンは全滅したようだ。

俺は衝撃でカクカクと膝が笑い出した。

何だろう、いつでも何となく大丈夫とタカを括っていた。

頭から冷や水をかけられた気がした。油断するな、と。



「一旦ギルドに戻ろうか」


レッサの声で我にかえり頷いた。

エリアテレポートでギルドへ、ゴルダの元へと向かった。


ゴルダは入ってきた俺たちの顔色を見て察したようだ。

直ぐに2階の応接へと案内された。


レッサからの報告の後、俺らは地下ダンジョンで拾った物を机の上に出した。

地上ダンジョンに比べるとかなり少ない。

各フロアを走り抜けただけだし、拾えない場所もあった。

それから昨夜セーフティゾーンで寝る前に書いた『各フロアの魔物一覧』、最後のB1はブランクだ。


「ボスは不明…か」


「ああ、スマン。かなりやばかったので直ぐに撤退した。何か赤黒い……」


「あ、コイツです」


キックが横からスマホの画面を見せた。

驚いた、あんな場面でもスマホで撮影をしたのか!


「大きさは4メートルくらいだろうか」

「ええ、そのくらいだったわね」


俺もキックのスマホを覗く……、このモンスター、何だっけ名前。

ゲームでまだクランの皆と狩りに行ってた時に見た気がする。

どっかの塔の上の方にいたやつ。

デス、デスナイトじゃなくて、カスパー、メルキ何とかでも無くて。


あ、デーモン。


「デーモンだ。確かデーモンだったと思う。こいつがデーモンなら俺やサモンよりもレベルは上だ。俺らには倒せない」


ゴルダやレッサたちが俺を見る。


「帰還した時にサモンが戻ってこなかったろ?あっという間にデーモンにKBB三体がやられた。あれ以上いたら俺らもやばかった。悪いがボス討伐のドロップどころか弱点もわからん」


「いや、良い判断だ。お前達を失ってまでダンジョンの情報が欲しいわけではない。ここまで到達してくれただけでもありがたい。今日はもうゆっくり休んでくれ。今回の報奨は後日渡す」



キック達は開拓村に戻らず暫く街に滞在すると言うので一緒に家に帰った。

部屋で着替えてマルたんを抱えて昼寝をした。

午後に風呂が沸いたと起こされて、風呂に入った後また昼寝をした。

夕方頃に腹が空いて目が覚めた。

漸く身体がスッキリしたようだ。


「たぶん緊張が続いていたから神経が疲労したんだね。カオくんは肉体労働や集中する作業とかは割りと平気なのに、緊張に弱いよね」


山さんから言われた。


そうかも知れない、俺は昔から緊張しいだからな。

小学校の6年間、ずっと出席の返事の声が裏返ってたのは俺だけだった。

中学で出席取りがなくなってどんなにホッとした事か。



俺は明日からまた弁当屋の仕事に戻るが、キック達は開拓村には戻らずギルドの依頼を受けるそうだ。

昨日はこの家に泊まったが、今日から宿屋に移るそうだ。

実は押尾さんと西野さんもこっち(街)に来ていてランク上げのために4人でギルドの依頼を受けるそうだ。

安田さん達も来ているらしい。

女神像でテレポートスクロールを作成したり、村で採れた物を市場で売ったり、買い物をしたりと皆前向きに頑張っているみたいだ。


そう言えば、先日ユイちゃんから聞いたのだが女神像で渡辺さんと大山さんに会ったそうだ。

ふたりはスラムに住んでギルドの依頼(街の中の仕事)を受けてようやくランクDに上がったと喜んでいたらしい。

ユイちゃんがふたりとフレンド登録をしたと話したら、山さんが机やロッカーが残ってるみたいだから渡そうと言う話になったそうだ。

アイテムボックスが無い人間が机を貰っても持て余すだろうが、今は女神倉庫に入れておけるからな。


ユイちゃんにふたりに連絡を取ってもらい、山さんが女神像で落ち合ったらしい。

ふたりは何度かやまと屋に弁当を買いに来た事があるそうだ。


「何で声かけてこなかったの?」


「いや、俺たち……、前住んでたとこ、の、乗っ取り犯…の仲間だし。また乗っ取りに来たって、思われるだろうなって。だからフードで顔隠して弁当買って、すぐ帰りました…」

「あの、あの時はすみませんでした。本当はちゃんと皆んなに、あと鹿野くんにも謝らないといけないんですが…」

「俺たちちゃんと稼いで自分達で家を借りたら、それから謝りに行こうって決めてて…」

「あ、でも、机とロッカーありがとうございました!」


「うん、そっちの女神でスクロールとか作れるよ」


「はい!ありがとうございます」


「無理せずに頑張ってね」


「「はい!」」


って事があったそうだ。

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