第167話 とりあえずゆっくりしたい

40F』のボスを倒した俺たちはダンジョンの外、地上にテレポートさせられた。

地面には報酬の金貨が入った袋、それとダンジョン内のセーフティゾーンへテレポート出来るメダルの付いたペンダント。

ペンダントはKBB以外の全員が貰えたようだ。



「ゴルダ…さん、ここは…危ない」


コミュ症気味なキックがゴルダにかけた声で我にかえった。


「マップ…」


すぐにマップを見ると割と近くに赤い点があった。

樹々に隠れてよく見えないが魔物がかなり近くまで寄って来ているようだ。


「ゴルダ、魔物が寄って来てる。とりあえず中に入ろう。22Fはダンジョンの魔物はいないし中までは外の魔物も入ってこないと思う」


「ああ。皆んな中へ」


俺たちは慌ててダンジョンの中に入り扉を閉めた。

22Fの通路はKBBには狭いのでサモンは返還で消した。



俺は22Fの通路の天井に照明魔法を放った。



「この後、どうするんだ?」


「うむ…」


今日はボス部屋しか行っていないのでまだ昼にもなっていない。

時間的には余裕だが、数日間のダンジョン攻略で皆疲れている。

『21F』以下も気になるが、出来れば戻りたい。



「今回は、ダンジョンの地図作成が目的であった。行けるとこまで、と思っていたがまさか最上階のボス部屋まで行けるとはな。確認が必要な事は多々あるがとりあえず街に帰還しよう」


「おおう」

「助かる」

「ふぅぅ、疲れましたね」


「ただし、帰還前にいくつか確認したい」


「え…」


「まずこのメダルだ。30F、39Fに飛べる事を確認する」


「ああ、さっきのメッセージ」

「移動先を…ってやつ」

「21Fは?」


「今日は降りん」


「え?何でだ?確認だけなら降りてみては」


「このメダルがダンジョン内の移動魔法なら21Fからここ22Fには戻る階段は無いと思う」


「でも階段がなくても戻る時はメダルで22Fを選べばいいじゃないか?」


「迂闊に21Fへ飛んで敵と遭遇した場合を考えると、やはり21Fへは後日体制を整えてからにしたい」


「まぁ確かに。すぐ後ろに階段があるのと無いのとじゃ、安全性も変わってくるな」


「これ、ダンジョンの中でしか使えんのかな」

「ダンジョンの外からでも使えるか試してみる?」

「あと街に戻ったら街からでも使えるか試したいな」


「ふむ。そうだな」


「それと39Fに行ったら40Fのボス部屋がどうなったか確認したい」


「ああ、俺たち倒しっぱで飛ばされたからな」


ボス部屋はあの後どうなったんだろう。

小説だと何度もボスが復活するパターンと、ボスは一回しか出ないパターンがある。

だが、ボスの討伐報酬で39Fへの移動可能なメダルが出たって事は、ボス部屋の一階下へは何度も来れる、つまりボスは復活しているパターンが100%だろう。

あとはボス復活の時間だな。

即復活なのか、例えば1日1回のみか、まぁその辺は後日ゴルダが確かめるだろう。

俺はしがない弁当屋だからな。

もう一度言う。弁当屋だからな!



「でも40Fの扉を開けたらまたボス戦がスタートしないか?」


「ああ、だからカオには悪いがもうひと頑張りしてもらう。さっきの召喚獣をもう一度出せるか?」


「出せる…けど」


俺はしがない平和を好む弁当屋なんだけど…。



「ヤマカー達はここに居てくれ。星影は一緒に来てくれ」


「おう」

「わかったわ」


「メダルでまずは30Fだ」

「ほい」

「ああ」

「わかった」

「ええ」


まずはメダルを使って30Fのセーフティゾーンに飛んでみた。

うん、魔法のテレポと同じ感じで瞬時に飛べた。

あの広いフロアに出た。

扉の外に出て壁を見ると30Fと文字があった。

階段は下へ向かっていたので降りないけど29Fがあるのだろ。

向こうの角の壁の扉を開けると上へ行く階段があった。



「星影の3人はここから39Fへ飛んでくれ。俺とカオは階段から飛べるか確かめる」


ゴルダはそう言うと俺を従えて31Fへ上がる階段の中ほどまで来た。

そこでメダルを使い39Fへ飛んだ。

星影の3人もいた。

メダルはフロアの中でも階段の途中でも使用可能だった。


俺はそこでKBBを再度召喚した。

ゴルダ、星影の3人、俺、KBB3体で40Fへの階段を登った。

ゴルダが扉の前に立つと扉は左右に開いた。

そこから広場の中央を見る。


いた。

バジリスクは復活していた。

『ボス討伐後は即復活』パターンか。


ゴルダが一歩下がると扉が閉まった。

ふむ、入らなければボス戦は開始されないって事か。



そして俺らはメダルで22Fへ戻り、山さん達と合流して街へと戻った。

帰還スクは数が限られていて勿体無いので俺のエリアテレポートでギルド中庭まで皆を連れて戻った。


ギルドの裏から入り、ちょっ広めの会議室のような部屋に案内された。

そこで俺らはアイテムボックスに入れておいたダンジョンから出たドロップ品をテーブルの上に全て出した。


首にかかっていたメダルのペンダントを外してテーブルの上に置いた途端に、ペンダントは自分の首に戻ってきた。


「あれ?これ、外しても戻って来ちゃいますね」

「えーなにこれ、外せない?はずせるけど置けない???」

「まさか、呪われたペンダント…」


「いや、おそらく取得者専用のアクセサリーなんだろう」

「ああ、ドロップしても売れない、渡せないってやつか」


「ええ!じゃあ一生ペンダントしたままなの?」

「ナオリン、嫌なのか?」

「だってぇオシャレなドレスとか着た時もコレぇ?ないわぁ〜」


なるほど。女子はそうか。


「あ、アイテムボックスに入りますよ?」


キック、さすがだな。

キックはすでに首からペンダントを外してアイテムボックスに収納してみたようだ。


それを見たリザイアが自分の首のペンダントを外してウエストポーチに入れた。


「あら、ポーチにも入るわね」


フィルがペンダントを背中のバッグに入れた。


「おお。バッグに入るぞ」


フィルがバッグを床に置いた途端、彼の首にペンダントが戻ってきた。


「身体から離すとダメなのか」


ほお、不思議アクセサリーだ、さすがダンジョン産だ。

それを見ていたゴルダの眉間にはまた皺が寄っていた。


「他人に譲渡出来ないと言う事か。セーフティゾーンを行き来する為には一度はボスを倒さんとならん。

なるほど、低ランクの者が無理を出来ないようになっているのか」


「あ、でも、僕らは低ランクだけどメダル貰っちゃいました」

「確かに俺らもボスを倒してないもんな。ケービービーだっけ?

カオの召喚獣が倒したオマケで貰っちまったからな」


それを言ったらWIZなんて常にサモンのオマケみたいな存在だからな。


「とりあえず今日は解散とする。皆、ご苦労だったな。報酬の分配や今後の相談で数日後にまた集まってもらうのでその時はよろしく頼む」


「はい」

「おう」

「オツカレー」

「お疲れさまです」

「お疲れさま」

「お疲れさん」

「…お疲れ…まで」


星影の3人は定宿に帰って行った。

俺たちは弁当屋の自宅に帰った。

ダンジョンに泊まったのは2泊なのだが、内容が濃かったので10日ぶりに戻った感じがした。

キックとナオリンも今夜はうちに泊まる。


時間的にまだ昼前なので、弁当屋の店は開店中だった。

店はあっちゃんやヨッシー達とダン達、それから教会の子ども達もかなり頑張ってくれたようだ。


「ただいまぁ」


俺、山さん、キック、ナオリンの4人がリビングに入ると、ちょうどそこにマルクを抱っこしたユイちゃんがいた。

マルクは俺を見つけると宙を泳ぐように身体をバタつかせて俺の方に来ようとした。


「はい!手と顔を洗ってー 服も着替えてきて」


腕の中でジタバタしているマルクをギュッと抱えたユイちゃんの横からあっちゃんの厳しい指導が俺らに入った。


「イエッサー」

「はい」

「かしこまりました!」

「…はぃ」


俺たちは踵を返し裏庭の洗面所に向かった。


2階の自分の部屋で着替えて廊下に出たらそこにマルクがいた。

両手を上げて抱っこをせがんできたので抱き上げた。


「マルたん〜 ただいまぁ」

「おかーりー」


「マルたん、階段を登れるようになったんですよ。ゆっくり一段ずつですけど、あとペルちゃんの補佐ありで、ですけど」


「おおぅ それはすごいなぁ」

「マウたんね おにかい いけるの」


「そっかそっかぁ、ちょっと見ないうちにマルたんが大人に…」

「いえ、大人にはなってないですよ。あと、たった3日ぶりですから」


ユイさんや、厳しいツッコミありがとう。


「カオさんが留守の間、何度も2階に探しに行こうとして頑張って階段登ってましたよ」


「えらいぞぉ、マルたん。でも危ないからひとりで2階に来ちゃメッだぞ?」

「ん」

「必ず誰かついてますから、あとペルちゃんとかクラちゃんも」

「そっかぁ。エンカはドーベルマンだから毛足が短くてマルクには掴まり辛いだろう」

「そうなんですよ、だからエンちゃんは裏庭番が多いかな?」



それから俺たちは少し早い昼食を摂り、その後は夕方まで少し昼寝をする事にした。

俺はマルクと手を繋いで2階へ上がり自分の部屋へ戻った。

シェパードのクラたんが一緒に部屋へ入ってきたので3人…いや2人と1イッヌで昼寝をした。




-------その頃のリビング-------


「ダンジョンの話、聞きたいなぁ」

「子供らも聞きたがってましたね。我慢してたけどカオさんの事をチラチラ見てましたね」


「あれ?マルクは?」

「カオさんと一緒にお昼寝」

「ああ」

「マルクはカオさんによく懐いてますね」

「何でだろ?カオるんは独身なのに」

「あれかな?カオっちは〜動物と子供に好かれるタイプ?」

「ああ、犬達も懐いてるもんな。てか、もとからカオるんの犬だけどな」


「教会から小さい子らが遊びに来るとマルクがカオっちから離れなくなるの」

「そうそう。カオさんの方に子供が近寄ると取られまいとしてよじ登ってしがみついてる」

「お母さんと思ってるのかな…」

「男なのに?」

「お母さん的な、お父さん?」

「独身なのに…」

「まぁ、ああ見えて頼りになるし、カオさん」

「ああ見えてとか!プッ いや、俺らも頼ってるよな。うん」

「カオさんは皆んなのお母さんだから」

「独身でオジサンだけどな」


「カオさんにしがみつくマルクを見ていると……ルルどうしてるんだろう」

「え? るるって?」

「あ、すみません。息子のシャルルが2歳でちょうどマルクくらいなんですよ。見てるとつい思い出しちゃって」

「ああそっか。確かお子さんおふたりでしたっけ」

「ええ、上の子は女の子で5歳のクロエ、下が2歳でシャルル。妻がフランス人なのであちら風な名前にしたんです」

「ヨッシーのとこは女の子2人でしたっけ?」

「おう、うちは綾香(あやか)と陽菜(ひな)。10歳と7歳だ」

「どうしてるんでしょう?こっちのどこかにいるのかな?」

「王都とか他の村にいるんだろうか?」


「俺らが仕事中に職場ごとこの世界に来たって事は、綾香達は小学校のクラス毎こっちに来たんだろうか?4年生と1年生だと別々になっちゃったか。陽菜と綾香は一緒にいてほしい」

「うちはクロエだけ保育園だから、シャルルと妻は一緒としてもクロエは別で泣いているかもしれない。パパが探しに行けなくてごめん…」


そう言って下を向いて涙を流すユースケと目元ゴシゴシと擦るヨッシーだった。

あっちゃんユイちゃんも鼻を啜っていた。




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次回から閑話が2話とリストが1話続きます。

本筋に戻るのは171話からです。

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